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「お前は戦力外だ」と追放されたカードゲーマー、伝説級レアカードで無双する ~元クラスメイトたちは没落したけど、俺は美少女パーティーとダンジョン配信で大成功しました~  作者: どすこい。お嬢様
第四章

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第31話 桜花千凜

「まずは私が行こう」


 ホウキが静かに、一歩前に出る。

 黒いポニーテールが背に流れ、東の国風の軽装和装の裾が翻る。


 切れ長の黒い瞳が、血濡れのゴーストを真っ直ぐに射抜いていた。

 その立ち姿は戦場に咲く一輪の花のように凛として、しかし確かな殺意を帯びている。


「……無理は、するなよ」

「御心配なく、悠真様」


 悠真の苦しげな声に、彼女は僅かに微笑みながら頷いた。

 一歩、また一歩と歩みを早める。


 その気配は次第に緊張を増し、空気に凛とした張り詰めが走った。

 太刀の柄を握る白い指が、静かに力を込める。


「──桜花千凜、参ります」


 その呟きと共に、ホウキの身体から淡紅色の光が爆ぜた。


「散れ──桜花千凜・壱ノ型、花散らし!」


 愛刀が妖しく光り、次の刹那には刀身が無数の花弁と化し、四方へと舞い飛ぶ。

 空間一面に咲き乱れる桜は、まるで春嵐に巻かれた古都の景色を思わせる美しさだったが、その舞いは

死を告げる殺意そのものだ。


 舞い狂う桜吹雪が音もなくゴーストへと殺到する。

 花弁の一枚一枚が鋼鉄の刃と化し、怨霊の体を切り裂いた。瞬間、血のような紫の霧が炸裂した。


「集え──桜花千凜・弐ノ型、千刃桜林!」


 散った花弁が空中で再び集束する。

 無数の花弁が凝縮され、千本の刃の形を成した瞬間、それらが一斉にゴーストへと降り注いだ。

 

 地を穿ち、壁を砕き、瘴気を裂く。

 ゴーストの輪郭が大きく揺らいだ。


「この一閃、受けよ──桜花千凜・参ノ型、斬花一線!」


 彼女の足が地を蹴る。

 散らせた桜が再び刀身へと収束し、螺旋を描く桜の軌跡と共に、ゴーストの胴体へと突き刺さった。


 刃が通るたびに空間が震え、魔力の奔流が爆ぜる。だが──

 桜の一撃は確かに深く抉り、ゴーストの体に大きな裂け目を生んだ。


 しかし、その内部から現れたのは、さらなる怨念の塊である。

 裂け目はすぐさま閉じ、むしろ怒りを爆発させたように、ゴーストの体全体が血煙を吹き上げる。


「……っ、避けきれない!」


 次の瞬間、ゴーストの影の一部が鉛のような質量を持って、ホウキに叩きつけられた。

 間一髪、回避動作を取ったものの、衝撃が全身を揺らす。


「ぐっ……」


 膝をつく。白い肌に、紫の煤がべっとりと付着する。

 口元には血の筋が走っていた。


「……まだ、やれる……っ」


 それでも切れ長の黒い瞳は折れない。

 空へと伸ばされた右手に、再び無数の桜が集まり始める。

 今度は己の傷口へと数枚の花弁を貼り付け、淡紅色の光が傷を淡く癒した。


「桜花千凜・回生、花縫い──」


 桜の回復魔法が傷口を塞ぎ、ゆっくりと彼女は立ち上がる。

 黒いポニーテールが乱れ、和装の裾が血と煤に汚れていた。


 それでもホウキは太刀を構え直し、真っ直ぐにゴーストを見据える。

 咲き乱れる桜の中に、彼女の不屈の意志が静かに燃えていた。


「悠真くん。ここからは、僕に任せてほしい!」


 その声は穏やかで、しかし芯のある響きを孕んでいる。

 シャルルが前に出た。


 翠色の瞳は冷静さと妖艶さを同時に湛え、いつもの眠たげな色が完全に消えていた。

 白い法衣の裾を払いながら長杖を構える。

 その指先に、緑の魔力が静かに、しかし確かに灯り始めていた。


「我が聖なる大地にして、慈しみと荊の抱擁を以て、穢れし者を縛り、魔を糧として花を咲かせよ──」


 詠唱と共に、彼女の足元の地面が震える。

 石の隙間から濃緑の蔓が這い出し、見る間に太く、棘だらけの巨大な植物へと成長していく。


「豊穣の賜り物──千荊縛鎖!」


 技名が空気を震わせると同時に、無数の蔓がまるで意思を持った蛇のように蠢き、血濡れのゴーストへと襲いかかった。


 ゴーストの身体は半透明で、実体を持たぬ霊的な存在。

 だがシャルルの魔力を受けた植物は、魔力そのものを絡め取る特性を持っていた。


 蔓が触れた瞬間、霊体にも関わらず確かな手応えを得て、棘がゴーストの身体へと深く突き立てられる。ゴーストの身が激しく揺れた。


「豊穣の賜り物──毒棘散布」


 続けて彼女が呟くと、蔓の棘から紫色の液体が滲み出す。

 植物由来の猛毒が、霊体の魔力を直接腐食し始めた。


 蔓はそのまま巻き付き、棘を食い込ませながら締め上げていく。

 血のような霊気が棘に吸われ、地面にまで届いた蔓に流れる。


 するとそこから──咲いた。花が。深紅の薔薇が。

 それは魔を吸った妖しい美を纏い、湿った地面に次々と咲き誇っていった。


「……ああ、美しい。血と魔が混じり合って、こんなにも鮮やかに咲くなんて」


 シャルルの頬が僅かに紅潮している。

 長く細い耳がゆったりと揺れ、翠色の瞳を細めながら、蔓がゴーストを締め上げていく様を静かに見守る。


 だが──ゴーストが、呻くような声を上げた。

 次の瞬間、蔓に巻かれていた身体が一気に爆ぜる。

 凄まじい霊気が逆流するように彼女を襲う。


「──っ!?」


 シャルルの顔が苦悶に歪む。

 身体が一歩、二歩と後退した。蔓のいくつかは灰のように崩れ落ち、咲いていた深紅の薔薇も無惨にしおれていく。


 魔力の逆流、霊気の爆裂。

 ただの暴発ではない。まさに呪詛そのものだった。


「く……ぅ……」


 彼女の唇から、血が一筋、顎を伝って滴る。

 長く細い耳が伏せられ、膝がわずかに揺れた。

 だが、倒れない。


「……まだ、終わりじゃありませんよ」


 翠色の瞳が、再び輝きを取り戻す。

 だが次に歩み出たのは、アイリス・シルヴェスターだった。


 腰まで届く金髪を肩に流し、蒼い瞳が血濡れのゴーストを静かに見据える。

 金色の狐耳が逆立ち、尻尾が力強く揺れていた。

 白を基調とした軽装鎧の金の装飾が、灯藻の青白い光を受けて鈍く輝いている。


「──幻影の反逆」


 レイピアを構え直すと、彼女は端的に言葉を紡いだ。

 刹那、足元に淡い金色の光が広がる。風が逆巻くような魔力の圧が周囲に波紋を描く。


 光が収束し、アイリスの身体から二体の幻影が分かれて生まれ落ちる。その姿は彼女と瓜二つだ。

 金髪の流れも、凛とした剣の構えも、金色の狐耳の角度まで完全に一致している。

 三体の彼女が、無音のままに歩み出した。


「行きますわよ」


 その声は冷静で、感情の揺らぎは微塵もない。

 三体が同時に動いた。


 左側の幻影が躍り出て、ゴーストの視線を引きつけるように大きく刃を振るう。囮だ。

 喰らい付こうとする怨霊の腕が、その幻を貫こうとした瞬間、幻影は残像となって透過する。


 その刹那、右側の幻影が死角から刃を振り下ろした。

 ゴーストの背面に一閃を浴びせ、黒紫の瘴気が散る。

 怨霊の注意が右へと向いた、その中央の空白へ──


「そこが急所ですわ」


 本体のアイリスが飛び込んだ。

 両手で構えたレイピアを真っ直ぐに突き出し、ゴーストの胸部中央、青白く燐光を灯す核を正確に捉える。


 鋼鉄が砕けるような音とともに、魔力の奔流が弾け飛び、ゴーストの身体が大きく仰け反った。

 囮、死角からの攻撃、本体の致命の一撃。


 三位一体の連携は一寸の無駄もなく、戦術として完成されていた。

 だが致命には至らなかった。


 ゴーストの身体が軋む音とともに、再び霧のように揺らぎ、傷口を強引に修復し始める。

 核の損傷も微細に留まり、青白い光はなお強く脈動していた。

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