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「お前は戦力外だ」と追放されたカードゲーマー、伝説級レアカードで無双する ~元クラスメイトたちは没落したけど、俺は美少女パーティーとダンジョン配信で大成功しました~  作者: どすこい。お嬢様
第三章

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第5話 新たな仲間を!

「――お名前を、教えていただけませんか」


 声音は柔らかく、しかし芯がある。

 悠真は一瞬目を瞬かせ、すぐに軽く顎を引いて応じた。


「……俺の名前か?」

「はい。命の恩人に、改めて名乗らぬなど――育ちが知れると言われてしまいますから」


 恥じる様子もなく、微笑みながらホウキは言う。

 彼女の肌は薄く雪のように白く、喉元の蔦の痕も次第にその赤を薄めつつあった。


 悠真は苦笑する。

 ここまで古風な語り口は、最近ではあまり見ない。


「悠真。……東雲悠真。年齢は十七。出身は……まあ遠い場所だ。職業は、“デュエリスト”」

「東雲……悠真、様」


 小さく口の中で繰り返した後、ホウキは柔らかく一礼した。

 胸の前で手を重ね静かに深く、まるで神前で祈る巫女のように。


「改めて私の名は、オリムラ・ホウキです。歳は悠真様と同じく十七です。職業は……“戦巫女(いくさみこ)”でございます」

「戦巫女……ってのは、戦闘と、祈祷を?」

「はい、左様でございます。ですが……いえ、なんでもありません」


 何かを言いかけて、彼女は言葉を引っ込めた。

 その顔に翳りが差し、一瞬、眼差しが揺れる。


 だが、すぐに表情を整えるのは流石だ。

 悠真は無理に続きを求めず、代わりにホウキの名を口の中で反芻する。


「……にしても、オリムラ・ホウキ。良い名前だな。なんかこう、実に馴染みのある発音だ」

「ありがとうございます。悠真様のお名前も、潔くて、まっすぐで……どこか、静かな強さを秘めていて」

「静かな強さ?」

「ええ……けれど、それは声高に叫ぶ力ではなく、しなやかに受け流す柳のような、優しい強さです」


 詩的な比喩だった。悠真は思わず視線を逸らし、小さく咳払いをした。

 その一方で、ふと彼の胸中に妙な違和感が芽生える。


 ――反応が、薄い。

 自己紹介の際、彼女が東雲悠真という名に対して、何の驚きも見せなかったことが、どうにも彼は気にかかったのである。


 これでも悠真は一応、配信者としては名が売れ始めているのだ。

 一度、配信を始めれば同接一万以上は確実である。


 ダンジョン内で会う冒険者たちからは、『見てます!』『昨日の激闘、リアルタイムでした!』と、黄色い声をかけられるのが常だった。


 それが彼女には、まるで通じていない。

 悠真は半ば確認するように口を開いた。


「なあ……ホウキ。ダンジョン配信って、興味あったりする?」

「配信、ですか?」


 彼女は首を小さく傾ける。

 かすかに垂れた黒髪が、耳元で揺れた。


「聞いたことはあります。何やら特殊な魔道具を使い、己の戦いや旅路を映していると」

「じゃあ……俺の二つ名の孤影の決闘士ってのを、どこかで見たり聞いたりは……?」


 その問いかけに、ホウキは真剣な顔でしばらく考える。

 そして困ったように小さく首を横に振った。


「申し訳ありません。悠真様のお名前を、私は本当に……今日、初めて知ったばかりでして……」

「そっか……」


 あからさまに落胆したわけではないが、悠真の口元が微かに緩む。

 どこか拍子抜けしたように。


「それに……私はああいう、煌びやかな場が、少し苦手でして」


 言葉を探すように、ホウキは視線を伏せた。


「冒険の中に血と汗と泥と、命の重さがあることは理解しているつもりです。ですが、それを“見世物”にすることが、どうにも……馴染めなくて」


 それは非難でも、軽蔑でもない。

 ただ、そういう価値観で育ってきた――というだけの、穏やかな距離感の告白だ。

 悠真は肩の力を抜き、小さく頷く。


「……なるほどな。そういう人も、いるよな。いや、いるべきだとも思う」


 ふっと笑うように彼は、頬と表情を緩ませる。

 どこか懐かしい空気だ。


 配信に巻き込まれた人間ではなく、純粋に“目の前の自分”を見てくれている他者の存在。

 久方ぶりの、視聴者の目を通さない、素の会話。


「逆に……新鮮だな。ちょっとだけ、嬉しいかも」

「嬉しい……?」

「ああ、そうだ。たぶん俺、ちょっと驕ってたのかもしれない。誰に会っても名前だけで驚かれるのが当たり前みたいに思ってた。けど、今みたいな空気って、案外気持ちがいい」


 彼の言葉を聞いて、ふわりとホウキは笑った。

 そして二人は、しばし沈黙の中に立つが、岩の傍へと移動して腰を落ち着かせる。


 ホウキは悠真の隣に膝をついて座っていた。

 まっすぐに背筋を伸ばし、膝に両手を重ねる姿は、まるで古の姫君のように清廉である。

 だが、その目には明らかに戦場を知る者の強さが宿っていた。


「――悠真様。先程は、誠にありがとうございました」


 そう言うと、ホウキは丁寧に一礼を行う。

 かすかに乱れた和装の袖からは、負傷の痕が覗いていたが、すでに簡易的な治療は済ませてある。

 だが衣の裾には、泥と血が乾いた色を残していた。


「助けていただいた命、決して忘れはしません」


 その声には揺るぎがない。

 そして次に彼女は、視線を悠真に戻し、唇に静かなる決意を宿したまま、口を開いた。


「――私に、何かお礼をさせてください。生憎と流浪の身ゆえ、できることは限られておりますが……私に可能なことであれば、どのような事でも」

「……ん?」


 悠真は反射的に聞き返す。

 どのような事でも――今、彼女は確かにそう言った。 


(どのような……って言ったよな?)


 心の奥で声にならぬ呟きが膨れあがっていく。

 今の状況が、“ダンジョンの花畑で命を救った美少女に対して、どんなお願いも聞くと申し出られる”という、現実感の薄いものであることに、悠真の理性は気づいていた。


(いや……冷静になれ、東雲悠真。落ち着け。たしかに、今の彼女の言いぶりなら――胸を揉ませてくれとか、下着を一枚くれとか、言ったとしても断れないかもしれない。だが……それを言うのは人間として終わってる)


 その瞬間、悠真の脳内では天使と悪魔が戦いを繰り広げている。

 だが、最終的に勝ったのは、少年の浅はかな欲望ではなく、冒険者としての理性だった。


(俺はダンジョン攻略者――冒険者だ。目指しているのは、“ダンジョンクリア”なんだ。こんなことで魔が差して、彼女との信頼を壊すわけには……)

 

 そして何より、悠真には確信がある。

 この先、一人で深層へ挑み続けるのは、限界が来るのだ。


 補給の煩雑さ、心理的な孤独、そして映像映えの不足。

 どれも、独りでは埋められない。


(……戦える女の子。それも、大和撫子系の美少女。戦場で刀を振るう、伝統武芸の申し子。これ、もし仲間にできたら……映えるぞ)


 そう、映像としても“使える”――

 悠真は己の配信スタイルを冷静に分析し、ホウキという存在の価値を静かに、だが確かに見出していた。


 そして数秒後。彼は静かに立ち上がった。

 顔を上げたホウキの目の前に、悠真の右手が差し出される。


「だったら……一つ、頼みがある」

「……はい?」

「俺の仲間になってくれ。一緒に、このダンジョンを攻略しようぜ」


 決して軽薄ではない。かといって重すぎない。

 その声には、少年の中に確かにある“まっすぐさ”と、“孤独な意志”が滲んでいた。


 ホウキは、目を見開く。

 しばしの沈黙ののち、ゆっくりと彼女は腰を浮かせ、立ち上がった。


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