第11話 一軍の男子と女子の反応
「な、なあ……なんで急にこんなに人が来るんだ? 俺、別に有名人でもないし、最近は魔物と遊んでただけなんだけど……」
その問いに視聴者は、すぐさま答えた。
『例のゴーレム戦、切り抜かれて拡散されてた』
『無断転載されてたけど、それが超バズってる』
『変な魔法使って戦ってたやつ!』
『あれ新職?独自魔法?見たことないスキルだらけだったし』
その言葉に悠真は、ようやく事態を把握し始める。
あの日、淡々と行ったゴーレム戦――奇妙な戦術で地を這うように勝利した、あの戦闘が、切り取られて世間に流されたのだ。
そして、それが――バズったのである。
理由は明白だ。
彼の職業”デュエリスト”はこの世界では希少どころか、ほぼ未知の分類であり、加えてその戦術の大半は従来の戦士・魔法職では見られないものである。
特に視聴者たちが喰いついたのは、地形を利用した戦法や、連鎖効果と計略カードによる擬似コンボによって、例のゴーレムたちを完封したあの映像だ。
「はは……なるほどな。バズるってのは、こういう感じか。……まさか、俺みたいな底辺配信者が……いや、底辺どころか、趣味でしかなかったのに……」
自嘲するように苦笑いを浮かべるも、どこか誇らしげだった。
寝間着の胸元を指で軽く摘まみ、鎖骨の辺りを汗が伝う。
部屋の中は寒さに包まれていたが、悠真の体温は静かに上がっていた。
注目されること、認知されること――それがどれほど、この異世界で生きる上で武器となるかを、彼は知っている。
「――さてと。じゃあ、改めて今日のテーマに戻ろうか。俺の新しいデッキ構築、見せてやるよ。これがデュエリストの底力ってやつだ」
そして、この瞬間を予期していたかのように、ベッド脇に置いていたカード束――新デッキ用に仕分け中のカードを手に取り、改めて配信に向き直った。
画面の向こうで、コメントがまた流れ始める。
『来た来た!』
『ガチで研究対象』
『この人、絶対にヤバい』
夜は深まり、窓の外では風が吹き荒れる音が響く。
だがこの宿屋の一室だけは、今、確かに熱気に包まれていた。
――そして例の配信がバズってから数週間が経過すると、今や悠真の配信はユグ=リオニアでも類を見ない注目を浴び、同時視聴者数は一万超えが当たり前の化け物配信者と化している。
「これは――虚霊の反射盾。昨日の配信を見た人は分かると思うけど、あれを使って喰種の攻撃を受け止めた。あれ、実は本来カウンター用じゃなくて……」
悠真の声は穏やかだった。落ち着きと知性を兼ね備えた中低音。
耳に心地よく、また不思議な艶がある。
聞いているだけで眠くなる、とコメントで書かれることも珍しくない。
だが、配信は眠気とは真逆の熱を帯びていた。
『その盾、裏効果あるの!?』
『え、あの喰種の攻撃受け止めたのって偶然じゃないの?』
『悠真様が使うと、カードが全部神カードになる説ある』
コメントを見て彼は、頬を軽く指で掻きながら、苦笑を浮かべた。
「いや、そんな大層なものじゃないんだけどな……」
配信中の部屋は静かだ。
だが扉の外では、ちらほらと足音が行き交っている。
壁越しに酒場の喧騒も微かに聞こえた。
夜更け、宿のロビーでは今も宴が続いている。
そして、その宴には彼の存在が大きく関わっていた。
それは昨日の昼頃に悠真がノルマを終えたあと、顔を出した冒険者広場にて――『今夜、宴を開くが来ないか?』と複数のパーティーから声をかけられた結果である。
以前の彼の状態では絶対に考えられない光景だ。
そして、悠真を食事に誘ったのは男性ばかりではない。
断罪の碧槍の女騎士クラリッサ。
無音の紅刃の双子姉妹・フェリスとフィーネ。
そして、巨大武器を背負う小柄な大女傭兵、通称“鉄兎”。
彼女たちはそれぞれ、彼に直接『配信、見てる』『一緒に飯、どう?』と声をかけてきた。
中には、視線で全てを語るような、甘く湿った目を向けてくる者もいる。
そして悠真は――それら全てを丁寧に断った。
「……それにしても、まさかデッキ構築だけで同接が一万維持とはな。異世界すげぇな……現実だったら、一桁キープでも怪しいレベルなのに」
そう呟いた悠真の顔には、微かな困惑と、それを覆い隠すような笑みが浮かんでいる。
孤独と馴染んだ者が、にわかに注がれた熱烈な光に対し、どこか居心地悪そうにしていた。
だがそこへ突如として――――彼の部屋の扉が静かに叩かれる。
「おっと、悪い。お客さんの来訪だ。……まっ、丁度いいし今日の配信は終わるぜ! また、見に来てな! じゃーの!」
そう言うと悠真は、マギスフィア・ミニを操作して配信を足早に終了させ、頭を掻きながら席を立つ。
そして扉の前に立つと彼は、来客者の対応を行うべく、気だるい声を出しながら扉を開けた。
すると開かれた扉の先に居たのは、ギルド職員の少女であり、彼女は一枚の報告書を片手に、そこに立ち尽くしている。
金髪碧眼、快活そうな顔立ちで、制服の胸元には配信統制管理局の徽章が輝いていた。
「東雲様、お時間大丈夫でしょうか? 先ほどの配信数値ですが、視聴率が攻略組トップの桐生殿、宝条殿のそれと並びました」
「……ああ、同接一万で並んだのか。ま、あの連中に比べりゃ俺のは地味なもんだがな」
彼女の言葉を聞いて悠真は目を細める。
そしてギルド職員の女性が報告を終えて帰ると、彼は静かに扉を閉めて椅子に座り込む。
その瞬間、悠真の脳裏には――クラスメイトたちの反応が、まざまざと蘇っていた。
『は? 悠真が一万? 絶対にありえねーだろ!?』
『不正じゃねえの? 金で視聴者買ってんじゃね?』
『いやマジでムカつく。あいつ、誰かの後ろ盾いるだろ。あんな地味なカード配信で……』
『わたしより再生数高いってどういうこと!? ねえ、絶対おかしいって!』
『あんな陰キャに負けたとか、もうギルド行けねーわ……』
一軍の男子たち――特に樟葉と奏恵は目を見開き、机を叩きながら数字の操作疑惑を本気で訴えていたほど。
一軍の女子たち――鈴音、麗華、姫香はさらに苛烈で、配信をリプレイで見た直後に、全員顔を引きつらせていた。
特に天原姫香は『庶民のくせに!』と舌打ちし、周囲の家具を蹴り飛ばしたという話まである。
さらに、悠真を長らく見下していた“陰キャグループ”の面々や、日陰で過ごしてきた女子たちの反応もまた興味深いものだ。
『……うそでしょ、悠真が一万?』
『ありえない。あんな、誰にも相手にされてなかったのに』
『同接って、そんなに簡単に上がるの? いや、わたしが配信しても一桁なのに』
『……わたし、今まで何を見てたんだろ……』
かつての無所属たちは、彼が突如として“高みに立った”事実を受け入れられず、虚ろな視線で報告を読み返していたほど。
中には、明らかに動揺しながら、彼の配信アーカイブを夜通し見ていた者もいた。
だが――本当に面倒だったのは、それ以降の出来事である。
かつて一度も話しかけてこなかったクラスメイトたち。
空気のように悠真を無視していた者たちが、こぞって接触を試みてきたのだ。
『東雲くん、今度さ、一緒に配信コラボしてみない? たぶんすごい数字出ると思うんだよね』
『ねえ悠真、パーティー組まない? 今なら、お互い得じゃん?』
『カードのこと、教えてくれない? あんた、すごい詳しいんでしょ?』
あまりに露骨な掌返し。
それを受けた悠真の反応は、至極簡潔なものだ。
「……ああ、悪い。俺、今は一人でやってるから」
そう言って、すべての誘いを丁寧に、だが確実に断る。
その結果――
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