第41話 レクイエム
「……はぁ。話が通じねぇ……こりゃ、もう救いようがねぇな」
シュンリンが頭を抱え、低く唸った。
燃えるような赤いツインテールが揺れ、赤金色の大きな瞳が呆れ果てたように細まる。
「ええ、無理ですわ。こんな方たち。見ていて恥ずかしくなりますの。悠真、もう行きましょう。こんなところに長居しても、気が滅入るだけですわ」
アイリスの気品ある声音にすら、露骨な侮蔑が滲んでいた。
金色の狐耳が逆立ち、蒼い瞳が冷たく細まる。
アウラも静かに頷いた。
猫耳を立てたまま青灰色の瞳が、悠真を促すように向けられている。
無言のままホウキは太刀の柄から手を離し、静かに悠真の隣に並んだ。
シャルルは長く細い耳を上げながら、翠色の瞳で悠真の背中を見つめる。
そして彼は、ゆっくりと目を閉じ、そして頷く。
「……ああ、行こうか」
そのまま樟葉たちに背を向けて歩き出す。
背後ではなおも怒声が飛び交うが、悠真は振り返らず、静かに歩を進めた。
だが、数歩進んだところで、その足が止まる。
壁の隙間から、魔石灯の青白い光が差し込んでいた。
その光が悠真の漆黒の外套の背を静かに染めている。
「……ちょっと待っててくれ。やるべきことを成してくる」
罵声が飛び交う中、ゆっくりと彼は振り返った。
視線が広場の一角へと向かう。
血を流して倒れたままの騎士たちの遺体。
レオノーラ、アナスタシア、リディア、アイラ──かつて自分たちに、この世界の戦い方を教えてくれた女性たちが、冷たい地面の上に横たわっていた。
粉々に破壊された鎧、陵辱の限りを尽くされて内臓や骨が剥き出しの肉体、今や閉じる事が叶わない瞳。
ゆっくりと彼女たちの元へと悠真は歩み寄った。
「……おい、てめぇ! 無視すんじゃねぇ!」
樟葉が叫ぶ。だが彼は振り返らない。
遺体の前に立ち、悠真は静かに膝をついた。
漆黒の外套が地面に触れる。前髪が目元にかかり、茶色の瞳が静かに閉じられた。
「……お世話になりました」
それだけ呟いた。飾りのない、短い言葉。
そして、ゆっくりと立ち上がり、デッキケースへと手を伸ばす。
取り出したのは、これまで一度も使ったことのない、一枚のカードだった。
その淡く金色に輝くカードには、白い装束を纏うビキニメイドが描かれており、その周囲には無数の光の粒子が舞う。
「魔術カード──聖廟のビキニメイド・レクイエム」
悠真の足元に、魔法陣が静かに広がった。
青白い光ではなく、温かみのある金色の光が円形に広がっていく。
その光が横たわる騎士たちの遺体へと、ゆっくりと伸びていった。
一軍の男子と女子の罵声が、ぴたりと止む。
光が全ての遺体を、優しく包んでゆく。
痛みも、傷も、汚れも──すべてを溶かすように金色の光が広がる。
破壊された鎧の破片が、乾いた血が、切断された四肢が、次第に光の粒子へと変わっていった。
レオノーラの燃えるような赤髪が、ふわりと光の中で揺れる。
アナスタシアの氷のような白髪が、静かに光を纏う。
リディアの柔らかく波打つ銀髪が、穏やかな輝きに包まれた。
アイラの明るい栗毛が、最後に一度だけ風に揺れるように光を放つ。
そして、ミリエル、ヴァネッサ、ルシアも、一人ずつ静かに光の粒子へと昇華されていく。
無数の金色の粒子が、天へと向かって舞い上がる。
まるで蛍の群れのように、まるで星屑のように、その光は静かに、確かに上へと昇っていった。
誰も言葉を発しない。
一軍の男子と女子も、口を閉ざしたまま、その光景を見つめていた。
麗華が目元を手で覆い、鈴音が唇を噛みしめる。
樟葉は深紅の瞳で光の粒子を追いながら、何も言えずにいた。
金色の光が廃墟を満たし、やがて静かに消えていく。
地面には何も残っていなかった。
ただ、温かみのある残光だけが、しばらくの間、その場に漂う。
悠真はデッキケースへとカードを戻し、ゆっくりと立ち上がった。
漆黒の外套の前を静かに整え、一軍の男子と女子たちへと振り返る。
「……最後に一つ、言っとく」
その声音には、微かな皮肉が混じっていた。
前髪が目元にかかり、その奥の茶色の瞳が、全員を静かに見渡している。
「お前らは今、現実から目を逸らしてる。力のなさも、無知も、判断ミスも、自分の弱さも……全部、人のせいにして八つ当たりしてる。いい加減、大人になれよ」
そして口の端を僅かに吊り上げて右手を軽く振る。
「次は、誰も来てくれないかもしれないぜ?」
その一言を残し、悠真は仲間たちと共に、その場を後にした。
背後の怒声が、壁に反響しながら、次第に遠ざかっていく。
彼は一度も振り返らない。
ただ、金色の残光だけが、そこにしばらく漂い続けていた。
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