第16話 再び一軍の男子と女子たち接触
「……今、我が家は散り散りになりましたわ。誰もが一族を復興させるため、それぞれの場所で稼ぎ、立ち上がろうとしています。私は……このダンジョンを攻略し、必ずシルヴェスター家を復興させますの!」
彼女は立ち上がり、レイピアの柄に手を置く。
「この鎧も、このレイピアも、追放の折に奪われそうになりましたが、必死に隠して守り抜きましたの。シルヴェスター家の証ですから。これを失えば……私はただの、落ちぶれた女に過ぎませんわ」
一本の尻尾が静かに力なく垂れる。
金色の狐耳はもう、逆立ってはいなかった。
「……色々と大変なんだな、お前も」
ぽつりと呟くように、悠真は言い放つ。
いつもの軽口とは違う、素直な声だった。
アイリスは瞼を伏せたあと、ゆっくりと顔を上げる。
金色の狐耳が、ゆっくりと持ち上がった。
「起きた事は今更変えようがありませんわ。私たちは未来を見て進むしかありませんの!」
その言葉に迷いはない。
言葉の端に宿る激情と決意の色は、彼女が口にした過去を乗り越えて、すでに今と未来に視線を移している証だ。
「んじゃ、そろそろ皆のとこに戻るとするか。お前も付いて来いよ。ちゃんと仲間たちに紹介しないといけないからな」
それを聞いて悠真は、小さく笑うと身体を起こし、外套の汚れを払い立ち上がる。
彼の言葉にアイリスは、一瞬だけ虚を突かれたように瞬きをした。
しかし、すぐに目元に笑みを宿す。
「そうですわね。いつまでも、ここに居ても仕方ありません。それに貴方の仲間たちが、どんな人かも気になりますしね」
彼女も、また立ち上がる。
腰の後ろに右手を回し、軽装アーマーに付着した土埃を何度か叩き落とした。
金属の軋む音と布が擦れる音が交じる中、真っ直ぐに背筋は伸びている。
一本の尻尾が、ゆったりと揺れていた。
やがて二人はダンジョン七十階層へと続く通路を歩き出す。
――そして仲間たちは地面に腰を落ち着かせて休んでいたようだが、悠真の帰還に気がつくと最初にシャルルが立ち上がり手を振る。
「おかえり、悠真くん。……あれ、だれだろ? んー……何処かで見覚えが……?」」
クリーム色の軽鎧の下に薄手のブラウスを着込み、淡い金色に近い銀髪がふわりと揺れていた。
続いて、無言のまま瞳を細めて警戒を解かないのは、ホウキである。
「また拾ってきたのか、悠真様。おや、今回は……いつぞやのプライドの高い貴族ですか?」
東の国風の軽装和装に身を包み、腰の太刀に手を添えたまま、悠真の側に立つ女性の容貌を視界に収めた瞬間、わずかに眉を顰めた。
その声に、アイリスが一歩前に出た。
左胸に手を当て、背筋を伸ばし、声を張る。
「改めて名乗りましょう。私はアイリス・シルヴェスター。没落貴族の末裔であり、剣の道を歩む者。悠真とは、ある事情により共闘いたしました。そして、もし宜しければ……この場に加わらせていただきたいと思っております」
口調には丁寧さと誇りが入り混じる。
怯むことも卑屈さもなく、真っ直ぐな言葉。
「やぁ、僕はシャルル・デュノアイエだよ。……ねえねえ、そのかっこいいレイピア、どこで手に入れたの?」
シャルルが拍手をしながら近づき、彼女の軽装アーマーを見上げる。
翠色の瞳が輝いていた。
「手に入れたのではありませんわ。これは我が一族に代々伝わる家宝ですの」
アイリスが誇らしげに言うと、シャルルは歓喜の声を上げて目を輝かせる。
長く細い耳が喜びに揺れている。
一方で、ホウキは無言のまま数歩近づき、彼女と向き合う。
二人の視線が交差する。緊張が走るような沈黙。
「私はオリムラ・ホウキ。悠真様と共に剣を振るう者にございます。貴女の覚悟、見届けましてございます。これからよろしくお願いいたします」
ぴたりと足を揃え、ホウキは丁寧に一礼した。
「こちらこそ。共に剣を掲げ、道を進みましょう」
アイリスも、息を深く吸い、剣士の礼を返す。
空気が緩んだ。
そこへアウラが腕を組んだまま、無言でアイリスを一瞥する。
帝国軍の制式制服は一分の乱れもなく、頭頂部の猫耳が前方へ向いていた。
「……シルヴェスター家か。名は知っている」
短く、しかし確かな言葉。
アイリスの蒼い瞳が、彼女の青灰色の瞳と静かに交差する。
「貴女は……帝国軍の方?」
「中尉だ。アウラ・ローゼンハイム。よろしく頼む」
二人の間に、互いを測るような静寂が流れた。
「よし、これで全員に紹介できたな。……もう遅いし今日は、一旦安息地に戻って明日また潜ろう」
そう満足気に頷くと悠真は、帰還の提案を皆にしてから懐から帰還核を取り出す。
周囲の魔石灯が柔らかく揺れ、帰還の合図を静かに送っていた。
――そしてダンジョン七十階層から帰還して宿屋で休息を取ると、悠真は瞬く間に何時も通りの朝を迎えて、とある高級宿のベッドの上で目を覚ます。
宿屋の二階、一番奥の部屋。
頑丈なオーク材の扉を開けるとすぐ、壁に設えられた魔石灯が青白い光を灯している。
その淡い光に照らされて、ゆっくりと彼の影が起き上がった。
軋むベッドの音。
女神から渡された漆黒の外套を肩に羽織り、冷水で顔を洗い装備を整える。
腰にはデッキケースを固定し、寝癖混じりの暗い茶髪を雑に掻き上げた。
朝食は一階の食堂にて。
古木の梁が剥き出しになった高天井の中、暖炉に小さな火が灯っており、木の匂いとパンの焼ける香りが混じり合っていた。
そこに既に揃っていた仲間たち。
シャルルは淡い金色に近い銀髪を揺らしながら、白いマグカップを両手で包んでいる。
長く細い耳が揺れ、翠色の瞳が眠たそうに細まっていた。
ホウキは背筋を伸ばしたまま、東の国風の軽装和装姿で、静かに茶を啜っている。
アウラは帝国軍の制式制服を一分の乱れもなく整え、猫耳を立てたまま報告書らしき紙を睨んでいた。
そして最近加入したアイリスは、腰まで届く金髪を整えながら、蒼い瞳で窓の外を眺めている。
金色の狐耳が、ゆったりと前方へ向いていた。
「悠真くん、遅い。パン冷めちゃうよ」
「……朝から寝坊とは、いけませんぞ、悠真様」
「遅刻は規律違反だ。次からは改めるように」
「おはようございますわ。今日も……良き一日にいたしましょう」
軽口と挨拶が交わされ、朝食を取り、装備を整えると五人は宿を出た。
安息地の通路を抜け、下の階層へと通ずる階段へと向かう。
今日の目標はダンジョン七十一階層。
昨日までに既に道は把握済みであり、通常の敵も脅威ではない。
そして石造りの階段を降りる前に、悠真は腰のデッキケースを確認し、静かにマギスフィア・ミニの配信ボタンを押した。
「配信、開始っと」
小さく呟いた彼の声が、安息地に溶けていく。
それからダンジョン攻略を始めると序盤は順調だった。
だが──中間地点の小さな石橋に差し掛かったところで、それは起きたのである。
すれ違うように現れたのは、悠真にとってあまりにも見慣れた顔ぶれだ。
「うわ、マジで悠真じゃん」
「えっ、嘘。生きてたんだ?」
「え、なにそれ。ていうか、なにこの女ども?」
彼ら彼女らは、かつての”クラスメイト”である。
その中心には桐生樟葉。
光の加減で淡く輝く銀髪のミディアムヘアに、長めの前髪が片目を隠すように流れている。
深紅の瞳には鋭さと怠さが同居した不思議な魅力が宿り、常に余裕のある薄い笑みを浮かべていた。
白銀の鎧を纏い、背には聖剣エクスカリンを佩いている。
見るからに勇者然とした装いだが、その薄ら笑いだけは教室にいた頃と何も変わらない。
その隣には佐々木奏恵。
明るめの茶髪から金色にかけての髪色、細めで優しげな眉の下には、やや垂れ目の蜂蜜色の瞳が輝いている。
半透明のケープを靡かせ、右手の指輪が淡く明滅していた。
穏やかそうな笑みを浮かべているが、感情の奥が読み取れない。
そしてその後ろに、宝条鈴音、羽佐田麗華、天原姫香──。
鈴音は深みのあるワインレッドの髪を靡かせ、黄金のリボルバー二丁を手元で弄んでいた。
赤みがかった金色の瞳が悠真を一瞥し、すぐに蔑みの色が浮かぶ。
麗華は淡い水色と白が混ざり合うツインテールを揺らしながら、いつもの眠そうな表情を浮かべている。
背中の巨大な白と水色の盾が、その小柄な体躯と酷く不釣り合いだ。
そして姫香は、艶のある黒紫の髪をハーフアップに整え、深い赤紫のワインレッドの瞳で静かに、こちらを値踏みしている。
黒と紫の装備から覗く白い肌に、毒の霧が纏う漆黒のレイピアを腰に佩いていた。
この世界に飛ばされる前から、彼らは悠真を常に見下し、蔑み、関わろうともしない。
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