第20話 ドMの龍人族の少女、現る。
「……っ!?」
悠真は息を呑み、その場で思わず立ち尽くした。
少女は小柄である。だが、その存在感は妙に圧があった。
外見的な年齢は十七歳ほどで、燃えるような赤髪を高めのツインテールに結い上げ、毛量が多いせいか激しい戦闘の中でも跳ね回っている。
短めの前髪の奥で、赤金色の大きな瞳が爛々と輝いていた。
顔立ちは可愛さ寄りで、幼さと勝気さが同居している。
だが、その表情に浮かぶのは痛みではなく──明らかな恍惚だった。
身に纏うのは肩の露出した赤と金の武道服。
だが布地は所々裂け、深紅の血で濡れていた。
裂け目から覗く肌は傷が少なく健康的で、よく見ると微細な鱗が混じる。
額の両側には短い龍角がくすんだ赤い色で生えており、爪は硬質で光を受けると僅かに金属的な反射を放っていた。
龍人族。それが悠真の出した答えである。
左右の太腿、肩、腹部──様々な部位に突き刺さるのは、鋭利な嘴を持つ魚型の魔物たちだ。
手の平ほどのサイズだが翼を持ち、超高速で飛翔して標的に体当たりを仕掛ける。
今も周囲を旋回しながら獲物を狙い、壁や岩に叩きつけられては、肉を打つような音を立てていた。
彼女の身体に突き刺さった数匹は未だ痙攣しており、血液と体液が混じったものが素肌を汚している。
「はぁっ……! くふっ、んっ……い、いいっ……」
少女は荒い息を吐きながら、小刻みにステップを踏み、両手を構えていた。
その姿勢は、まさしく実戦を重ねた格闘家のそれ。
全身に打撲と裂傷があるというのに表情を崩さない。
引き締まった体躯が、獣のような俊敏さで、次の攻撃に備えている。
赤金色の瞳が、恍惚に潤んでいた。
「ひっ、ひひっ……! いいわね……もっと来なさいよ……っ!」
快楽に歪んだ声が空間に響く。
赤いツインテールが感情の高ぶりに合わせて激しく揺れていた。
「悠真様……あの方、尋常ならざる嗜好の持ち主かと……」
苦い表情を浮かべ、ホウキは思わず目を逸らす。
「いや、それどころか……戦闘狂でドMって、もう手に負えないだろあれ……」
額を押さえながら悠真は呻く。
「……趣味の悪い戦い方ですわね」
隣ではアイリスが眉を顰め、金色の狐耳をぺたりと伏せた。
「とにかく、助けるぞ。アウラ、遠距離から魔物を狙え。シャルル、援護頼む。ホウキは突撃の準備を。アイリスは左から幻影で陽動だ」
しかし彼は、すぐに顔を引き締める。
いかに異常でも、あのままでは命を落とすのは時間の問題だ。
これ以上血が流れれば、いずれは失神し、そのまま魔物に喰われる。
仲間たちが一斉に頷く。
彼女が何者であれ、今は生存が最優先だ。
どれほど奇妙で、淫靡で、戦闘に耽溺する異常者であっても──
「もう大丈夫だ!」
アウラが低く叫ぶと同時に、銃口を魚型魔物の群れへと向けた。
引き金を引くたびに、魔力弾が正確に魔物を捉え、次々と撃ち落としていく。
「陽動、始めますわ!」
アイリスが左方から幻影を二体展開する。
金色の狐耳を立て、レイピアを構えた幻影が、魔物の注意を引きつけた。
「援護する!」
シャルルが長杖を振るい、茨の蔓が魔物の翼に絡みついて動きを封じる。
翠色の瞳が真剣な色を帯び、長く細い耳が前方へ向いていた。
「参ります!」
一気に間合いを詰め、ホウキが太刀を一閃する。
黒いポニーテールが舞い、切れ長の瞳が鋭く輝いた。
一閃で二体を切り伏せ、血と体液が黒髪に飛び散る。
「簡易領域能力──クイック・デュエル・フィールド!」
小規模な魔法陣が、悠真の足元に瞬時に展開された。
半径数メートルの簡易結界。
この範囲内であれば、カードの効果を瞬時に発動できる。
彼はデッキに手を伸ばし、一枚のカードを引き抜いた。
「即時魔術カード──閃光の封印陣、発動!」
魔法陣から眩い光の格子が空間に広がり、飛翔していた魚型魔物たちの動きが一瞬だけ縫い止められる。翼が、嘴が、まるで時が止まったように宙に固定された。
「今だ──! さらに即時魔術カード──連鎖爆破・チェイン・バースト!」
その刹那、悠真は第二のカードを抜き放つ。
封印の光に絡め取られた魔物たちへ、連鎖する爆発が次々と走った。
一体が弾け、その衝撃が隣の魔物へ、さらに次へと伝播していく。
川辺に魔物の残骸が降り注ぎ、水面が大きく揺れた。
しかし、気づけば水音も止んでいた。
新たな魚の気配は、もうない。
「はぁ……終わったか」
悠真が魔法陣を解除するのと同時に、全員の視線が、中心に立ち尽くしていた彼女へと向けられた。
「おい、大丈夫か!?」
戦いが終わると彼は、急いで武道服の少女へと声をかける。
「傷は多いが……すべて浅そうだな」
さらにアウラが駆け寄り、猫耳を立てながら、負傷箇所を素早く確認した。
「これぐらいの傷であれば、僕の癒しの魔法で治せるよ」
シャルルも少女の元に近づくと、その場に屈んで穏やかに微笑みながら手をかざす。
「ひとまず、危険は去りましたわ」
アイリスが周囲を確認しながら、金色の狐耳を左右に動かした。
「……えっ、お前ら誰だよ?」
だが、そんな四人を前にして当の本人──龍人族の少女は首を傾げて呟く。
そのあっけらかんとした声は、あまりにも素朴で、そして場違いだ。
その言葉に一同が、しばし沈黙する。
血まみれの少女を助けに来たはずが、まるで通りすがりの迷子に話しかけられたかのような、そんな錯覚を覚える瞬間だった。
赤金色の大きな瞳が瞬き、短めの前髪の奥から悠真たちを見上げている。
唇の端に血を滲ませたまま、傷の痛みなど気にしていない様子。
そして悠真たちは気づいた。
戦闘の激しさで裂けた武道服は、既に衣服としての体裁を保っていない。
肩紐は千切れ、胸元の布地は大きく裂けて、滑らかな鎖骨から胸の膨らみまでが、ほぼ露わになっている。
健康的な肌の上を血と汗が伝い、薄く張り付いた残布の向こうに、小ぶりだが形の良い乳房の輪郭が透けて見えていた。
桜色の突起が僅かに布地を押し上げており、戦闘の興奮で呼吸が荒いせいか、その胸が上下する度に布地がずれ落ちそうになっている。
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