第11話 あれから、数ヶ月
「……億?」
コメントを見て悠真は、即座に配信端末を取り出して確認した。
そこには紛れもなく数字が、億を超えていたのである。
「……は?」
唖然とした声が彼の口から漏れた。
「どうしましたの?」
アイリスが覗き込んでくる。
「チャンネル登録者数が……億を超えた」
「「「えっ」」」
気の抜けた悠真の言葉に、全員が配信端末を覗き込む。
「あ、本当だ……」
目を丸くしながらシャルルが小さい声を出す。
「桁が違う……」
静かに声を震わせるアウラ。
「やばすぎるだろ……」
素直に驚愕の色を顔に浮かべるシュンリン。
そして悠真は徐に、一人でガッツポーズをした。
誰にも見せないように、こっそりと。
――その夜、ダンジョンの外の広場で盛大な宴会が始まった。
集まった冒険者たちや市民たちが、酒と料理を持ち寄り、篝火を囲んで歌い踊る。
悠真たちを中心に、お祭り騒ぎが広場全体を飲み込んでゆく。
仲間たちも、酒を存分に楽しんでいた。
シャルルが頬を赤く染めながら、長く細い耳を揺らして踊り始める。
酔いの勢いで法衣の前ボタンがいつの間にか外れかけており、白い肌が覗いていた。
翠色の瞳がとろりと潤んで、普段の穏やかさが甘い雰囲気に変わっている。
ホウキは杯を静かに傾けながら、頬を薄く紅潮させていた。
黒いポニーテールが解けかけ、東の国風の和装の襟元が乱れている。
切れ長の黒い瞳が、いつもより柔らかく揺れていた。
アウラは最初こそ軍人らしく節制していたが、シュンリンに半ば強引に杯を重ねさせられ、今では銀灰色の長髪が乱れ、猫耳がへにゃりと伏せられている。
制服の第一ボタンが外れ、頬が赤く染まっていた。
アイリスは上品に飲んでいたはずが、いつの間にか金色の狐耳を揺らしながら踊りの輪に加わる。
腰まで届く金髪が躍り、蒼い瞳が酔いで潤んでいた。
シュンリンは最初から豪快に飲み、燃えるような赤いツインテールを振り乱して踊る。
龍化しかけた腕で拍子を取り、赤金色の大きな瞳を輝かせながら周囲を巻き込んでいく。
そして問題なのは、周囲に集まった女性たちだった。
様々な種族の女性たちが、次々と悠真に近づいて来る。
「貴方様がダンジョンを攻略したお方ですの? あの私、お近づきになりたくて……」
エルフ族の細身の女性が、長い耳を揺らしながら悠真の腕に触れた。
「すごく格好良かったですよ、配信で見ていました。良かったら、一緒に飲みませんか?」
猫人族の女性が、猫耳を立てながら悠真の隣に座る。
「ダンジョンをクリアした者と話がしたい。私は……貴方の事が好きになりそうだ」
龍人族の女性が、悠真の前に立ちはだかった。
次々と、美人系、可愛い系、様々な女性たちが彼の周囲に集まる。
やがて悠真が完全に包囲されかけた瞬間。
「……ちょっと待って」
甘い雰囲気から一変して、シャルルの声が低くなる。
長く細い耳が逆立ち、翠色の瞳が悠真の周囲の女性たちを見渡していた。
「悠真は、私たちのリーダーですの」
力強くアイリスが前に出る。
金色の狐耳が限界まで逆立ち、蒼い瞳が冷たく輝いていた。
尻尾がぶわりと膨らむ。
「ああ、そうだ。悠真は私たちのものだ」
銃を持ったままアウラが、彼の隣に割り込んだ。
猫耳が立ち、青灰色の瞳が周囲を牽制している。
「悠真様には、まず私どもとの時間を……」
太刀の柄に手を添えながら、ホウキが悠真の前に立つ。
「どけどけどけ! 悠真は私の隣にいるんだよ!」
豪快にシュンリンが割り込んできた。
燃えるような赤いツインテールを振り乱し、彼の腕を強引に掴む。
「いや、ちょっと待て……」
悠真が声を上げる間もなく、五人が彼を取り囲んだ。
周囲の女性たちが、その圧力に押されて後退していく。
宴会の騒ぎが、さらに大きくなった。
笑い声、歌声、怒声が入り混じりながら、篝火の炎が夜空に向かって高く燃え上がる。
悠真は五人に囲まれたまま、夜空を仰いだ。
億を超えた視聴者。クリアしたダンジョン。
復活した命。そして、まだ続く冒険。全部が、嘘みたいだった。
「ふっ……悪くない夜だな」
誰に言うでもなく呟いた彼の声は、宴会の賑わいの中に消えてゆく。
こうして、長い一日が幕を閉じた。
――そして宴会から、二ヶ月が経過。
あの夜の熱狂は今も、この世界のあちこちに尾を引いていた。
とある街の市場では、悠真たちのファンアートが無償で配られていたほど。
ホウキの凛とした太刀捌きを描いたもの、シュンリンの龍化を鮮やかに表現したもの、アイリスの幻影を幻想的に描いたもの。
絵師たちが競うように制作した作品が、道行く人々の手に渡っていく。
その知名度は衰えるどころか、日を追うごとに勢いを増していた。
一方で一軍の男女たちについては、ラスボス部屋で発狂していた姿を最後に、悠真は直接顔を見ていない。
宴会にも姿を現さなかった彼らは、翌日には既に次のダンジョンへと向かっていたということを風の噂で彼は聞いた。
日本に帰るために、一刻も早く次を攻略しようという焦りが見え見えである。
そして悠真が気まぐれに彼らの配信を覗いてみたところ、現在は蒼炎の回廊と呼ばれるダンジョンを攻略中とのことだった。
配信自体は普通に人気で、視聴者もそれなりにいる。
ただ、悠真の配信と比べると、天と地ほどの差があるのは当然のこと。
そして今日。
とある街の宿屋の一室に、朝の光が差し込んでいた。
悠真は目を覚ますと、軽く伸びをしてから身支度を整える。
漆黒の外套を羽織り、デッキケースを腰に固定した。
鏡を見ると、前髪が寝癖で跳ねている。
手で押さえたが、直らなかった。諦めた。
一階のホールに降りると、仲間たちが既に集結している。
「おはようございます、悠真様」
ホウキが静かに頭を下げた。
黒いポニーテールが肩に流れ、切れ長の黒い瞳が柔らかく細まる。
東の国風の軽装和装が、朝の光に映えていた。
「おはよう、悠真くん。寝癖、直してないの?」
長く細い耳を揺らしながら、シャルルが翠色の瞳を細めて笑う。
「まあ……直らなかったとでも言っておこう」
「直してあげましょうか?」
「……必要ない」
他愛もないやり取りをする二人。
「どけどけどけ! 悠真は私の隣にいるんだよ!」
豪快にシュンリンが割り込んできた。
燃えるような赤いツインテールを振り乱し、彼の腕を強引に掴む。
「いや、ちょっと待て……」
悠真が声を上げる間もなく、五人が彼を取り囲んだ。
周囲の女性たちが、その圧力に押されて後退していく。
宴会の騒ぎが、さらに大きくなった。
笑い声、歌声、怒声が入り混じりながら、篝火の炎が夜空に向かって高く燃え上がる。
悠真は五人に囲まれたまま、夜空を仰いだ。
億を超えた視聴者。クリアしたダンジョン。
復活した命。そして、まだ続く冒険。全部が、嘘みたいだった。
「ふっ……悪くない夜だな」
誰に言うでもなく呟いた彼の声は、宴会の賑わいの中に消えてゆく。
こうして、長い一日が幕を閉じた。
――そして宴会から、二ヶ月が経過。
あの夜の熱狂は今も、この世界のあちこちに尾を引いていた。
とある街の市場では、悠真たちのファンアートが無償で配られていたほど。
ホウキの凛とした太刀捌きを描いたもの、シュンリンの龍化を鮮やかに表現したもの、アイリスの幻影を幻想的に描いたもの。
絵師たちが競うように制作した作品が、道行く人々の手に渡っていく。
その知名度は衰えるどころか、日を追うごとに勢いを増していた。
一方で一軍の男女たちについては、ラスボス部屋で発狂していた姿を最後に、悠真は直接顔を見ていない。
宴会にも姿を現さなかった彼らは、翌日には既に次のダンジョンへと向かっていたということを風の噂で彼は聞いた。
日本に帰るために、一刻も早く次を攻略しようという焦りが見え見えである。
そして悠真が気まぐれに彼らの配信を覗いてみたところ、現在は蒼炎の回廊と呼ばれるダンジョンを攻略中とのことだった。
配信自体は普通に人気で、視聴者もそれなりにいる。
ただ、悠真の配信と比べると、天と地ほどの差があるのは当然のこと。
そして今日。
とある街の宿屋の一室に、朝の光が差し込んでいた。
悠真は目を覚ますと、軽く伸びをしてから身支度を整える。
漆黒の外套を羽織り、デッキケースを腰に固定した。
鏡を見ると、前髪が寝癖で跳ねている。
手で押さえたが、直らなかった。諦めた。
一階のホールに降りると、仲間たちが既に集結している。
「おはようございます、悠真様」
ホウキが静かに頭を下げた。
黒いポニーテールが肩に流れ、切れ長の黒い瞳が柔らかく細まる。
東の国風の軽装和装が、朝の光に映えていた。
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