第8話 仲間が増えますよ!
「……私は、もう彼らを部下とは思わない。会えたら、粛清する。国家の法に則って、罰する。逃げた者には、死が相応しい」
拳を握り直し彼女は、再び元の場所へと戻る。その足取りには、もはや迷いはない。
「この手で殺す。誓う。あの者たちを、私の手で──粛清する」
宣言のような一言に、誰もが返す言葉を持たなかった。
悠真は無言のまま、アウラの横顔を見つめる。
(……こいつ、本気だ)
それだけは、はっきりと分かった。
「そして悠真……。貴様に頼みがある」
そう言うと彼女は、その場で立ち上がり、硬い地面に膝をつける。
片膝を立てるでもなく、完全に正座の姿勢で。
そして、躊躇いなく頭を深々と地につける。
まるで騎士が主君に忠誠を誓う時のように。
「私を……仲間にして欲しい」
猫耳が深く伏せられた。
洞窟に静寂が満ちる。
魔石灯の青白い光が、彼女の姿を照らし出していた。
「……一人では無理だ。このダンジョン、ソロで攻略なんてできない。私にも多少の力はある。だが……それだけでは到底届かない。あれだけのアンデッドを相手にするには、私一人ではどうしようもなかった」
頭を下げたまま、言葉を絞り出すように続ける。
「それだけじゃない。私には……主君から直接、託された命令がある。このダンジョンの調査と踏破。それは、私が必ず果たさなければならない任務だ。だが一人では、攻略も任務も、どちらも不可能だ」
アウラは頭を上げ、悠真の目を見つめた。
青灰色の瞳は充血し、それでも諦めを含まず、揺らぎもしない。
「貴様たちならできる……実際に見た。あの大量のアンデッドを、真正面からぶち破って進む力を。貴様たちの"特質"を」
その言葉には、一切の嘘偽りがなかった。
「自分勝手なことを言っているのは分かっている。私の事情に、貴様たちを巻き込もうとしている。それも理解した上で……それでも、頼む」
認識票を握りしめた手を、アウラは胸元に当てる。雪白の拳が、微かに震えていた。
「この任務は、私の誇りだ。命を懸けてでも、果たさなければならない。例え、この手が血に染まっても。どれだけの困難があろうとも。私は最後まで……主君の騎士でありたい」
声は震えている。懇願ではなく、誓いのように。
魔石灯の光が、彼女の頬を照らす。
そこに滲んでいるものが、汗か涙か判別はできなかった。
その光景を一言も発さずに、悠真は見つめている。
前髪が目元にかかり、その奥の茶色の瞳が、静かにアウラを映していた。
ホウキは無言のまま太刀の柄を握り、切れ長の黒い瞳を細めている。
シャルルは長く細い耳を前方へ向け、翠色の瞳でアウラの横顔を見つめていた。
誰も口を開かなかい。
僅かに魔石灯が揺れ、影が洞窟の壁に広がった。
「ふーむ……困ったなあ、仲間が増えると飯代もかさむし、分け前も減るしなあ……」
そう呟きながらも悠真の口元には、どこか悪戯っぽい笑みが浮かんでいる。
その言葉に一同が一瞬だけ固唾を飲む中、すぐに彼は顔を上げ表情を改めて言い放つ。
「……ま、でも! 配信的には最高だし、何より──あんたみたいな実力者が仲間になってくれるってのは、こっちとしてもありがたい話だ」
そう言いながら悠真は、アウラの方を見やった。
頭を下げていた彼女は静かに顔を上げる。
雪白の頬に汗と血の跡が滲み、銀灰色の長髪が乱れていた。
それでも青灰色の瞳には、先程までの揺らぎはない。
「感謝する。……このような形で拾われることになったが、私の軍歴において、これを恥とは思わない。誇りとする」
その言葉は短く、しかし確かな重みを持っていた。
「私からも、歓迎いたす」
静かにホウキが口を開く。
太刀を腰に収めたまま、真っ直ぐにアウラを見据える。
黒いポニーテールが揺れ、切れ長の黒い瞳に珍しく温かみが宿っていた。
「己の誇りを守るために頭を下げる覚悟……武人として、敬意を抱かぬ道理はございません。正々堂々と、共に戦いましょう」
東の国風の軽装和装が、薄暗い洞窟の中でも凛とした気配を放っている。
「僕からも歓迎だよ、アウラさん」
おっとりとシャルルが微笑んだ。
翠色の瞳が彼女を柔らかく捉え、柔らかく長く細い耳が揺れる。
「こんなに格好いい軍人さんとパーティーを組めるなんて……悠真くん、なかなかやるじゃない」
「俺は何もしてねぇよ」
シャルルの軽く口に、悠真が即座に返す。
「……ありがとう、皆」
もう一度アウラは、ぎこちないながらも頭を下げた。
猫耳がぴくりと動き、尻尾がゆっくりと揺れる。
それは、これまでの彼女には見られなかった、確かな安堵の気配である。
「じゃあ、とりあえず今の問題は解決ってことで……次の問題に移るか」
「問題、とは?」
悠真の言葉に、ホウキが静かに尋ねる。
彼はアウラの全身を改めて視線でなぞった。
血の滲む制服、そして手の甲には微かな震えが残る。
「……なあ、どう考えても今のお前、無理すんなって顔してるぞ?」
それは半分からかうような調子だが、悠真の言葉に嘘はない。
アウラは反論しようとしたが、その直後わずかに足をふらつかせた。
「今日は一旦休もう。安息地に戻って、飯食って風呂入って、寝る。それが今の最善だ」
悠真が断言すると、他の仲間も小さく頷く。
「御意。本日は骨身に応えました。身体を癒すも、また武人の嗜みにございます」
静かにホウキが同意した。
切れ長の黒い瞳が、アウラの状態を冷静に見極めている。
「うん。アウラさんの状態を考えると、このまま深部に進むのは危険だよ」
翠色の瞳を細めながら、シャルルは穏やかな口調で諭す。
そのやりとりを聞いていたアウラは、少しだけ申し訳なさそうに表情を曇らせる。
「……せっかく頼み込んで、パーティーに入れてもらったというのに、いきなり足を引っ張るようで、すまない」
頭を下げる彼女の姿に、それ以上の言葉を誰も重ねようとはしない。
悠真は腰に差していた帰還核を取り出した。
「よし、行くぞ」
青く発光する核に、彼が魔力を流し込むと、足元に緩やかな魔法陣が広がり始める。
光が四人を包み込み、次の瞬間、ダンジョンの深部から姿が消えた。
そして安息地へと帰還すると、悠真たちは高級宿屋へと向かい、そこで一日の疲れを癒す。
一行は、それぞれの部屋で荷を解くと、食堂で簡単な食事を取り、やがて入浴の時間となった。
「ねえ、悠真くん。背中、流してあげようか?」
女性陣が温泉へ向かおうとした矢先、宿屋の廊下の人気が無い一角にて、シャルルが意味深な微笑を浮かべながら悠真の手を取り、上目遣いで問いかける。
長く細い耳がふわりと揺れ、翠色の瞳が悪戯っぽく細まっていた。
「おいおい……。まさか本当に一緒に入ろうってか……?」
突然の彼女の言葉に、目を丸くする童貞の悠真。
「だって悠真くんは僕の恩人だもん。これくらいの奉仕は当然かなって……。ねえ、アウラさんも、いいよね?」
シャルルは話を続けると、唐突に話題を自身の隣に立つ彼女に振る。
「……貴様、何を言っているんだ。混浴など、軍の規律では懲罰対象だぞ」
急に話を振られたアウラは、タオルを持っていた手を止めた。
猫耳がぴくりと逆立つ。
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