第7話 最強の職業と装備を与えられるクラスメイトたち
「我が与えた装備じゃ。文句を言うでない。ユグ=リオニアでは、これが治癒術師の正装なのじゃからな」
涼しい顔でフォルトゥナは告げると、次に能力を授ける対象者へと視線を移した。
澄んだ黄金の瞳を微かに細めながら、その視線が止まったのは一軍男子の中心的存在――桐生樟葉である。
「ふふ、さて……次は貴様にしてやろう。お主、人間界では随分と目立っていたようだな。ふっ、実に面白い。その資質はまさしく”それ”に最も近い」
相変わらずフォルトゥナの声は耳に心地よい鈴の音のようなでありながら、その言葉には得も言われぬ不吉さが含まれている。
彼女は徐に人差し指を上げ、真っ直ぐに樟葉を差す。
その瞬間、彼の身体全体が虹色の光に包まれ、淡く、だが明確に、足元から波紋のような魔力の光が広がっていた。
「職業は――勇者。武器は聖剣エクスカリンと水鏡の盾。そしてスキルは完全なる強化……」
フォルトゥナの指先から放たれた光が、まるで槍のように空間を裂いて、樟葉の胸元に突き刺さる。
次の瞬間、樟葉の制服が光の粒子となり分解されてゆく。
だらしなく着崩していたシャツ、ズボン、全てが虹色の光となり消失した。
一瞬だけ彼の細身ながらバランスの取れた裸身が露わになる――白い肌、引き締まった腹筋、意外なほどしっかりとした肩幅。
そして新たな装備が、樟葉の身体を包み始めた。
まず足元から黒い革のブーツが現れる。
膝下まである長靴は、銀色の装飾が施され、歩く度に鈍い光を放つ。
次いで太腿を覆う、黒い革のレギンスが形成される。
ぴったりとした肌に密着し、筋肉の動きを妨げない柔軟な素材だ。
腰には深紅のベルトが巻かれ、そこから白と黒が混ざり合う布が腰に周りを覆う。
前面には金色の紋章が刻まれ、それは獅子が咆哮する姿を模していた。
胸部には白銀の胸当てが装着される。
中央には巨大な赤色の宝石が埋め込まれ、心臓の鼓動に合わせてゆっくりと明滅していた。
胸当ては肩から腹部までを覆い、その表面には細かな紋様が刻まれている。
肩部分には獅子の顔を模した金色の装飾が施され、そこから白いマントが垂れ下がった。
マントの裏地は深紅で、風に靡くたびに白と赤が入れ替わり、炎のようにはためいている。
両腕には黒い革の篭手が装着された。
肘から指先まで覆う篭手は関節部分に銀色の装甲が施され、拳を握るたびに重厚な金属音を立てる。
指先には鋭い爪のような装飾があり、それ自体が武器となりそうだ。
そして背中に、一振りの巨大な剣が現れる。
鞘に収められたその剣は、全長が優に百センチを超える片手剣だ。
柄は黒と金で装飾され、鍔には翼を広げた鷲の紋章が刻まれている。
鞘は白銀色で、その表面には赤い紋様が脈打つように走っていた。
まるで剣そのものが、呼吸しているかのようである。
鞘の隙間から微かに覗く刃は純白に輝いていた。
そしてその刃からは、うっすらと白い炎が立ち昇っている。
炎は音もなく揺らめき触れずとも、熱を感じさせるほどの神聖な力を帯びていた。
さらに左腕には盾が現れる。
円形の盾は、その表面が鏡のように磨かれた水色の金属で出来ていた。
まるで湖の水面を切り取ったかのように、周囲の景色を歪めながら映し出している。
盾の縁には波紋のような紋様が刻まれ時折、盾の表面に水滴が滴るように光の粒が浮かび上がった。
「その剣は常時全体攻撃が可能で、しかも連続して二回攻撃ができる。さらに聖なる炎を宿し、相手を切り裂くだけでなく、焼き払うこともできるのじゃ。ふふ、派手でよかろう?それに盾もまた優秀じゃ。あらゆる攻撃を弾き返すだけでなく、”清められし水”を生成することができる。毒も呪いも灼熱の痛みも洗い流してくれる。まさに完璧なる守護。防御と治癒を兼ね備えた、至高の盾じゃよ」
唇を弓のように歪めて、フォルトゥナは胸酔に近い笑みを浮かべる。
「さらには――スキル”完全なる強化”!それは攻撃力、防御力、速度、反応、精密性――すべての能力を最大限に引き出すことができる最高級のスキルじゃ!」
そして最後に彼女は腕を大きく広げ、空間全体に響く声で言い放つ。
するとフォルトゥナの言葉に合わせるようにして、樟葉の身体が再び光り輝いた。
金と白銀の光が交錯し、彼の周囲には波動のような空気の歪みが生まれる。
それを浴びた周囲の生徒達は、異様に息を詰めて後退りした。
装備を纏った樟葉の姿は、まさに勇者そのものである。
銀髪が光を受けて淡く輝き、片目を隠す前髪から覗く深紅の瞳には、鋭い光が宿っていた。
白銀の鎧は彼の細身の体を力強く包み、背中の片手剣からは神聖な炎が立ち昇り続けている。
「その力があれば、単騎でも敵陣を突破できる。だが、それだけではない。パーティーの中心となり、仲間を率いる――それが、真の勇者というものじゃろう」
目を細めて白い歯を見せつつフォルトゥナは、不敵な雰囲気を纏いながら告げた。
樟葉は目を見開いたまま次第に、その唇の端を吊り上げる。
状況に困惑していたはずの彼の顔には、徐々に高揚の色が浮かび始めていた。
目の奥には獰猛な獣のような光。
誰よりも強く、誰よりも特別であるという確信が、その表情に濃く刻まれていた。
声は封じられて樟葉は何も言えないが、その表情だけで充分に物語っている。
口元には歪んだ笑みが浮かび、拳を何度も握り締めては開く。
力が張っているのだ。身体中に満ちる魔力と装備の重厚感。
それら全てが彼に”特別な力”であることを実感させている。
悠真が周囲を見渡せば、担任の千秋は依然として口を魔法で封じられたまま、微かに首を振るようにしながら困惑の色を濃くしていた。
汗が頬を伝い肩は小刻みに震えている。
樟葉の異様な変化に教師としての直感が、何か危険のようなものを告げているのだろう。
一軍の女子たち――鈴音や麗華や姫香も顔を引き攣らせながら、それぞれの本能に従い視線を逸らしている。
明らかに樟葉の力を前にして、気圧され警戒心のようなものを抱いている様子。
声を出せない彼女たちの表情には、恐怖と困惑が色濃く浮かんでいる。
そして、その様子を悠真は片隅で、ただ一人冷静な視線を維持し続けて、無言で見つめていた。
彼の視線は樟葉に向いていたが、そこには憧れも嫉妬もない。
ただ眼前に広がる、この不可思議なイベントを自身の知識――ラノベやゲーム、アニメといった過去に触れてきたフィクションのデータベースを、引き出しながら情報として記録している。
(……なるほど、能力授与ってのはこうやって進んでいくんだな。今のところ、全員に順番で与えられるって感じか。……ってことは次は誰だ?)
そう思考する悠真の顔には微かな焦燥ではなく、諦観と興味が同居する薄い笑みが浮かんでいた。
そして僅かな時間が流れると、フォルトゥナは緩やかに首を傾げながら新たな標的――いや、祝福される者へと視線を移し指先が小さく動く。
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