第17話 美少女たちの思い
「ついに異世界人の召使いになったってわけ?」
「ちょっとぉ、なにあれ。まさかあれが仲間ぁ? 冗談でしょ、陰キャに美少女? お似合いなわけないじゃん」
嘲笑。蔑み。そして視線。
まるで過去の教室が、そのままダンジョンに引きずり出されたような錯覚。
「異世界人……? それってどういう意味? 悠真くん、彼らの言う"異世界"って……あなたのこと?」
その言葉に反応したのはシャルルだった。
長く細い耳がぴくりと動き、翠色の瞳が悠真へと向く。
ホウキも、アウラも、アイリスも、それぞれの眉を顰めていた。
「……説明は、また今度だ」
悠真は静かに言葉を絞り出す。
そして眼前の連中を睨むでもなく、ただ通り過ぎようとした。
言いたいことは山ほどある。
だが言えば言うほど、彼らにとっては陰キャの僻みとしか映らない。
何を言っても無駄だ。
過去がどうだったかなど、今の仲間には関係がない。
目の前のこの蔑みが、どれだけ己の過去をえぐったとしても──
「……行くぞ」
それだけを言い彼は、仲間たちに背を向けた。
嘲笑が背後で鳴ったが、振り返ることなく、悠真は足を進める。
魔石灯の青白い灯りが、ダンジョンの石壁をぼんやりと照らしていた。
その冷たさと静けさだけが、彼の胸の内に寄り添う。
「おーい、これってやっぱり陰キャの成れの果てってやつ? ゲーム脳が女引き連れて、勘違いパーティーごっこってか?」
「相変わらずキモいな、お前。空気みたいな存在のくせに、人間のフリしてる」
一軍男子たちの言葉が、容赦なく着き放たれた。
悠真は視線を落とし、歯を食いしばる。
言い返したい気持ちはあった。
だが、どうせ何を言っても無駄だ。
一軍男子と女子からすれば、悠真という存在は紛れもなく、カースト最底辺の男だからである。
だが――その時だった。
「……やめろ」
低く、静かな怒声が空気を震わせた。
その声を発したのはホウキである。
「我らが悠真様を、これ以上侮辱することは許しませぬ」
一歩前へ出て、抜刀せんとする勢いで、彼女は一軍を睨み据える。
黒いポニーテールが肩に落ち、切れ長の黒い瞳が冷たく鋭く、眼前の連中を射抜いていた。
「悠真くんはね……僕の命の恩人なんだよ。野蛮な男たちに囲まれて、もう終わりだって思った時……悠真くんが来てくれた。危険を顧みず、僕のことなんて知りもしないのに、それでも助けに来てくれたんだよ。そういう人を、貴方たちは嘲笑うの?」
その隣でシャルルが、いつになく真剣な表情を浮かべる。
長く細い耳が前方へと向き、翠色の瞳から眠たげな色が消えていた。
「東雲悠真は、見ず知らずの私を助けた。理由も聞かず、損得も考えず。……貴様らに、その価値が分かるか」
アウラも一歩前に出る。
帝国軍の制式制服が一分の乱れもなく、頭頂部の猫耳が逆立つ。
青灰色の瞳が、樟葉たちを真っ直ぐに捉えている。
「よく聞きなさいな。私はゴブリンどもに囲まれ、絶体絶命の状況でしたの。その時、何の見返りも求めず颯爽と現れたのが悠真でしたわ。さらに申し上げるなら、石化の呪いで私が身動き一つ取れない状況の時も、この方は命がけで助け出してくれましたの。……その際に多少、不届きな真似もしてくださいましたけれど、それはそれとして。誇り高きシルヴェスター家の長女である私が、直々に認めた人物の価値が分からないというのなら……貴方たちの見識は、虫けら以下だということですわ。よろしくて?」
アイリスも頷きながら前へ出た。
腰まで届く金髪が揺れ、蒼い瞳が怒りに燃えている。
金色の狐耳が限界まで逆立ち、尻尾が激しく揺れていた。
四人の言葉が、湿った地面の空気を裂いていく。
悠真は顔を伏せたまま、ほんのりと頬が熱を帯びるのを感じていた。
くすぐったく、こそばゆい。だが胸の奥で何かが、じんわりと広がっていく。
嬉しかった。こんな自分を、庇ってくれる仲間が居る。
それだけで、世界が少しだけ優しく見えた。
だが──。
「──っ、ぶはっはははっは!」
最初に吹き出したのは樟葉。
深紅の瞳を歪め、銀髪を揺らしながら腹を抱える。
「な、なにそれ!? マジで言ってんの? ちょ……腹痛ぇぇっ!」
「やば、涙出てきた……いや、あの悠真だよ!? アイツが"強くて命の恩人"って! ははっ、勘弁してよ~!」
次いで奏恵が蜂蜜色の瞳に涙を浮かべて笑い、鈴音がワインレッドの髪を靡かせながら仰け反った。
「アイツは陰キャの中の陰キャで、教室の壁と同じ色してた奴だよ!? 勉強も運動もダメ、話しかけたらキョドって逃げる、目すら合わせられないヘタレ男!」
「はっ、まだ石ころの方が価値あるというものですわ。……本当に貴女達の目は、どこまで節穴なの?」
麗華が水色のツインテールを揺らしながら地面に膝をつき、姫香は深い赤紫の瞳を細め唇の端をつり上げた。笑いの波が止まらない。
笑いは止まることなく、空気を揺らし続けた。
悠真は小さく息を吸い顔を上げる。
クラスメイトたちの笑い声が、遠く、どこかの世界の音のように思えた。
だが隣に立つ仲間たちは、誰一人笑っていない。
ホウキは目を伏せず、太刀の柄を静かに握る。
シャルルは口を真一文字に引き、長く細い耳を固く前方へ向けた。
アウラは猫耳を逆立てたまま、青灰色の瞳で前を見据えている。
アイリスは怒りに濡れた蒼い瞳で、金色の狐耳を立てたまま、一歩も引かずに立つ。
「おい、行くぞ。こんな所で無駄な時間を食う訳にはいかない」
その声は乾いていた。怒りでも憎しみでもない。
熱が抜け落ち、冷めきった鋼の響きを持つ言葉。
悠真の背後で、わずかに間が空いた。
「へっ……アイツは言い返すことすら出来ない腑抜け野郎だ」
ねっとりとした低音が、石壁に反響して響く。
その声の主は、群れの中心に立つ桐生樟葉。
深紅の瞳に薄ら笑いを浮かべ、まるで舞台俳優のように口角を吊り上げている。
「君たちも、そのうち分かるよ。アイツがどれだけ愚か者かってね。愛想が尽きたら……俺達の所に来い。きっと後悔はしないからさ」
銀髪の前髪を払う仕草すらも絵になっていた。
冷笑とともに発せられたその言葉は、明らかな誘惑であり、同時に嘲りでもある。
だがその瞬間、空気が変わった。
最初に立ち止まったのはシャルルである。
翠色の瞳がギラリと光を宿す。長く細い耳が怒りに逆立った。
次いで、ホウキが無言で、その場に踵を返す。
切れ長の黒い瞳が冷たく細まり、腰の太刀の柄に手が添えられた。
アウラも軍靴を鳴らして向き直る。
帝国軍の制式制服の裾を翻し、頭頂部の猫耳が限界まで逆立っていた。
そしてアイリスが、ゆっくりと振り返る。
腰まで届く金髪が揺れ、蒼い瞳に冷たい炎が灯っていた。
金色の狐耳が逆立ち、尻尾が激しく揺れている。
まるで天井の岩盤から冷気が流れ込んできたかのように、場の温度が数度下がった錯覚すら生まれた。
アウラが一歩前に出る。
青灰色の瞳が、樟葉の額へと突き刺さるように注がれた。
「……聞こえたか? 私たちが、悠真を裏切る? 貴様のような腑抜けの言葉に頷くとでも思ったか」
彼女の声音は、弾ける硝煙のように乾いている。
「悠真くんが言い返さなかったのはね、くだらない獣の唸り声に興味がないからだよ。貴方みたいな底の浅い男の価値なんて──」
そしてシャルルが続けた。
笑っていたが、その笑みには、普段の穏やかさが微塵もない。
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