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「お前は戦力外だ」と追放されたカードゲーマー、伝説級レアカードで無双する ~元クラスメイトたちは没落したけど、俺は美少女パーティーとダンジョン配信で大成功しました~  作者: どすこい。お嬢様
第四章

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第10話 まるで本物?石像たち

「も──! またそうやってからかう!」


 二人のやり取りを聞いていたシャルルは、両手を上下に勢いよく振りながら声を荒げる。


『火照りってそういう意味でしょ!?』

『入浴配信待ってます!』

『ホウキさんの横顔が尊い……』


 視聴者たちのコメントが、また一段と加熱していくなか、ゆっくりと悠真は立ち上がった。


「……よし、残りの採取物は鉱石があと二種類。草と果実は大体回収済みってとこか。……うーん、この先の奥も気になるところだ」


 周囲の探索範囲を確認しつつ、彼は外套を軽く払う。


「しかし……奥の区域には未確認の魔物が現れたという報告もある。深入りは危険ではないか」


 アウラが眉をひそめる。

 猫耳がわずかに後方へと傾いた。


「大丈夫だ、そんなに奥までは行かない。ちっとばかし様子を見て来るだけだ」


 肩を竦めてみせると、悠真は足を進めて奥へと向かう。

 そしてダンジョン第七十階層──その深部、開けた空間に彼は一人、足音を忍ばせながら歩いていた。


「……ここはまた、随分と様子が違うな」


 悠真の声が遺跡に響いた。

 反響音が、酷く長く尾を引く。


 周囲に敵性反応はない。だが何かが、違っていた。

 視界の先、天井の高い石造りの空間が広がっている。


 全体の構造は半壊した神殿のようで、天井の大部分が崩れ、むき出しになった岩盤からは青白い魔光が微かに降り注いでいた。


 壁面の彫刻は風化し、誰かが記録したであろう、古代文字の多くは判読不可能になっている。

 石畳の床にはひび割れが走り、苔が繁殖していた。


 風通しは良すぎるほどで、空気が循環していることに、かえって不安を覚えるほど。

 そしてなにより──目に留まるのは石像の数々。


「……これ、全部……?」


 悠真が歩を進めると、その周囲に並ぶ石像群が、よりはっきりと見えてきた。

 人の背丈ほどもある石像が無造作に、まるで捨て置かれたように立ち尽くしている。


 男女様々、体格も年齢も異なっていた。

 その中には若い女戦士のような姿もあれば、年老いた魔術師然とした男もいる。


 だが、共通している点もあった。

 ──どれもこれも、驚愕の表情を浮かべている。


 両目を見開き、口元を凍りついたように歪めたまま、全身を硬直させた石像たち。

 彫刻されたものとは到底思えぬほど、その表情は生々しく、まるで直前まで動いていたかのような臨場感を放っていた。


「……冗談だろ」


 悠真は一つの石像に近寄り、その頬を優しく右手で撫でる。

 冷たい石の感触。しかし、その細工は尋常ではなかった。


 髪の毛一本一本が丁寧に彫られ、肌の質感までもが表現されている。

 まるで生きた人間を、そのまま石にしたような──そんな異様さ。


 視線をずらす。次の像も、その次の像も、どれも似たような表情と構えをしていた。

 剣を振り上げたまま固まっている者もいれば、逃げ出す途中で振り返ったような格好の者もいる。


 そして彼は、ある事実に気づく。

 ──この石像たち、冒険者の格好をしている。


 レザーアーマーやローブ、軽装鎧に至るまで、どれも実用的な戦闘装備。

 装飾品の一つ一つも、ダンジョン探索者が実際に用いるものと瓜二つだ。

 服装、武具、表情、姿勢──そのすべてが”実在する人物”を元にしているようにしか見えない。


「これ……本物だったり、しないよな?」


 喉の奥で呟きが漏れる。悠真の茶色の瞳が鋭くなった。

 ダンジョンで石化の呪詛に見舞われる例は稀ではない。


 しかしこれほどの数、それも同じような驚愕の表情で、というのは尋常でしかないのだ。

 しかも、その中には綺麗な状態で保存されている像もある。


 割れも欠けもせず、まるで今しがた作られたかのような美しさを湛えた石像が、点々と空間に佇んでいた。


 そして彼は形容し難い悪寒を感じると、マギスフィア・ミニを操作して、自分が今見ている光景を視聴者たちに届ける。


『うお、なんだここ』

『石像だらけじゃん』

『なんか怖くね?』

『この階層、こんなギミックあったっけ?』

『悠真、早く戻れ』


 即座に多くのコメントが流れた。

 その大半が、この異常空間に対して、違和感を感じている様子。

 いつもの軽口が影を潜め、どこか切迫したような言葉が多い。


「……確かに。これ、普通じゃねぇな」


 悠真は声に出し、改めて周囲を一望した。

 光源は天井の崩落から射す魔光とのみ。


 それでも、闇の中から浮かび上がる像の群れは、視界を支配するには十分すぎた。

 足を止め、息を潜めながら一体ずつ、像を観察していく。

 だが……ふと、足が止まる。


「……なんだ、こいつだけ……」


 彼の視線が、一体の石像に留まる。そこだけが、異様なのだ。


「これは……まさか、あの女騎士?」


 悠真は近づき、腕を組みながら石像の周囲を、ゆっくりと歩く。

 ──あの、鼻持ちならないほどプライドが高かった女。

 だいぶ前に別の階層で接触した人物だ。


 礼儀知らずな態度と、剣技への過剰な自負が印象的で、彼の中では悪い意味で記憶に残っている。

 そんな女性の石像が今、悠真の目の前にあり、それはまるで本人のように瓜二つだ。


 貴族趣味の意匠が施された軽装アーマーが、精巧に石として再現されている。

 だが、それにもかかわらず、その隙間から覗く肌の質感までもが生々しい。


 金の縁取りが石の中に刻まれ、家名の刻印すら正確に再現されていた。

 頭部には大きな金色の耳──獣人特有の形状まで一本一本の毛並みが丁寧に彫り込まれている。


 腰から延びる一本の尻尾は、まるで風に揺れる直前で止まったかのような、自然な角度で固定されていた。


「職人の……技術なのか? いや、これは──」


 腰を屈めて悠真は、石像の脚部を見つめる。

 腿のあたり、鎧の合間から見える部分に、うっすらと傷が刻まれていた。


 まるで戦闘中に負った斬撃の名残のように見える。

 彼の眉間に皺が寄った。


「まさか、本物が……石化された?」


 声に出して言いながらも、信じられぬ思いで、その表情を眺める。

 石像の顔は──怒りと恐怖とをない交ぜにしたような、異様に生々しい顔つきで空を睨みつけていた。


 叫び声の直前で止まったかのような唇、張り詰めた頬、見開かれた蒼い瞳。

 前に出会ったときの傲慢な笑みなど微塵もなく、ただ強烈な感情だけが、その石の顔に刻み込まれている。


 腰まで届くはずの艶やかな金髪は、石となった今もなお品よく広がり、前髪は乱れなく整えられたまま固まっていた。

 スレンダーながら女性らしい曲線を持つ体躯が、砕けかけた鎧の隙間から白い石肌を覗かせている。


「──くっころ、ってやつか……?」


 悠真は思わず呟いた。

 その言葉を口にした瞬間、目の前の石像が怒りに震え、こちらを睨み返してきそうな錯覚に襲われる。


「……悪かったな。そう思われても仕方のない格好をしてるんだよ、これは」


 その声もまた、沈黙の空間に吸い込まれてゆく。

 悠真は息をつき、腰元から生体反応用のクリスタルを取り出すと、石像の胸元にかざす。


 淡く発光する青白い光が、石肌を舐めるように走る。

 ……だが、何の反応も示さない。


「生体反応、ゼロか。やっぱり……ただの像か?」


 否、それは希望的観測にすぎなかった。

 これほどの完成度──否、存在感を放つ石像など、ただの美術品であるはずがない。


 彼は立ち上がり、石像の顔を改めて見つめ直した。

 白く硬いはずの石の頬には、まるで涙の痕のような光沢がある。


 ふっくらとした唇は形状を保ち、鼻梁は高く、凛とした意志を感じさせた。

 頭頂部の狐耳は、怒りに逆立ったまま固まっている。


 美しかった。

 美しいからこそ──この姿で動きを止められたことに、どこか背徳的な気配がある。


「これを彫った職人がいるとすれば、そいつは──とんでもない変態か天才のどちらかだな」


 皮肉気に笑いながら悠真は、最後にもう一度、石像の全身を見渡す。

 その瞬間、背後の闇が僅かに蠢いた気配がした。

 風もないはずの地下空間で、微かに前髪がなびく。

 

 けれど魅惑的な石像を前にして、思考は静かに、しかし確実に別の方向へと逸れていく。

 ──石像の、わずかに開いた唇。

 ──スレンダーながら、はっきりとした女性らしい曲線。

 ──白い石肌から覗く、柔らかな小腹のくびれ。


「…………っ!」


 脳裏を一筋のよこしまな発想が稲妻のように走る。


(……いや、カメラを隠せば誰にも見えないよな?)


 自分でも呆れるほど、低次元な衝動。

 だが、童貞の欲望とは理性を凌駕する。


 それが例え石像であっても、美しい女の姿を前にして、動物的な本能は否応なく刺激されるのだ。

 悠真はマギスフィア・ミニのカメラを布で覆う。


 配信者としての最低限の心得。映してはいけないものは映さない。

 そして、ゆっくりと手を伸ばした。

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