第35話 陵辱される女騎士たち
「うわ、マジで縛られてんじゃん……」
呆れとも困惑ともつかぬ声を漏らす悠真だが、その内心は驚愕と緊張に満ちていた。
「くっ……このような卑劣な真似、貴様らには誇りというものがないのか!」
そう叫んだのは、レオノーラである。
燃えるような赤髪が乱れ、縛られているにもかかわらず背筋は曲がっていない。
副戦士長としての矜持が、その声に滲んでいた。
「ひゃっはー!おうおう、威勢がいいねえ。もうちょい声張れよ、聞こえねえぞ」
それに対して口汚く嘲笑を浴びせるのは、ゴールドランク以上と見られる屈強な冒険者の一団。
全員が皮鎧や金属片で雑に補強された装甲を纏い、裸の胸元には古傷や刺青が刻まれている。
髭面の男、坊主頭の大男、片目を潰した男──どいつもこいつも見るからに物騒で、理性というものをとうに投げ捨てたような笑みを浮かべていた。
悠真は目を細めながら、被拘束者たちを改めて見渡す。
かつて自分を見下し、邪険に扱ったクラスメイトたち。
だがそれと同時に、異世界での戦い方を教えてくれた顔見知りの騎士たち。
今は全員が歯を食いしばり、涙を堪えていた。
反抗する者はいない。
いや、正確には反抗できなかったのだろう。
──死角からの奇襲か、それとも人質を取られたか。
どちらにせよ反撃の機を持たせず、一気に制圧されたのは間違いない。
「……どうする、悠真」
アウラが低く問いかけた。
猫耙が鋭く前方へ向いたまま、青灰色の瞳が悠真の答えを待っている。
「──まずは、様子を見る」
彼の一言に、仲間たちは頷いた。
それぞれが伏せの姿勢を保ち、周囲の警戒を強める。
敵の一団は、明らかにゴースティングの常習犯だ。
人質に手を出す素振りは見せていないが、その動きには余裕と残虐性が滲んでいる。
そして悠真は改めて確認した。
すると新たな事実が発覚する。それはずばりラヴィニアがいないというもの。
白銀の戦士長の姿が、どこにも見当たらないのだ。
あの深紅の瞳と黒と赤の軍装が、この広場のどこにも存在しない。
隊長不在──それがこの状況を生んだ最大の要因だろうと彼は直感した。
「く……貴様ら、恥を知れ……!」
中央広場から、レオノーラの怒声が上がる。
燃えるような赤髪が乱れ、副戦士長としての矜持が声に滲んでいる。
破壊された胸部装甲の隙間から白い肌が覗き、薄い下着だけが露出していた。
「我ら王国騎士が、こんな……っ、こんな無様な……っ! 隊長さえいれば……!」
彼女の瞳には怒りと羞恥がないまぜになった感情が宿っている。
「……はん、なにが騎士様だよ。剣も握れねぇくせに。今のお前らは、ただの見世物だぜ」
しかし、その発言に男たちは嘲るように笑い声をあげ、踏みつけるように足元を蹴りつけた。
悠真の眉が、ぴくりと動いた。
漆黒の外套の内側で、無意識にデッキケースへと指が伸びる。
敵は圧倒的だ。
人数、装備、連携──どれを取っても一級品。
しかし──このまま見過ごすなど選べるものか。
(だが今は動くタイミングじゃねえ。全員生きてるなら……絶対に全員助ける。その手段が整うまで……一歩も、動けねえ)
悠真の背後で、風が僅かに吹いた。廃墟の隙間から、砂埃が静かに舞い上がる。
茶色の瞳の奥で、何かが静かに燃え始めていた。
「ちっ、流石に状況が……悪すぎるな」
彼の隣で伏せていたアウラが小さく唸る。
「下手に動けば、人質は即座に殺される。こちらに気づいていないのが唯一の救いだ」
帝国軍の制式制服を一分の乱れもなく身に纏い、鋭い視線を失わぬまま言葉を返す。
「おい、そこの嬢ちゃん。顔が良いな。騎士って言っても女には違いねえんだ」
冒険者の一人が下卑た笑いを浮かべながら、アイラの腕を無理やり引いて立たせた。
「や、やめてください……っ! 騎士として、王に誓って……っ!」
明るい栗毛のボブカットが乱れ、いつもの無邪気な笑顔が消えている。
澄んだ声が微かに震えていた。
男の指がアイラの残った胸部装甲の留め具に掛かる。
力任せに引き剥がすと、金属が軋む音と共に装甲が地に落ちた。
薄い白の下着だけが残り、湿気と汗に濡れて肌に張り付いている。
形の整った胸の輪郭が、布地越しにはっきりと浮かび上がっていた。
「っ……やめ……やめろォ……!」
「王だぁ? ここはダンジョンだぞ? ルールなんて俺らが決めんだよ、嬢ちゃん」
下着越しに男の手が胸へと伸びる。指先が柔らかな膨らみを無遠慮に掴んだ。
「いやああっ! 触らないで……お願い……!」
泣き声に近い叫びが広場に響く。
アイラの顔が屈辱と恐怖に歪み、縛られた手が必死に縄を千切ろうともがく。
だが動けない。
その音に冒険者たちが一斉に爆笑し、手を叩いて嘲りの声を上げた。
「畜生……」
怒気を噛み殺すように、アウラが吐き捨てた。
猫耳が限界まで逆立ち、ナイフの柄を握る手が白くなる。
ホウキは無言のまま太刀の柄を握りしめ、切れ長の黒い瞳が怒りに細まっていた。
シュンリンの額の両側の龍角が赤みを増し、硬質な爪の拳が震えている。
「……動いていいか、悠真」
彼女の声は低く、押し殺したものだ。
シャルルは唇を青ざめさせたまま黙っていたが、翠色の瞳の奥には確かな怒りが宿る。
長く細い耳が怒りに逆立ち、長杖を握る指先に緑の魔力が静かに灯り始めていた。
一歩前に出ようとする彼女の腕を、悠真は静かに掴んだ。
「……待て」
自分自身に言い聞かせるように彼は呟く。
そして無精髭を生やした冒険者の男が、獣のような目で女騎士を見下ろしている。
粗末な鎧に血の染みが残り、腰には曲がった斧。見るからに野蛮人といった風貌。
その視線の先にいるのは――レオノーラ・ガリスデイン。
燃えるような赤髪を後ろで束ねた女騎士は、拘束され仲間が辱めを受けようとも尚も男たちを睨んでいた。
「さっきの騎士様は股間に響く、素晴らしい悲鳴を上げてくれたぜぇ~。ひひっ!」
僅かに口を開けて黄色の歯を晒し、男は地面に転がる鎧の破片を蹴り飛ばす。
「さぁて、次はお前の番だ、赤髪」
「……下衆が」
無精髭男の言葉に、レオノーラは目を細くし睨みつつ短く吐き捨てた。
その瞬間――男が手を掲げ、足元に魔法陣が広がる。
「捕まえろ」
そう男が呟くと同時に、地面から無数の黒い鎖が飛び出した。
蛇のように伸びたそれは一瞬でレオノーラの手首へ絡みつく。
「なっ――!」
引き抜こうとした瞬間、鎖が強固に締まる。
そしてそのまま、彼女の腕を上へと引き上げた。
鉄が噛み合う重たく複雑な音が響く。
両腕は石柱の上部へ固定され、強制的に吊り上げられた。
「ぐっ……!」
肩が引き伸ばされ背筋が反る。つま先がかろうじて地に触れる姿勢。
露出した腹部の白い肌。鍛え上げられた太腿の筋肉。
そして――腕を上げられた体勢のせいで、腋が完全に晒されている。
そこには戦士の身体らしく、手入れされていない濃い毛が、そのまま残されていた。
汗で湿り気を帯びた剛毛が、鎖の動きに合わせてわずかに揺れる。
それに気付いた冒険者の一人が下卑た笑いを漏らした。
「おいおい……騎士様、なかなかワイルドじゃねぇか!」
視線を彼女の腋毛へと向けたまま顎で示す。
「……っ、く……この、恥知らずども……っ!」
その言葉を聞いた瞬間、レオノーラの顔が赤くなる。
腕を下ろそうとするが、鎖はびくともしない。
動けば動くほど手首に食い込み、肩へ鋭い痛みが走る。
それを見て男たちは、また下卑た笑いを漏らした。
「おうおう、まだ抵抗する力があるのか! すげぇな!」
無精髭の冒険者が、ゆっくりと彼女へと近づく。
獣のような体臭と酒の匂いが、レオノーラの鼻を突いた。
最後まで読んで頂きまして誠にありがとうございます。
宜しければ評価とブックマーク登録をお願い致します。
活動の励みとなり更新が維持出来ます。




