第39話 一軍の男子と女子は彼を標的に
「……アタシはもう限界だ。早く決めてくれ、悠真」
シュンリンだけが、燃えるような赤いツインテールを揺らし、拳を握り締めていた。
赤金色の大きな瞳が、目の前の男たちを射抜いている。
悠真は前髪の奥で、茶色の瞳を静かに細めた。
(助ける価値があるかどうかなんて関係ない。あいつらが俺にしたことを、俺はまだ覚えてる。許してもいない。だが……このまま見ていることは、できない)
静かに腰からデッキケースを引き抜く。
その表面を撫でる指先には、もはや迷いはなかった。
「──行くぞ」
その一言に、五人が同時に動く。
「簡易領域能力──クイック・デュエル・フィールド!」
悠真の足元に、魔法陣が炸裂するように展開され、青白い光が円形に広がる。
デッキケースが輝き、カードが空中へと射出された。
「召喚──ビキニメイド・フレイムダンサー! さらに即時魔術──緊急召集・エマージェンシー・サモンでビキニメイド・サンダーヴァルキリーを特殊召喚!」
魔法陣から二体の美女が実体化する。
炎を纏った紅蓮のビキニアーマーを身に纏い、両手に炎の短剣を構えた細身の女性。
そして雷を纏った金色のビキニアーマーを着込み、手に電撃の槍を携えた長身の女性が、悠真の左右に整列した。
「な、なんだ……!? カード召喚なんて聞いてねぇぞ!」
怯えた冒険者が叫ぶ。
「くそっ……逃げ──」
「逃がすかよ。フレイムダンサー、突撃!」
炎の渦が足元に巻き起こり、紅蓮の短剣が閃いた。
冒険者の胸部を貫き、その巨体が数メートル後方へ吹き飛ぶ。
「サンダーヴァルキリー、援護しろ!」
金色の槍が雷鳴と共に振り下ろされ、逃げようとした別の冒険者を地に縫い止めた。
そして刹那、ホウキの太刀が鞘走りに空を斬る。
「悪逆を働く者よ……冥府への道、拓いて差し上げましょう」
一閃。桜花の魔力が刃に纏いつき、二人目が倒れた。
「敵、十五。三手に分かれて制圧する。全員、命令を待たず即応せよ」
アウラが低く告げ、銃を構えて地を蹴る。
デッドアイ・シュートの魔眼が発動し、弾倉に七発の魔弾が装填された。
引き金を引くたびに、音速を超えた弾丸が正確に敵を貫いていく。
「さあ、始めましょうか。シルヴェスター家の剣の重み、とくと味わいなさいな」
金色の狐耳を立て、アイリスは幻影の反逆を発動する。
三体の彼女が三方向から同時に冒険者へと迫り、レイピアが急所を正確に貫いた。
「豊穣の賜り物──千荊縛鎖!」
シャルルが長杖を振るい、無数の茨の蔓が、冒険者たちに絡みついていく。
棘が肌に食い込み、毒が滲み出した。長く細い耳が立ち、翠色の瞳が静かに輝いていた。
「野蛮な破壊──行くぞォッ!!」
シュンリンが吠える。
燃えるような赤いツインテールを振り乱し、龍化第一段階の鱗が両腕に浮かび上がった。
硬質な爪の拳が冒険者の顔面を粉砕し、その巨体が地面に叩きつけられる。
もはや、敵に成す術はなかった。
血と魔力と茨が混じり合う地獄のような光景の中、悲鳴が幾重にも重なり、肉が裂け、骨が砕ける音が廃墟に響き続ける。
やがて、最後の敵が倒れ、広場に静寂が戻った。
残るのは血の匂いと、無残に転がる冒険者たちの姿。
悠真はデッキケースを、静かに外套の内側へと戻しながら、広場の中央に視線を向けた。
縛られたままのクラスメイトたち。血と泥にまみれた騎士団の面々。
誰も彼に礼を言わなかった。言える状況でもなかった。
だが、それでいい、と悠真は思う。
茶色の瞳が、静かに、どこか遠くを見ていた。
「……悠真くん。あの子たちを縛る縄、解いてもいいんだよね?」
戦いを終えて直ぐに、シャルルは問い掛ける。
悠真は黙って頷いた。
シャルルが一人ずつ縄を解いていく。
長く細い耳がゆったりと揺れ、翠色の瞳が静かに作業を続けていた。
魔力封じの縄は硬く、解くのに時間がかかる。
「全域、制圧済み。周囲に敵影なし」
アウラが短く報告を入れる。猫耳を前方へ向けたまま、銃を構えながら視線を巡らせていた。
縄を解かれた一軍の男子と女子たちは、戸惑いながらも立ち上がる。
その足取りは覚束なく、衣服は破れ、顔や腕には無数の傷と痣が刻まれていた。
鈴音の顔面には殴打の痕が紫黒く広がり、麗華は足を引きずりながら歩く。
奏恵は瞳に焦点が合っておらず、ぼんやりと虚空を見つめていた。
そんな中で、真っ先に悠真を見つけたのは樟葉である。
色素の薄い銀髪が乱れ、そして深紅の瞳が──彼の姿を捉えた。
漆黒の外套に返り血が乾きかけた悠真の姿は、以前のクラスの中で見かけた時とはまるで違う。
表情は無機質なまでに静まり返り、茶色の瞳が静かに前を向いている。
「……悠真、だと?」
樟葉の声に反応して、他のクラスメイトたちも彼を見た。
瞬間、その場の空気が変わる。
驚愕と、警戒、そして拒絶。麗華が、震える声で言った。
「な……なんで、あんたがここに……。うそ、でしょ……?」
水色のツインテールが乱れ、丸い水色の瞳が揺れている。
「……ちっ、もっと早く……助けに来いよ……無能が……」
鈴音の口元が歪む。ワインレッドの髪が乱れ、赤金色の瞳に怒りが浮かび上がっていく。
「なぜ貴方がここにいるの……っ。オタクに助けられるなんて……虫唾が走りますわ」
「……お前に助けられるくらいなら、あのまま死んでた方がマシだったかもな……」
その言葉を皮切りに、周囲からざわめきが広がる。
悠真は沈黙を貫いた。
揺れる視線を真正面から受け止めながら、言い訳も弁解も一切しなかった。
そして、その場にいた全員が静まり返る中──樟葉が一歩、また一歩と彼に歩み寄っていく。
その歩幅は遅く、だが確実に間合いを詰めていた。
そしてついに、真正面に立った樟葉は、ためらいなく悠真の漆黒の外套の胸倉を掴み上げる。
「てめぇ……ふざけんなよ」
その手は震えていた。
怒りによるものなのか、悔しさなのか、判別できない。
彼は微動だにせず、ただ樟葉を見据えたままだった。
「なんでだよ……なんで、もっと早く来なかったんだよッ!」
怒声が空間を揺らすように響いた。
「もっと早く来てりゃ……っ、騎士団の人たちが、あんな目に遭わずに済んだかもしれねぇんだぞッ! 麗華も、鈴音も、姫香も、どんな顔して泣いてたと思ってんだよッ!」
涙をこらえるように、樟葉の歯が鳴る。
「あの人達はな……俺たちを守るために、最期まで戦って、血だらけになってたんだよ! そいつらがどんだけボロボロだったか、てめぇ見てねぇだろ!? 知らねぇだろッ!」
その叫びには怒りだけではない、恐怖と無力感が入り混じっていた。
拳が震え、悠真の胸倉を掴んだまま、樟葉の深紅の瞳からは一筋の涙が落ちる。
彼はそれでも、何も言わない。
ただ黙って、樟葉の怒りを受け止めていた。
その沈黙が、かえって周囲の不信と憎悪を焚きつける。
「どうせ、あたしたちがどうなっても関係ないって思ってたんでしょ!? 昔からそうじゃん、誰とも話さないで一人でカードとかやって……!」
鈴音が叫ぶ。
「キモいからって無視してたのはあたしたちだけどさ! でもっ、でもだからって、こんな時くらい助けてくれたっていいじゃん……!」
麗華も続いた。水色のツインテールが揺れ、丸い水色の瞳から涙が溢れている。
「…どうして……どうしてもっと早く、ここに……」
姫香が震える声で呟く。黒紫の髪が乱れ、深い赤紫のワインレッドの瞳が揺れていた。
その場に立つ仲間たち──ホウキ、シャルル、アウラ、アイリス、シュンリン──は、言葉を発せず、ただ悠真の背後に立ち続ける。
まるで盾のように、まるで壁のように。
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