表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「お前は戦力外だ」と追放されたカードゲーマー、伝説級レアカードで無双する ~元クラスメイトたちは没落したけど、俺は美少女パーティーとダンジョン配信で大成功しました~  作者: どすこい。お嬢様
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
45/114

第10話 パーティーの連携

「……だいぶ連携も取れるようになってきたな」


 独り言のように呟いた悠真の声は、疲労の混じる淡々とした低音。

 すぐ隣では、淡い金色に近い銀髪を持つエルフ――シャルルが、まるで悪戯を思いついた子猫のような笑みを浮かべている。


 そして二人に慣れてきたシャルルが、とある悪戯を仕掛けた。

 まるで猫が虫を弄ぶような手つきで、隣に座るホウキの太腿に、そっと手を滑らせる。


「ねえ、ホウキぃ……。戦いのあとの身体って、どうしてこんなに熱いんだろうねぇ?」


 耳元に囁くような、囁きというには、あまりに湿った声。

 すでに何度目かになる接触に、ホウキは目を伏せて顔を真っ赤に染めている。


「し、シャルル……っ! い、いまは配信中だぞ……っ!」


 切れ長の黒い瞳は、あからさまに動揺し、震えていた。


「え? だって見せてるんでしょ? 勇敢な戦巫女の振る舞いってやつを。だから、僕の愛情表現も、みんなに見せてあげないと……ふふっ」


 そう言うとシャルルは、過剰なボディタッチを続ける。

 その手は太腿から腰へ、さらに背中に回り込もうとしていた。


 ホウキの肩が一瞬震え、しかし彼女はシャルルの手を払おうとはしない。

 そんな光景を見ながら悠真は内心では呆れながらも、その何とも言えない妖艶なものから目を逸らすことはしなかった。


「おいおい、美女からのアプローチなんて最高じゃないか。これは素晴らしく配信映えするぞ」


 悠真の独り言のような呟きが漏れる。しかし、シャルルの矛先は直ぐに彼へと向かう。


「んふふ……じゃあ、次は悠真さん?」


 そう言うと彼女は、静かな足取りで歩み寄り、悠真へと自身の顔を近づけた。

 翠色の瞳が悪戯っぽく細められ、その吐息が彼の耳たぶに柔らかく当たる。


「悠真さん……配信者として頑張ってるんだから、ご褒美……ちょっとだけ、欲しくない?」


 そう囁きながら、シャルルの指先が彼の胸元に触れた。吐息の熱に思わず悠真は眉を顰める。


「いや、お前……はぁ……なるほどな。お前さ、四十階層で襲われてたろ? あれ……もしかして、自業自得なんじゃないのか。そんな風に、誘ってるみたいな態度してりゃぁ……」


 ゆっくりと彼女の顔から視線を外し、悠真は正面を見据えたまま呟いた。

 その言葉は重く、乾いた音で空気を叩く。


 直後、シャルルの瞳が、明確に変わる。

 今までの挑発的な笑みが霧散し、瞬間、凍てつくような真剣な色が宿った。


「――違います。あの時、僕は“笑って”なんかいなかった。ただ怖くて、震えて、それでも死にたくなかった。だから、抗った。……それだけ」


 それは低く、鋭く。冗談の欠片もない声。

 そして沈黙が場を支配した。

 天井から一滴、冷水が岩の隙間から垂れ落ちる。その音が、耳に痛いほど響く。


「……そうかよ」


 息を吐くように悠真は吐き捨てた。

 そして、そのまま沈黙に戻る。


 頭上の魔石灯は淡い蒼光を一定の周期で瞬かせ、まるで視覚を惑わすかのような作用を与える。

 今の空間は、無機質な静寂に包まれていた。だが、その静寂を破るのは、やはり彼女である。


「ふん、もういいよ。悠真って、ほんと頭が固い人だね? 女の子の柔らかさ、全然わかってないんだから。つまんない人」


 淡い金色に近い銀髪を揺らしながら、シャルルが顔をそむけた。

 形の良い唇には、ふてくされたような色が滲んでいる。


「誰が、お前の柔らかさなんか知りたがるか。てか、お前の言動の方がつまんねぇんだよ。子供みたいに触ってきて何が面白いんだ」


 彼女の態度に悠真は、こめかみに手を当てたまま、静かに溜息を吐いた。


「子供扱いするんじゃない! 僕は貴方より年上なんだからね! それに、あれはコミュニケーション。わかる? 戦場での、スキンシップ!」

「いや、あれはただの公開セクハラだろ」

「うるさいね! じゃあ今度は悠真くんの腰に、手ぇ回してあげようか?」

「普通に辞めてくれ。俺の硬派な印象が崩れかねん」


 魔物の断末魔すらが似合いそうな暗がりの中、二人の会話だけが異様な熱を帯びている。

 すでに数分間続いている漫才じみたやり取りは、配信に接続している視聴者のチャット欄にも乱反射していた。


『なんか始まった』

『これが四十三階層ボーナスシーンか?』

『ホウキさん逃げて!』

『シャルルやばい女か。好き』


 そんな中、ただ一人。

 腰に太刀を差した武人、ホウキだけが疲れたような溜息をつきながら、二人を見つめている。

 切れ長の黒い瞳が、悠真とシャルルを交互に捉えていた。


「はあ……もう。お二人とも、配信中であることをお忘れか?」


 溜息混じりに言いながらホウキは、悠真の肩に手を置き、続けてシャルルの目の前に立ちはだかる。


「せっかく連携も良くなってきたというのに、かようなところで視聴者の評価を下げるは、配信者として恥ずべき行いかと存じます。両名とも、少し頭を冷やしてはいかがか」


 その声には、普段の凛々しさとは異なる、微かな落ち着いた響きがあった。

 声を荒げることも、命令することもなく、ただ状況を沈静化させようとする静かな芯の強さ。


 まるで濁った水面に一滴、清水を落としたかのように空気が静まり返った。

 悠真は僅かに口を開きかけたが、言葉を飲み込み鼻を鳴らす。


「……ったく、一度落ちた配信の評価を戻すのは難しいんだよな。クソ……了解だ、一旦引く」

「ふん、僕も別に……ずっと言い争いたいわけじゃないし。そっちが引くなら、僕も考えるよ」


 互いに目を合わせることはなかった。

 謝罪の言葉もない。それでも、争いの火種はかろうじて踏み消された。


『ホウキさん有能!』

『空気読める武人枠だわ』


 視聴者たちのコメントが滑稽なほど空騒ぎしている中、悠真は意識を切り替えるように、淡々とした口調で次の指示を出す。


「次の部屋は、通路右手奥の広間。熱反応は二体、分類は甲殻種。火属性は無効だが、打撃に弱い。ホウキ、正面から斬り込め。シャルル、援護で絡め取れ」

「承知いたした。正々堂々、打ち勝って見せましょう」

「了解だよ。任せて、悠真くん」

「俺は後方。視認しつつ、臨機対応。敵の挙動次第だ」


 こうして戦術的な会話が再び回り始め、パーティーは静かに次の扉を開いた。

 魔石灯の下、金属が擦れる音と、規則正しい足音だけが、やがて闇に消えてゆく。


 ――そしてその日、激戦と口喧嘩の果てに一行は、安息地へと帰還することとなった。

 時刻は既に夜。


 宿屋に荷物を預けた三人は、街の片隅にある小さな食堂――マルツ亭を訪れていた。

 木製の扉は古びており、開閉のたびに金属の鈴が乾いた音を立てる。


 店内は簡素ながら清潔感があり、オーク材の床板は長年の使用により滑らかな艶を放っていた。

 壁に設えられたランタンの光が、暖色の灯火を空間に投げかけている。


「安いのは良いね。あっ、今日の定食は四ツ目牛のソテーらしいよ。そのまま素材を出してくる店とは違うから、安心していいと思う」


 シャルルがメニューを確認しながら言う。


「……肉か。まあ、戦いの後は滋養が肝要。文句は言うまい」


 するとホウキは、やや眉を顰めた。


「ねぇねぇ、悠真くん? お酒飲んでもいいかな~? 一杯だけでも!」

「駄目だ。酒は明日のダンジョン攻略に響く。今日はお預けだ」

「……えー! 飲みたい飲みたい! お酒飲みたいよ~!」

「うるせえな、駄目なものは駄目だ。それに疲れてんだよ、飯時ぐらいゆっくりしようぜ」


 言葉の応酬に、うっすら笑みを交えながら、悠真がグラスの水を一口飲む。

 その姿を見たシャルルも、無言で水を口に含んだ。

 たったそれだけの仕草で、空気が一変した。


「……まあ、今日の悠真くんの指示は悪くなかったよ。認めてあげる」

「お前の援護も、多少は役に立ってたな」

「……私は、お二人とともに戦えたこと、武人として誇りに思います」


 ホウキの一言が、静かに場に落ちた。

 それは和解というには程遠い、ぎこちない夜の会話。

 だが、その一言一言が、今日という一日の重さを静かに肯定していた。


 窓の外では、提灯の灯りが、静かに瞬いている。

 こうして、一行の一日は静かに終わりを告げのであった。


最後まで読んで頂きまして誠にありがとうございます。

宜しければ評価とブックマーク登録をお願い致します。

活動の励みとなり更新が維持出来ます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ