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「お前は戦力外だ」と追放されたカードゲーマー、伝説級レアカードで無双する ~元クラスメイトたちは没落したけど、俺は美少女パーティーとダンジョン配信で大成功しました~  作者: どすこい。お嬢様
第四章

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第7話 任務放棄は銃殺刑

「さっき……あの縄の事だ。あれは本来、高位魔術師でなければ解除できない代物だ。私も軍で訓練を受けたが、解除の手順はすべて詠唱付きで、時間制限付き。しかも対象を誤認すれば、逆に縛る側が自爆するようになっている。容易に触れられるものではない」


 彼女の眉が僅かに寄せられる。猫耳が前方へと向いた。


「貴様は……それを、カードから具現化させたアイテムだけで……あんな風に」


 アウラは言葉が続かない。

 彼女は自分が話していることの現実味を確認するように、右手を軽く胸の前で握る仕草をした。


「ゆえに……貴様はもしかして、かなりの高位魔術師なのか? 七階級、いや、八階級クラス……白金術士か黒炎司教級の使い手、と……そう私は判断したが」


 その言葉はまっすぐで、そこに揶揄や侮蔑の色はない。

 ただ純粋な分析と、理解しようとする軍人としての意思がある。

 だが──悠真はデッキケースの表面を静かに指でなぞり、湿った空気を軽く吐き出した。


「……俺は、ただのデュエリストだよ」


 うっすらと口元に笑みを浮かべながら、彼は堂々と答えて言い切る。

 まるで誇らしげに。まるで世界のすべてが、そこに帰結しているかのように。


 それを聞いてアウラは、しばらく無言だった。

 青灰色の瞳が、悠真を捉えたまま、瞬きを一つする。

 猫耳がぴくりと動いた。


「……デュエリスト」


 復唱するように、彼女は静かに呟く。

 その言葉の意味を、軍人としての知識の中で照合しようとするかのように。


「聞いたことのない職種だ」

「まあ、そうだろうな」


 悠真は肩をすくめた。

 前髪が目元にかかり、その奥の茶色の瞳が、どこか楽しそうに細まる。


「……それで」


 掠れた声をアウラは出すが、その語調には何かを決意した者の強さがあった。

 悠真は何も言わず目を向けると、力強く彼女は彼の瞳を見返す。


「……話の続きをする。止めていた部分だ」


 その一言は自分の傷を無視してでも、語るべき何かがあるという意志の現れのようだ。

 悠真は頷いたまま、言葉を挟まない。促されるまでもなく、アウラは静かに語り出す。


「……この任務。私を囮にした連中の話だが……あいつらは恐らく、もうここにはいないと考える」


 その声は淡々としていた。

 だが内側に秘めた怒りが、言葉の端々から微かに滲み出ている。


「私を、あの魔縄に括りつけ……あとは逃げるだけ。早々に戦線を放棄し、安全地帯に戻ったはずだ。いや、あるいは……ダンジョンそのものからも、さっさと脱出して、どこかに雲隠れしたかもしれない」


 そう言いながら、僅かにアウラは肩を震わせた。

 声の抑揚は変わらないが、雪白の拳が確かに震えている。


「任務を投げ出した。つまり、あいつらは二度と祖国に帰ることはできない。任務放棄は軍律違反。帝都に戻れば、即座に禁錮か、場合によっては断罪される……それを理解した上での逃亡のはずだ」


 尻尾が地の上で、静かに、しかし激しく揺れていた。

 悠真は目を細めた。

 彼女の言葉の内容と、その表情との乖離が、どこか不穏である。


 アウラの言葉は理知的だが、感情は明らかに割り切れていない。

 彼女は魔石灯の青白い光を見つめるようにしたまま続けた。

 言葉を選ぶというより、心の奥底から零れ出るような語り方である。


「……まあ、こうなる気配は……あった。最初から、あいつらは私のことを快く思っていなかった。年下で、女で、階級だけが上……そんな私が気に食わなかったんだろうな」


 唇が僅かに歪む。笑みではなかった。冷笑とも違う。

 ただ、傷に塩を塗るような、自嘲の形だ。


「どこの世界にもいるもんだな。年下の命令には従いたくないっていう……どうしようもない思考回路を持った年上のバカ共がさ」


 悠真の声は低く、だがはっきりとしたものである。

 それを聞いてアウラは、小さく目を見開いたまま言葉を受け止めると、更に彼は言葉を続けた。


「しかも、それが軍という組織であれば尚のこと酷い話だ。軍人社会って、階級が全てのはずだろ? 指揮権の序列は明文化されてるし、任務遂行においては上下関係を絶対とする。それすら無視して、感情論で指揮官を拒絶するなんてのは、組織を腐らせる元凶だ。つまり──お前は、一ミリたりとも悪くない。部下の側が腐ってた。絶対に、お前の責任じゃない」


 悠真は鼻を鳴らし、魔石灯の青白い光を見つめながら吐き捨てる。

 すると彼女の瞳が揺れた。


 魔石灯の明かりに照らされ、湿ったように光る目元には、抑えきれない感情が確かに浮かぶ。

 アウラは唇を噛みしめ、言葉を探すように顔を伏せる。

 だが、その肩がほんの少し緩んだのを、悠真は見逃さなかった。


 ゆっくりと猫耳が持ち上がる。

 静かな、しかし確かな共感の空気が広がる中、周囲に腰を下ろしていた仲間たちが、それぞれ自分の思いを口にし始めた。


 まず口火を切ったのはホウキ。

 太刀を膝の上に置き、背筋を真っ直ぐに伸ばしたまま、静かに口を開く。


「悠真様の仰る通りにございます。武人の世界においても、階級とは命をもって守るべき秩序。それを感情ひとつで踏み躙るなど……正々堂々とは程遠い、恥ずべき行いにございます。あなたは、何も恥じる必要はない。腐っていたのは、部下の側だ」


 彼女の切れ長の黒い瞳が、真っ直ぐにアウラを捉えた。

 続いて、シャルルが口を開く。


「僕もずっと思ってたんだけどね、アウラさん。年上ってだけで偉そうにする人、多すぎるんだよ。年下だから従えって……そんなの動物のマウント合戦と変わらないよ。そういう人たちって、結局”自分が上に立ってる”っていう錯覚だけが欲しいんだよね。実力とか、責任とか、全部棚に上げてさ」


 ゆっくりと長く細い耳を前方へ向け、翠色の瞳をアウラへと向ける。

 おっとりとした口調だが、その言葉には珍しく棘があった。


 その言葉に反応し、アウラは小さく息を吐く。

 張り詰めていた表情が、わずかに緩む。

 青灰色の瞳が、三人を順に見回した。


「……ありがとう。皆の言葉、嬉しかった。……だが」


 そこで言葉を切り、アウラは一歩、前へと歩み出た。

 軍靴の裏がアンデッドたちの血だまりを踏み、ぬちゃりと音を立てる。


「だが、やはり……私は……許せない……!」


 吐き出すような声と共に、彼女の拳に熱が宿った。

 掌に集中する魔力は淡く蒼白に輝き、空気が電気を帯びたように震える。

 その直後──


「ッ……ッらあああああっ!」


 轟音が洞窟に響く。

 アウラの拳が、近くの岩壁へと叩きつけられた。

 魔力を帯びた打撃は岩を抉り、分厚い岩盤が音を立てて陥没する。


 小石が飛び散り、壁面から粉塵が降り注ぐ。

 その光景を三人は、誰もが息を呑んで見つめていた。


 悠真も例外ではない。座していた姿勢を僅かに正し、表情に一瞬の緊張を浮かべる。

 ホウキは無言のまま太刀の柄に手を添え、シャルルは長く細い耳を立てたまま口をつぐんだ。

 岩壁に拳をめり込ませたまま、アウラは肩で呼吸を繰り返す。


 頭頂部の猫耳は怒りに逆立ち、長い尻尾が激しく地を叩いていた。

 拳の周囲からは微かな熱気が漂い、焦げた岩の臭いが湿った空気と混ざり合って鼻をつく。


 その様子は明らかに、怒りの発露だった。

 だが、そこには単なる感情の暴走ではなく──理性の復活がある。


「……最初はただ、裏切られたって……。それだけで悲しくて、どうしていいか分からなかった。頭が真っ白になって、何も考えられなかった」


 アウラは拳を壁から引き抜く。

 拳の皮は擦れて赤くなり、微かに血が滲んでいたが、彼女は痛みを感じていないかのように、その手を見下ろした。


「だが、今は……違う。冷静になって、はっきりと分かった」


 アウラの青灰色の瞳が燃えていた。

 それは復讐の炎──否。

 国家の名のもとに下される、粛清の正義の光だった。


「……私の命令を拒否し、任務を踏みにじった者たち……彼らは、もはやただの反抗者じゃない。国家の敵だ」


 吐き出される言葉には、鋼の意志が宿る。震えることなく、まっすぐに。


「主君より授かった使命を放り出し、自分の命を惜しみ、勝手に撤退した……命令違反。戦場離脱。任務放棄。そして……国家反逆罪」


 その言葉の一つ一つが、岩壁のように重く、周囲に沈黙をもたらした。

 三人は彼女の内に渦巻く決意の強さを目の当たりにし、軽々しく言葉を挟むことはできない。


 ゆっくりとアウラは、悠真の方へと顔を向けた。

 魔石灯の青白い光が、彼女の表情を明確に浮かび上がらせる。

 猫耳が前方へ向き、尻尾が静かに、しかし力強く揺れていた。


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