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「お前は戦力外だ」と追放されたカードゲーマー、伝説級レアカードで無双する ~元クラスメイトたちは没落したけど、俺は美少女パーティーとダンジョン配信で大成功しました~  作者: どすこい。お嬢様
第四章

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第33話 そして、安息地へ

「……あー、もう今日は無理だな。俺たち、ここまでだ」


 その言葉を発したのは悠真であり、誰もが何も言わずにいた数十秒の沈黙を破るような形だ。

 声の調子は平坦だが、その裏には確かな疲労と、仲間たちへの配慮が滲んでいる。

 前髪が目元にかかり、茶色の瞳に深い疲れが宿っていた。


「同感だよ。体がガタガタ……骨まで軋んでる感じがする」


 腰のポーチから魔力回復薬を取り出しながら、シャルルは長く細い耳を脱力させるように伏せさせる。

 翠色の瞳に、珍しく素直な疲労の色が浮かんでいた。


「異論はない。現状では継続戦闘より、帰還を優先すべき状況だ。悠真、貴様の判断に従う」


 短くアウラが告げる。

 猫耳が伏せられたまま、それでも油断のない構えを崩さない。

 銀灰色の長髪が乱れ、帝国軍の制式制服の肩口に血が滲んでいた。


「……私も賛成ですわ」


 金色の狐耳を伏せたまま、アイリスが蒼い瞳を細める。

 レイピアを鞘に納める手が、わずかに震えている。尻尾が力なく垂れていた。


「悠真様の御判断に従いまする」

 

 ホウキは静かに太刀を鞘に収める。

 黒いポニーテールが乱れ、和装の裾に血と煤が滲んでいた。

 切れ長の黒い瞳だけが、まだ周囲への警戒を保っている。


 悠真がシュンリンへと視線を向けた。

 燃えるような赤いツインテールが力なく垂れ、龍化の名残か、肌にうっすらと鱗の痕が残っている。

 赤金色の瞳の奥で、戦闘本能の残滓が名残惜しげに煌めいていたが、それでも意思は冷静だった。


「……帰還だ。あたしも、もう少しで限界だったからな」


 声はかすれ、口元には血の飛沫が乾いて、こびりついている。


「決まりだ」


 彼は立ち上がろうとして、膝が笑うのを感じた。

 漆黒の外套の内側でデッキケースを握り直し、ゆっくりと体を起こす。


「ところで……帰還核、持ってる奴いるか」


 全員が悠真を見た。沈黙。

 アウラの猫耳が、ぴくりと動く。


 シャルルの長く細い耳が、ゆっくりと伏せられた。

 アイリスの金色の狐耳がぺたりと落ちる。


 ホウキが静かに目を閉じた。

 シュンリンだけが首を傾げている。


「……誰も持ってないのか」


 また沈黙。


「……歩いて帰るか」


 悠真は深く、長い溜息をついた。

 数時間に及ぶ帰路は、苛酷かつ静謐なものである。


 傷を負った身体に鞭打ちながら、六人は黙々とダンジョンの通路を歩き続けた。

 魔石灯の青白い光が彼らの影を引き伸ばし、遠くの水音だけが単調に響いている。


 誰も多くを語らなかった。語る気力が、もはや残っていない。

 けれど数時間の行軍の末、彼らは実家のような安心感を覚える、安息地へと無事に辿り着いた。


「よし、ここで一息入れよう。さすがに今日は、もう無理だ」


 そう呟くと悠真は、仲間たちは即座に頷く。

 疲労は隠しようもなく、特にシュンリンの顔色には、龍化の魔力消費の色が濃く表れていた。


 安息地の大通りを抜け、六人が辿り着いたのは、いつも利用している宿”白翼の館”の向かいに構える酒場。


 芳ばしい肉と香辛料の匂いが鼻をくすぐり、天井には木製の梁がむき出しになっている。

 壁には狩猟民の絵が掛けられ、暖炉の火が橙色の光を室内に広げていた。


「皆さま、お疲れ様でございます。個室のご用意がございますので、どうぞこちらへ」


 出迎えたのは、銀髪のエルフの女給。黒いエプロンドレスに身を包み、軽く一礼する。

 悠真たちは礼を返しつつ、木製のドアを潜って奥の個室へと通された。


 八畳ほどの広さで、壁には古地図と装飾剣が飾られており、テーブルは艶やかな黒檀製。

 椅子の背もたれには獣皮が丁寧に張られていた。


 皆が、それぞれの椅子に腰を下ろす。

 悠真の隣には、自然な流れでシュンリンが座った。


 燃えるような赤いツインテールを緩く結い直し、深紅と金の刺繍が施された武道服の胸元が僅かに乱れている。


 太腿の深くまで入ったスリットから、龍化の名残か赤黒い鱗が、まだ一部残る引き締まった脚線が覗いていた。

 赤金色の大きな瞳が、じっとりと悠真を見つめている。


「ねえ、悠真……今夜は少し、多めに貰ってもいいよな?」


 囁くような声は、普段の荒々しさが嘘のように滑らかで、湿り気を帯びていた。

 彼は一瞬たじろいだが、何かを悟ったように目を細める。


「おいおい、またかよ……人前ってことくらい気にしろって」


 だが、その言葉が終わる前だった。

 シュンリンが悠真の首筋へと、するりと顔を寄せる。


 燃えるような赤いツインテールが悠真の頬をくすぐり、硬質な爪の指先が漆黒の外套の襟元をそっと引き下げた。

 露わになった首筋に、温かな吐息がかかる。


「んっ……」


 彼女の唇が、悠真の首筋の皮膚を、ゆっくりと舐め上げた。

 脈打つ血管の位置を確かめるように、舌先がゆっくりと這う。


 暖炉の橙色の光の中で、彼女の唇が妖しく濡れて光った。

 そして──


「……ッ!」


 骨に響くような痛みが走る。牙が皮膚を貫き、肉に深く食い込む。


「っつぅぅぅあああああ!? お、おいっ、やるにしても加減を──っ!」


 シュンリンは彼の苦悶の声に、まるで興味を示さなかった。

 目を閉じ、恍惚とした表情のまま、ゆっくりと魔力を吸収し続ける。


 喉が小さく動き、吸い上げるたびに長い睫毛が満足そうに震えた。

 噛み痕から滲んだ血が、彼女の唇の端を伝って顎へと流れていく。


「……んぁ、美味い」


 うっとりとした吐息が、悠真の首筋を熱く濡らした。

 その様子を見ていた仲間たちは、特に動じる様子もなく、それぞれがメニュー表を手に取り始めていた。


「悠真、無駄な抵抗はやめろ。どうせ毎度のことだろう」


 アウラが軽く咳払いをして、猫耳を立てながら制式制服の襟元を正す。


「ふふっ……シュンリンちゃんの吸魔ってね、見てるとなんか……いいよね。うん」


 穏やかな笑みを浮かべながら、シャルルは長く細い耳をふわりと揺らした。

 翠色の瞳が何処か楽しげに細まっている。


「……目のやり場に困りますわね」


 金色の狐耳をぺたりと伏せ、アイリスは蒼い瞳を逸らしながら、かすかに頬を染めた。

 それでもメニュー表は、しっかりと手に持っている。

 ホウキは静かに目を閉じ、太刀の柄を膝の上に置いたまま、深く息を吐いた。


「……悠真様、御武運を」


 それだけ呟いて彼女はメニュー表を開く。


「なぁ、お前らさ。他に何か言う事があるんじゃないのか? あん?」


 虚ろな目で悠真は、一同を見回す。


「あっ、焼き肉の蜂蜜煮込みと、キノコのクリームスープをお願いします。それと――――」


 だが返ってきたのはページを捲る音と、静かな注文の声だけだった。

 悠真は力なく溜息をつき、肩に残る噛み痕を押さえる。


 シュンリンは、ようやく顔を離すと、唇の端に滲んだ血を、ゆっくりと舌で舐め取った。

 赤金色の大きな瞳が満ち足りた光を宿し、燃えるような赤いツインテールがゆったりと揺れている。


「……ごちそうさま」

「食事かよ、俺は」


 暖炉の火が静かに揺れる中、こうして、いつも通りの夜が、また一つ過ぎてゆく。

 そして料理の注文を終えて、女給が静かに個室を出ていき扉が閉まる。

 暖炉の火が静かに揺れる中、六人分の椅子が軋む音だけが室内に漂っていた。


「なあ、メシ来るまで暇だしよ! 悠真の事をどれだけ知ってるか選手権、始めようぜ!」


 その沈黙を真っ先に破ったのは、シュンリンである。

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