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「お前は戦力外だ」と追放されたカードゲーマー、伝説級レアカードで無双する ~元クラスメイトたちは没落したけど、俺は美少女パーティーとダンジョン配信で大成功しました~  作者: どすこい。お嬢様
第四章

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第13話 石化解除の報酬は巨乳

「……あなたが、魔物を倒してくださったのですね!?」


 突如、ざわめきの中から、ひとりの若き巨乳の女性冒険者が駆け寄る。

 長い茶髪を無造作に束ね、鍛え上げられた身体を包む、革製のハンティングジャケット。


 目鼻立ちは整っており、口元に浮かぶ笑みは、自信と開放感に満ちていた。

 石化から解放された直後とは思えぬほど、その表情は明るい。


「本当に、本当にありがとう! あたし、二年もあの石の中に閉じ込められてたの。もうダメかと思ったわ」

「……ああ、無事でよかった」


 戸惑いながらも、悠真は答える。


「だ・か・ら! 感謝の気持ちとして、特別サービスしちゃおうかしら? 恩人さん、あたしの胸──揉んでいいわよ?」


 彼の手を両手で握りしめ、にっこりと笑みを零しながら、彼女は妖艶な声を出す。

 その瞬間、空気が凍った。

 いや、正確には、空気が熱を持ち始めたというのが正しい。


「あ……ああ……?」


 悠真の瞳孔が一瞬で開き、前髪の奥の茶色の目が、限界まで見開かれた。


「ま、まじですか!? え、えっとその、マジで!? も、揉ませてもらっても、よ、よろしいんですか!? 本当に!? いや、もう、是非とも……! ああ、手が、手が勝手に──!」


 顔を真っ赤に染め肩で息を荒げながら、彼は両手を厭らしく振りかざすように近づく。

 童貞らしさがあふれ、理性が焼き切れた電線のように、千切れていくのがわかる。


「ほら、早くしなさいよ~。恩人さんの手で……いっぱい、感じさせて……あげ……」

「……」


 そのとき。悠真の足が、ぴたりと止まった。

 浮かれた表情が一変し、視線が虚空の一点を捉えて動かない。


 脳裏に──あの石像の顔が浮かんでいた。

 そう、あのアイリス・シルヴェスターに似た石像である。


「も、もしや……あの石像……って本当に……」


 ごくりと唾を飲み込みながら、彼は自分の記憶と照らし合わせた。

 腰まで届く艶のある金髪。蒼い瞳。頭頂部の金色の狐耳。


 貴族趣味の意匠が施された軽装アーマー。

 ──間違いない、石化していたあの像は、あの時に一度だけ出会ったプライドの塊のような女。


「……あ、あのお嬢様……だったんじゃねえのか……?」


 その瞬間、悠真は背中を氷の針で何本も刺されたような、妙な感覚が駆け抜ける。


「や、やばいって……まじでやばいって……!」


 全身から冷や汗が噴き出し、皮膚が粟立つ。

 過呼吸のように呼吸が浅くなり、膝が震え出す。

 鼻息を荒げていた、先程までの彼とは、もはや別人だった。


「お、俺……さっき……あの、頬とか……変なとこ見て……ふ、触って……唇まで近づけて……あわわわわ……」


 呼吸が詰まり、しゃくりあげるような咳を軽く漏らす。

 上気していた顔は、いまや死人のように蒼白だ。


(だ、だが大丈夫だろ! 石化中のことなんて覚えてない……はずだ……!)


 無理やりにでも、そう思い込まなければ精神が保てない。

 拳を固く握りしめ、震える手で額の汗を拭う。

 そうしなければ彼は、崩れてしまいそうだった。


「……はぁ……ふぅ……」


 数度、深呼吸する。

 乱れた精神を少しずつ立て直していくように、悠真は目を閉じ呼吸を整えた。


「ご、ごめんなさい。俺、やっぱり揉むの、やめときます……」

「え……うそ……?」


 まさかの断りに、巨乳の女性冒険者は、小さく肩を落とす。


「……なんだ、ちょっとだけ期待したのに」


 彼女の唇には微かな動揺の笑みが浮かんでいる。


『悠真なんで断った?』

『さっきまでの勢いはどこへ』

『何かに気づいたな絶対』


 コメントが容赦なく流れる中、女性の横をすり抜け悠真は、瓦礫を避けながら、アイリス似の石像があった場所へと歩を進めた。


 ──しかし、そこに今は何も無い。

 彼は石像があったはずの場所へと視線を這わせる。


 そこには跡すら残されていなかった。

 記憶に刻まれている例の姿が、まるで幻だったかのように。


「……な、無い……」


 悠真の喉が鳴った。冷や汗が再び背筋を伝う。

 顎が引きつり、呼吸がまたも浅くなる。


 過呼吸という単語が頭を掠めた瞬間、彼は額に浮かぶ汗を拭いながら、必死に頭の中で言い訳の構築を始めていた。


 ──あれは違う。きっと違う。

 あんなにプライドが高く、潔癖な女が、あんな姿で晒されているはずがない。


 第一、顔もどこか似ていただけで、狐耳の形だって記憶違いだった可能性も──いや、そもそも似たような石像なんてそこら中に……。

 

 悠真は自分に都合のいい推論を積み重ね、わざとらしい安堵を心に溜め込もうとする。

 そうでもしなければ、まともな思考ができなくなりそうだった。


「ふ、ふぅ……っ。そう、きっと……べ、別人、だよな。まさか、あんな石像があのお嬢様なわけ……」


 半ば呟くように言いながら、彼はもう一度、石像が置かれていた場を確認する。

 そこに人の気配はなく、ましてや金色の狐耳を持つ高慢な貴族の気配など、どこにも存在していなかった。


「よしっ……! 無い。うん、何も無い。よかった……まじでよかった……」


 まるで審判を免れた被告のように、悠真は全身から力を抜く。

 膝が笑いそうになるのを堪えながら、ゆっくりと後ろに身体を向ける。

 どこまでも逃げたかった。現実から、記憶から、そして自分の行為から。


『なにがあったか大体わかる~』

『顔が死んでるな』

『ニヤニヤが止まらん』


 コメントが容赦なく流れていた。彼は無言で、それを無視する。

 だが──彼の脳裏に、もう一つの欲望が形を成した。


「……って、そういや……」


 ごくり、と喉を鳴らす。


「さっきは焦って断ったけど……あのグラマーなお姉さん……胸、揉ませてくれるって言ってたよな……?」


 その言葉に出した瞬間、理性という名の防壁はあっけなく崩れ去った。

 脳内に柔らかな質感の記憶が溢れ出す。

 湿気た空気の中で、悠真の身体の内側だけが、妙に熱を帯びていた。


「よしっ……! まだ今なら間に合う! 気が変わってないかもしれない! いや、変わってないはずだ! 急げ、俺!」


 己を奮い立たせるように、前髪をかき上げ叫ぶと、彼は地を蹴って走り出す。


「……おっぱい……おっぱい……グラマーの癒し……!」


 その呟きは明らかに正気のそれではなく、理性と欲望の綱引きが末期的な段階へと突入した証左だ。

 目的は、ただ一つ。


 一度はチャンスを逃したが、あの豊満な胸元に再び触れられる可能性があるという、救済にも似た儚き希望を求めての行動だ。


「急がなきゃ……あの人、気が変わらないうちに……!」


 そうして一歩、また一歩と進む悠真の背後──否、左肩の直ぐ後ろから、突如として白い手が飛び出した。


「っ……!?」


 掴まれた。肩を、確かに、固く、逃げられない力で。

 振り向く暇すら与えられないまま、その手の主は彼の身体を引き寄せる。


 路地の奥、建物と建物の狭間にある人気の無い空間──薄暗く、人の目に触れにくい死角へと連れ去られた。

 そして、次の瞬間である。


 彼の背が石壁に叩きつけられた。

 乾いた衝撃が背骨を伝い、建物の外壁は冷たく、苔の湿り気すら感じさせる質感。


 割れた漆喰の隙間からは、小さな虫が這い出そうとしている。

 悠真は咄嗟の出来事に、思考を凍らせたまま、ただ壁に凭れていた。

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