第9話 新たなパーティーの連携
「じゃあ、懲罰される前に楽しんじゃう? ……なんてね。ふふ、冗談だよ」
手を口元に添えながら、シャルルは小悪魔のような笑みを零し、その場を後にする。
だが悠真は内心で──いや、外面でも名残惜しそうに、その後ろ姿を見送っていた。
「色事にかまけて寝首をかかれても、それはいけませんぞ。悠真様」
横からホウキが涼しい顔で釘を刺す。
悠真は苦笑しながら、そそくさと自室へと戻った。
「……ま、何にせよ、今日の戦いは一区切りついたってことだな」
そんな安堵を胸に、悠真は寝台に身を預け、軽い溜息を吐き捨てるのであった。
――それからアウラが仲間になり瞬く間に数日が経過すると、とある高級宿屋の一室にて悠真たちは起床を果たす。
「ふぁあ……今日も寒いね。朝食、もっと温かくしてほしかったな」
白いマグカップを抱えたシャルルが、長く細い耳を伏せながら言う。
淡い金色に近い銀髪がふわりと揺れ、クリーム色の軽鎧の下に着込んだ、薄手のブラウスの袖を引き寄せている。翠色の瞳が眠たそうに細まっていた。
「貴様が寝起きに、半端な格好でうろついていたせいで、宿の料理長が混乱していたのだ。自業自得だろう」
口元をぴくりとさせながら、アウラが背筋を伸ばして言い返す。
今日も変わらず帝国軍の制式制服に身を包み、襟は正確な角度で留められている。
銀灰色の長髪は一分の乱れもなく、頭頂部の猫耳がぴんと立っていた。
「でもほら、コメント欄は朝から盛り上がってたし?」
そう言うとシャルルは指を鳴らして、部屋の真ん中に設置されていた魔道具を起動させて、白色の木製の壁に今朝の寝起き配信のコメント欄を表示していた。
『シャルルたんの寝起き配信助かる』
『シルエット見えた! シルエット見えた!』
『おはようございますアウラ中尉! 今日も一日忠誠を尽くします!』
『ホウキ様に正座で朝のご挨拶したい人生』
『悠真、今日の外套の色も渋いな』
朝一でシャルルが独断で始めた配信に書き込まれた、視聴者たちのコメントの数々は今日も個性豊かである。
「まったく……規律もへったくれもないな、視聴者どもは」
僅かに頬を赤くさせながらも、アウラは視線を泳がせていた。
明らかに彼女も、コメントに目を通している様子。
その証拠に、猫耳が小さく動いている。
そして悠真は部屋の奥で、一人用の椅子に腰をかけ、マギスフィア・ミニの準備をしていた。
寝癖の残る暗い茶髪に、覇気のない茶色の瞳。
しかし、その指先は迷いなくデッキケースを確認し、今日の手札を静かに整えていた。
「おい、配信回すぞ。ホウキ、準備できてるか?」
「はい、いつでも参れます」
静かに立ち上がったのはホウキである。
黒いポニーテールを力強く結い直し、東の国風の軽装和装を纏った凛とした佇まい。
腰の太刀を一度確かめるように手で触れ、切れ長の黒い瞳が真っ直ぐに前を向いた。
「よっし、それじゃあ今日もいきますか。リスナーの皆、応援よろしくな」
配信を開始させると共に、その言葉を口にすると、悠真は右手を軽く振り挨拶を行う。
『待ってたぞおおおおおおお』
『悠真キタァァァァ!』
『アウラ中尉ーッ! 踏んでください!』
『シャルルたん今日も最高だ……』
『ホウキ様ァ! 俺の魂、刀の錆にしてください!』
配信が開始されて早々に、熱意の宿るコメントが続々と投下される。
「今日も騒がしいな……」
苦笑しながらも、悠真は装備を整えた。
女神から渡された漆黒の外套を肩に羽織り、デッキケースを腰に固定する。
四人は宿の一階、ロビーへと降りると、そのまま宿屋を出て今日も今日とて、ダンジョン攻略を目指すべく、深部へと向かう為に足を進めた。
「今日も全員、無事に帰る。それが最優先だ。──行くぞ」
「承知いたした。正々堂々と、参りましょう」
「了解だよ、悠真くん」
「……任務遂行を最優先とする。各自、油断するな」
全員が己の果たすべき役割を理解すると大きく頷いて反応する。
『このパーティー、マジで最高』
『推しが多すぎて困る』
『アウラ中尉に叱られたい』
『ホウキ様の視線だけでご飯三杯』
『悠真、頼むから我が夫になってくれ』
視界の端で続々とコメントが書き込まれる中、悠真たちは淡々と足を進めると段々と、安息地の喧騒が遠ざかってゆく。
――そして悠真たちはダンジョン七十階層──かつては『落雷の苗床』とも呼ばれた危険区域へと到達した。
この層も、現在では攻略者の手によりある程度の制圧が進み、条件付きで一部の冒険者たちに開放されている。
それでも魔物の数や危険度は高く、油断をすれば即死もあり得る深層であることに変わりはない。
そんな場所に、四人の影が蠢いていた。
「この鉱石、思った以上に含有率が高いな。こいつは商人たちも喜ぶぞ」
ゆっくりと腰を落として、悠真は手にした鉱石を確かめている。
そして彼の言葉に対し、すぐ傍で屈み込んでいたアウラが応えた。
「おそらく"雷霊晶"だ。七十階層でも、この東側の水脈帯でしか見られない希少鉱。任務完了の報告と共に、正式な見積りも提出しよう」
彼女の帝国軍制服は、常に皺ひとつなく整えられている。
黒と濃紺の詰襟が首元に沿い、金属の留め具が軍人としての威厳を象徴していた。
銀灰色の長髪は綺麗に流れ、頭頂部の猫耳が前方へ向く。
その表情は何時も通りの硬さを保ち、視線には妥協というものが微塵も見えない。
「ねえ! 見て見て──! この果実、めっちゃ甘い匂いがするんだよ。ほら、カメラ寄って!」
シャルルの声に応じて、映像が一瞬ピントを変えた。
クリーム色の軽鎧の下から覗くしなやかな四肢が、魔石灯の光を受けて白く輝いている。
淡い金色に近い銀髪がふわりと肩にかかり、長く細い耳がわくわくしたように前方へと向いた。
白い指先が持ち上げた赤橙色の果実は、表面が宝石のように輝いている。
『シャルルたん今日もかわいすぎワロタ』
『その果実になりたい』
『ちょ、果実よりお前の耳の方が気になるわ』
配信画面には視聴者のコメントが次々に流れた。
「もう、そんなに見られたら照れちゃうじゃん……でも果実はすごいんだよ、ほんと。甘い匂いでうっとりしちゃう……」
コメントの集中砲火を浴びた彼女は僅かに頬を赤らめるが、まるで案件のように果実を扱い視聴者たちに見せつける。
『おほ~~!』
『えちえちすぎるだろ!』
『果実=意味深ワード認定』
コメント欄では脳を焼かれた一部の者たちが騒ぐ。
だがその隣では、無言で野草を摘んでいた少女が、横目でシャルルを見た。
そう、ホウキである。
東の国風の軽装和装に、腰には太刀を一本差していた。
艶のある黒髪のポニーテールは、この階層の湿気のせいで艶を増している。
「……この草……懐かしい香りがする」
彼女の所作は終始静かで、手入れの行き届いた草花を摘み取る指先に、わずかな感慨が滲んでいた。
「ん? 何か知ってるのか?」
悠真が声をかける。
「故郷の山中にて似たような草を、母と摘んだことがあります。乾かし、煎じて、湯浴みに使うと肌の火照りを鎮める効果があると」
彼の顔を見てから、ホウキは微かに表情を和らげた。
「へぇ……それってつまり、シャルルの火照りにも効くってことか」
彼女の言葉に悠真は両腕を組み、眉間に皴を寄せると真剣な声色を出して返す。
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