第16話 女性のみの騎士たち
「待て、慌てるな。全員、剣を収めろ」
沈み込むような低く澄んだ女の声が洞窟内に響いた。
全員の目が、そちらに向く。
他の騎士たちとは異なる、厳粛な威厳のような雰囲気を纏う一人の女性が、ゆっくりと前へと出て来た。
彼女の鎧には金の装飾が施されており、重厚な肩当には翡翠を嵌め込んだ装飾が施されている。
だが、その鎧を纏う者こそが、圧倒的な存在感を放つ。
彼女は兜を被っており、顔の全貌は見えない。
黒い金属でできた兜は洗練されたデザインでありながら、実戦向けの堅牢さを兼ね備えている。
兜の表面には金色のラインが走り、額には国家の紋様みたいなものが刻まれていた。
T字型のバイザーからは、僅かに内側が覗くだけで、表情を読み取ることは不可能。
だが、その隙間から覗く瞳だけは――はっきりと見えた。
細く切れ長で血を思わせる深紅の瞳。
その視線は常に相手を見下ろすような冷たい光を宿し、まばたきが少なく一度捉えた獲物から決して目を逸らさない。
だが瞳だけで、その凄まじい威圧感が伝わって来る。
彼女の身体を覆う鎧は、黒と赤を基調とした軍装だ。
だが、それは通常の騎士鎧とは一線を画す、極めて特殊なデザインである。
胸部を覆う胸当ては黒い金属で出来ており、女性の身体の曲線を完璧に沿うように整形されていた。
胸の膨らみを強調するように下から持ち上げる形状で、その豊満さが一目で分かる。
胸当ての縁には金色の装飾が施され、中央には翡翠の宝石が埋め込まれていた。
呼吸するたびに、その胸当てがゆっくりと上下する。
胸当ての下、腹部から腰にかけては、黒い革の装甲が密着していた。
だが、その面積は小さく、くびれた腰のラインが強調されている。
胸部の中央部分は細い金属のベルトで繋がれているだけで、その隙間からは僅かに白い肌が覗いていた。
まるで装甲の隙間から、彼女の身体の美しさが漏れ出ているかのようである。
二の腕から肘に掛けては、黒革の装甲が密着しており、引き締まった腕のラインが見て取れた。
無駄な肉はなく、しなやかな筋肉が伺える。
肘から先には黒い金属の篭手が装着され、手の甲には金色のプレートが埋め込まれていた。
指先は露出しており、剣を握りやすいように設計されている。
その指は細く長く、女性のものでありながら、確かな力を感じさせた。
腰回りには赤い布が巻かれている。
だが、それは腰を覆うというよりも、前後に垂れ下がる布と言った方が正確だ。
前面の布は、股間を隠す程度の短さで、サイドは完全に開いている。
太腿の付け根から腰骨にかけての曲線が露わになっており、歩くたびに布が揺れてその下から肌が覗きそうだ。
後ろ側も同様で、臀部の丸みが、はっきりと分かる。
太腿には黒い革のレギンスが密着していた。
ぴったりと肌に張り付き、太腿の筋肉の動きが見て取れるほど。
だが、その筋肉は決して厳ついものではなく、女性らしいしなやかさを保つ。
太腿の外側には金色の装飾ラインが走り、それが脚の長さ更に強調していた。
膝部分には黒い金属の膝当てがあり、そこにも金色の装飾が施されている。
膝から下にかけては、黒革のロングブーツが装着されていた。
ブーツは太腿の下部まで達し、ヒールは高く鋭い。
ブーツの表面には、金色の装飾が施され、歩くたびに威圧的な音を立てる。
その音だけで周囲の者は、彼女の接近を察知し、身を硬くした。
背中に赤いマントが垂れ下がっている。
マントは腰までの長さで、裾には金色の刺繍が施されていた。
マントの内側には、騎士団の紋章――蒼い紋章が刻まれている。
全体として彼女の鎧は実戦向けでありながら、女性の身体の曲線を強調する露出度の高いデザインだ。
胸の豊満さ、くびれた腰、長い脚――すべてが明確に分かる。
だが、それは決して弱さを意味しない。
むしろ、その露出が彼女の自身と積差を物語る。
体型は引き締まった細身で、無駄な肉はなく筋肉はしなやかだ。
身長は、百七十センチは超えているだろう。
立ち姿は常に直立不動。
背筋は一切の隙なく伸び、その佇まいはまさに、他の騎士と一線を画す。
まさに、それは部隊の隊長とでも呼ぶべき厳粛な存在。
現に他の騎士たちが、彼女の声に従い武器から手を離し、姿勢を正したのが、その証左だろう。
「我が名は……ラヴィニア・コスタンティーニ。ヴァルゼリード王国の第七魔装騎士団”蒼獣鎧ノ紋の”第三師団長にして、女神フォルトゥナ様に仕える忠実なる騎士なり」
ラヴィニアは、兜を脱ぐことはしない。
その声は兜の内側から響き、僅かに反響していた。
だが、その声からは凛然とした気品と、毅然とした意志が感じられる。
低く、だが明瞭で、命令の重みを帯びているのだ。
「貴様ら……異界からの来訪者であるな?」
彼女は全員に視線を向けた後、再び口を開いて問う。
しかし、その質問に誰もが言葉を詰まらせた。
だがラヴィニアは、彼らの返答を待つことなく、一方的に話を続ける。
「我らが女神フォルトゥナ様の託宣によれば、アールゼ歴、七月十三日、『奈落の光廊』の地にて、異世界からの来訪者が現れ、かの”光廊の迷宮”を攻略するであろうと……。よって我らは、女神様の預言に従い、ここへ馳せ参じた」
そんな彼女の声は、まるで厳粛な儀式の読み上げのようだ。
けれど、その威圧感溢れる空気の中で一組の担任、千秋は震える足を押さえながら前へ一歩、否、半歩だけ踏み出した。
艶のある黒髪は、緊張と湿気により、頬に張り付いている。
端正だが、どこか優し気な顔立ちに、今は明らかな怯えが浮かんでいた。
だが、それでも彼女は生徒たちの前に立つ。
「わ、私の名前は……荒川千秋! ……わ、私たちは”日本”という国の者です!」
彼女の声は、震えながらも高く、洞窟の岩壁に反響した。
背後に居る生徒達に、両手を広げるようにして、自らの体を盾とする。
咄嗟の行動にしては、教師としての覚悟が宿る仕草だ。
「女神フォルトゥナ様の力により……この世界に飛ばされました! わ、私たちに交戦の意志はありません!」
千秋は高らかに、宣言を口にする。
だが洞窟を満たす重い空気の中で、その声には限界があった。
千秋の足元は微かに震え、サンダルの爪先が砂利を滑らせて音を立てる。
その震えは太腿、そして背筋を伝い首筋へと登り、黒髪の下に隠れたうなじまでも、明らかに緊張で張り詰めていた。
彼女の頬は強張り、唇は乾いて、ひび割れている。
こめかみには、滲んだ汗が細い筋となり頬を伝い顎へと、滴り落ちていた。
「……にっぽん……なるほど」
彼女の様子を見て、ラヴィニアは呟きながら、僅かに首を傾げる。
「やはり貴様らが異世界からの来訪者で間違いなさそうだ。……ふむ、よろしい。全員、警戒を解いて、その場で待機!」
小さく息を吐くと彼女は右手を挙げて、騎士団全体へと指令を飛ばした。
その声は鋭くて、実に明瞭なものである。
そして命令を受けた騎士たちは、すぐに警戒心を解き姿勢を正しくして、不動の姿勢で待機した。
鎧の擦れる音と共に、緊張は一段階、解きほぐされていく。
その後でラヴィニアは、徐に自身の兜の縁へと手を掛けた。
金属の留め具が軽い音を立て、兜が取り外される。
露わになった顔は、思わず悠真が息を呑む程に整っていた。
白銀に近い淡い灰色の髪が、兜から解放されて流れ落ちる。
セミロングほどの長さで、毛先は戦闘向けに整えられていた。
前髪は目に掛からないように、後ろに流され額が露わになる。
瞳は細長く切れ長。血を思わせるような深紅の色をしていた。
その視線は常に相手を見下ろすような、冷たい光を宿しまばたきが少ない。
一度捉えた獲物から決して目を逸らさないようだ。
眉は細く鋭い。鼻筋は高く通り、まるで彫刻のような顔立ち。
唇は薄く、感情を殆ど表にださない。
肌は白く、血色が薄い。
だが、それは病弱さではなく、研ぎ澄まされた刃のような美しさだ。
顔立ちは中性的かつ鋭利。無駄のない洗練された美しさを持つ。
女性でありながら、どこか男性的な凛々しさも兼ね備えている。
その佇まいは、まさに戦場の女将軍、一瞬で命令と処刑を下す者の顔付きだ。
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