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「お前は戦力外だ」と追放されたカードゲーマー、伝説級レアカードで無双する ~元クラスメイトたちは没落したけど、俺は美少女パーティーとダンジョン配信で大成功しました~  作者: どすこい。お嬢様
第四章

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第11話 石像を生み出し魔物との一騎打ち

「はぁはぁ……!」


 冷たい。石像の頬に触れた指先は、まるで墓石にでも触れたかのような寒気を覚える。

 しかし、その硬さとは裏腹に形状はあまりにリアル。


 滑らかな石肌の起伏、細やかな質感。

 むしろ生身よりも丁寧に造られているかのような完成度。

 

(おいおい……職人、お前絶対変態だろ)


 悪戯心に突き動かされ、ついに彼は顔を近づけた。

 ひび割れひとつないその口元に、自らの唇を重ねようとした、その瞬間────カタリ。


「……え?」


 石像が──動いたように見えた。

 ごく僅か。指先に伝わるほどの振動。

 だがそれは、確かに"拒絶"のような気配を帯びていた。


「今の……気のせいか?」


 悠真は一歩、後ずさる。

 冷や汗が背中を伝う。


 視界の片隅で石像の口元が僅かに──歪んだように見えたのは、ただの幻覚だろうか。

 固まったままの瞳が、まっすぐにこちらを向いているような気がした。


 再び沈黙が、通路を支配する。

 彼は、もう一度石像を見た。

 そして、静かに言い放つ。


「……わかった。調子に乗りすぎた。ごめんな」


 その声は誰に向けたものだったのか。

 像か、自分自身か、あるいは観測者のいない神への言葉だったのか──


 悠真は布を外し、再びマギスフィア・ミニを石像へと向けた。

 そう、まるで何事もなかったかのように。


『なにしてたんだよ、悠真』

『カメラ切れてたぞ』

『何してたの?』

『石像に何かしてたんですか~?』


 コメントが容赦なく流れた。

 悠真は前髪を掻き上げ、何も答えない。


「にしても……やたらと多いな」


 彼の呟きが宙に消える。

 改めて周囲を占める石像の多さに、悠真は違和感を覚えた。

 どれもこれも、異常なほど精緻で、しかも"人"を象ったものが多い。


 その中には苦悶の表情を浮かべたまま固まったような像もあり、芸術というより呪いに近い不気味さを醸している。

 美術館にしては生々しすぎ、遺跡にしては数が多すぎるのだ。


「……いや、まさかな」


 嫌な予感が脳裏を駆け巡るが、その考えを否定するように悠真は眉をしかめる。

 そんな時だった。背後から突如として──


「きゃあああああっ!」


 金切り声にも似た女の悲鳴が空間を裂いた。

 咄嗟に振り返った悠真の視界に、長い銀髪を振り乱しながら全力で走る、女性の姿が飛び込んでくる。


 顔には恐怖の色が濃く、白い喉元まで露わな、軽装のローブが乱れていた。

 長く尖った耳──エルフ族である。


 外見的な年齢は若い。二十歳前後。

 肌は白く、整った顔立ちは絶叫に歪みながらも、美貌を隠しきれていない。

 腰には短弓を提げていたが、それすら忘れたかのように両手を振って逃げていた。


「はっ、はっ、はあっ……!?」


 その場に立ち尽くす悠真を見つけるや否や、彼女は全身を滑らせるように止まり、額から汗を滴らせながら目を見開く。


「なっ……なにしてんの! すぐに逃げてっ! あなた、何にも気づいてないの!? この階層は、もう終わってるのよ!」

「はぁ? 一体何の話を──」

「ここには"蛇工鬼(ジャコウキ)"がいるのよッ!」


 鬼気迫るエルフの声から、その名を聞いた瞬間、彼は心臓が跳ねた。

 聞き覚えはない。しかし、悠真の本能が告げていた。


 "それ"は間違いなく、ただの魔物ではない。

 彼の手がデッキケースへと無意識に伸びる。


「さっきまで、仲間が五人いたの。私たちパーティーで、この階層を攻略してて……。でもあいつ、目が合った瞬間に──瞬きひとつの間に、みんな……石になった。全員が。何の叫びもなく。ただ、一瞬で……! もう──私しか、いないのよ!」


 彼女の肩が震えている。

 冷気でも、疲労でもない。

 あきらかに、怯えの震えだ。


 悠真は無意識に、周囲の像へ視線を移す。

 どれも生々しい。

 苦しみの表情、助けを求める手の形、叫びかけたように開いた口元。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。順番に話して──」


 彼が聞き返そうとした、その瞬間である。

 ──音がなかった。


 足音も、気配も、風切り音すら。

 女性の背後の闇から、それは滑るように現れる。


「──っ!?」


 気づいた時には、すでに遅かった。

 濡れた肉音が響く。


「──ッッ……あ゛あ゛あ゛あ゛あッ!」


 女性の絶叫が、遺跡の天井まで突き抜けた。

 肩口に魔物の牙が、深々と食い込んでいる。


 悠真は一歩踏み出しかけたが──次の瞬間、足が止まった。

 女性の肩口から、白い何かが滲み出していた。

 石化だ。


 噛まれた部位を中心に、みるみるうちに肌が白く変色していく。

 指先から、腕から、首筋から──まるで水が染み込むように、石の色が全身へと広がる。


「──逃げて……!」


 彼女の声は、すでに掠れていた。

 石化が喉元まで迫っているのが見て取れる。

 それでも女性は、最後の力を振り絞って、悠真へと視線を向けた。


「貴方まで……石化して、しまう……!」


 それだけ言うと彼女は──完全に動かなくなる。

 絶叫の表情のまま、腕を悠真へと伸ばしたまま、そのまま白く固まっていく。


 数秒後には、そこには一体の石像だけが残っていた。

 静寂が戻る。


「…………」


 しばらく彼は動けなかった。

 目の前で人が石と化したのである。

 ついさっきまで喋っていたエルフが、今や冷たい石として場に佇んでいた。


「……落ち着け。考えろ」


 深く息を吸う。

 ゆっくりと視線が、遺跡全体を改めて捉え直す。


 無数の石像。驚愕の表情。叫びかけた口元。

 逃げようとした姿勢。助けを求めた手の形。


「……そういうことか」


 全てが繋がった。これらは彫刻でも工芸品でもない。

 全て、この場所で魔物に噛まれた者たちだ。


 冒険者の格好をしているのは当然のこと。

 彼らは皆、このダンジョンを攻略しようとして、この遺跡エリアに踏み込んで、そして──


「元凶は今、俺の目の前にいる」


 悠真の視線が女性を噛んだ魔物へと向く。

 だが視線を交わす事は出来ず、あくまでも腹部の位置までだ。


 それは──人の形をしている。

 上半身は女性だった。

 胸元は薄い鱗だけで覆われており、豊満な双丘の輪郭が、はっきりと浮かび上がっている。


 腰まで届く漆黒の髪が、風を受けて優雅に揺れていた。

 肌は鱗に覆われており、青緑色の光沢が魔石灯の光を受け、妖艶に輝いている。


 顔立ちは当然の如く確認できない。

 そして下半身は、巨大な蛇である。

 鱗に覆われた長大な胴体が地を這い、その動きに合わせて微かな音が反響した。

 

 腰のくびれから、蛇の胴体へと移行する部分には、細かな金の鱗が密集しており、まるで装飾のように美しい。

 

 そう、美しいのだ。

 そして、なにより致命的に危険である。

 蛇工鬼。その瞳と目が合えば、あるいは牙が触れれば──石化する。


「……ったく、目を合わせるな、噛まれるな……ってか。はぁ、縛りが多い魔物だな」


 デッキケースを開けると悠真は、静かに闘気を全身に巡らせて戦う決意を固めた。


「領域能力――"決闘結界”デュエル・フィールド! オープン!」


 戦闘開始の言葉を告げ、彼の足元に魔法陣が広がる。

 デッキケースから、五枚のカードが空中へと浮かび上がった。


 そして蛇工鬼から伝わる視線の圧が、悠真の動きを静かに迫る。

 更に魔物からは唸り声のような、重低の音のようなものが囁かれ、それは対話が不可能であることを告げていた。


『うわやばい』

『さっきの女性……』

『悠真、目合わせんなよ絶対』

『これマジのやばいやつじゃん』

『頼む! 悠真ッ!』


 コメントが怒涛のように流れる中、やや視線を逸らしたまま悠真は、手札から一枚のカードを引き抜く。

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