第13話 レベルアップ報酬あり
「結界内では外部の者は一切干渉できぬ。戦いが終わるまで何人たりとも口出し無用。決着の方法は三つ――敵を倒すか、半殺しにするか、あるいは見逃すか。選択はお主に委ねられる」
幻影での動きのあるルール説明と共に、フォルトゥナは確実性のある口頭でも詳しいものを伝えてゆく。
それを悠真は黙したまま、真剣な眼差しを彼女に向けつつ、説明を聞く素振りを見せる。
「だが……お主には”逃走”のカードも特別に許可しよう。デュエルにおいて敗北の寸前、一度だけ”魔法・戦線離脱”を発動することで、結界を強制解除し、戦闘から撤退できる。これはお主だけの特権じゃ」
不敵な笑みを浮かべつつ、慈悲とも取れる内容のものをフォルトゥナは口にすると、それで説明を終えようで改めて悠真の全身を眺めた。
「その姿、なかなかに似合っておるぞ。まるで異界の騎士のようじゃ。それこそ、お主の世界の人気コンテンツのキャラで例えるなら……き……きりと? とやらにそっくりじゃ」
某ラノベのキャラの名前を口にすると、どことなくフォルトゥナは満足げに大きく頷く。
しかし今の悠真に彼女の声は耳に入らず、それよりも静かに手元のカードを見つめていた。
女神から与えられた能力が生粋のカードゲーマーとして、常日頃から悠真が妄想し願望していたものゆえに興奮が高まると、彼の指はゆっくりとカードを一枚抜き取り空中でシャッフルする。
一枚、また一枚とカードが流れるように動き、その動作は洗練されていた。
使い慣れたカード。
だが、今は違う。
悠真が愛用していたカード全てに魔力が宿り、生命を持つかのように脈動している。
そして、それらのカードを彼は静かにホルスターへと差し戻す。
その瞬間――悠真は夢にまで見た”本物のデュエリスト”になったことを、改めて実感し得も言われぬ熱いものが体の奥底から込み上げる。
(ありがとう、女神フォルトゥナ。ありがとう……俺を、俺にしてくれて)
彼は唇を震わせながら、その言葉を心の中でだが確かに呟いた。
「……おっと、すまない」
悠真は感極まり呆然としてると、突如としてフォルトゥナの鈴の音のような声が再び響く。
「我としたことが大事なことを伝え忘れておったわ」
にやりと彼女は、笑みを零した。
「お主はこの場に居る誰よりも、ちーっとばかし、特殊な者じゃ。まあ、外れ者というのは何処の世界にもおるがのう。じゃが、そんな寂しい者に、我はもーっとサービスをしてしんぜようぞ」
フォルトゥナの声は段々と不吉なほどに柔らかくなるが、その柔らかさの中には一種の哀れみと弄ぶ愉悦とも取れる毒が僅かに混じる。
そして彼女は指を一振りした。
その瞬間、周囲の燐光が一斉に色を変える。
朱、蒼、翠――宝石のように瞬く光が天井のない空に舞い、まるで祝福の舞踏のように螺旋を描いた。
そんな光景を見て、不思議と悠真の心臓が高鳴る。
「……ふむ、そうじゃな。カードが好きであるならば、こういうのはどうじゃ?お主が魔物や人を倒す旅に”経験値”を獲得し、それが一定を超えると”レベルアップ”する。まあ、このあたりは俗なゲーム的要素じゃが――」
そう言いながら、フォルトゥナの指先は、ひときわ眩い光を持つ。
その光が空間に浮かび、数列のデータが描かれた。
「レベルアップした暁には、報酬として“カードのパック”を一個贈呈してやろう」
軽く肩を竦めながら彼女は、悠真の心の中を見透かしたように、圧倒的な好条件を口にした。
(……カードのパック……だと?)
彼の胸の中心が大きくざわめく。
「勿論、それはお主の望みに応じたものじゃ。ある時は攻撃特化のパック、ある時は魔法罠に偏ったもの、あるいは――ふふ、ちと刺激的なイラストが施された限定カードなども混じっておるやもしれぬの」
フォルトゥナの声が、わずかに艶めくような低さを帯びた。
まるで娼婦の女主人が新たな常連客を囲い込むかのような、それでいて支配欲に満ちた口調。
「どうじゃ? 嬉しかろう? 新たなカードを手にすれば、お主は更に強くなり、ダンジョン攻略の意欲にも繋がろうて」
まるで毒付きの飴玉のような言葉をフォルトゥナは囁く。
「――ッ! ッッッッッ!」
言葉を持たぬ身であることを忘れるかのように、悠真は全身の筋肉を総動員させて圧倒的に、彼女の提案を肯定するように首を上下に振る。
その勢いは凄まじく、まるで首の骨が今にも外れて飛びそうなほど。
左右ではない。上下だ。縦に、激しく、嬉し気に。
「おうおう、そんなに嬉しいか。よかよか、まっこと人の子は面白いのう」
彼の様を見てフォルトゥナは端的な笑いを漏らし、まるで幼児の歓喜を見るように肩眉を上げた。
(……やばい……これ、やばすぎる……)
興奮が収まらない悠真。
まるでアドレナリンの蛇口が開いたまま壊れたように胸が高鳴る。
魔物や人を倒せば経験値が得られるのだ。
レベルが上がればカードのパックが貰える。
そして、そのパックにはカードが五枚。
もちろん、何が出るのかは分からない。
(まじで、現実のソシャゲの”ガチャ”と同じじゃん……。だけどこれ、実戦で使えるんだよな……? やばい、まじで夢じゃねぇかこれ……!)
彼は声が出せないのが悔しい程の感情を抱く。
そうでなければ全力で叫びたいほどだ。
(神すぎる……! いや、本当に神からの賜りものだ……!)
心中にて歓喜の声を漏らしながら、悠真は静かに拳を握り固める。
(ふっ……このクラスで、たぶん今この状況に一番乗り気なの、俺だけだな……)
両腕を組み、彼は静かに周囲を見渡しながら、小さく頷いた。
(……だが、気になることもある。……なんでだ?)
全身に沸き立つ高揚感に浸る悠真だが、不意に微かな疑問の棘が刺さる。
それはなぜ女神フォルトゥナは、自分にだけ異様に甘いのかというもの。
確かに彼女は”外れ者”にサービスすると言った。
まるで悠真が誰よりも劣っていて当然という前提に立たされていたのである。
……いや、そうではない。
”劣っている”のではなく、”孤立している”という事実を、まるで”ご褒美”の根拠にしているのだ。
(あんな風に笑って……俺の反応を喜んでいた……)
疑問という感情が大きく膨らみ、悠真の頭の中を支配してゆく。
フォルトゥナは彼の反応を見た時、手を叩き愉快そうに目を細めて、子供の喜びに目を細める”親”のような雰囲気を見せていた。
しかし、それは見方や考え方次第で、檻の中の猿が芸をした時に与える餌のようなものでもある。
(うーん……考えれば考える程に……違和感があるな……)
確かに得たものは、彼自身が望んだものだ。
カードの世界で生きられる。戦える。強くなれる。
だが、それが”なぜ自分だけに優遇して与えられたのか”という疑問が徐々に胸の内に広がり始めた。
そう――神に優遇されるということは決して無償ではないはずだと。
悠真は生物の本能として、それを直感的に理解していた。
それでも彼は込み上げる笑みを我慢する事なく解放する。
自覚しながらも、それを止めることはできなかった。
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