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「お前は戦力外だ」と追放されたカードゲーマー、伝説級レアカードで無双する ~元クラスメイトたちは没落したけど、俺は美少女パーティーとダンジョン配信で大成功しました~  作者: どすこい。お嬢様
第六章

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第5話 主人公、死す

「……だとしたら」


 悠真は歯を食いしばる。


『悠真くん危なかった……』

『ホウキさんを助けた!』

『あの魔法、石畳が消えた……』

『サキュバスクイーン強すぎる』

『悠真くん、諦めないで』

『頼む、勝ってくれ』


 コメントが流れていた。


「状況を……整理する。現時点で、ホウキが膝に損傷。アイリスが魔力を三割以上消費。シャルルが茨の魔法を二回使用して残量が少ない。シュンリンが翼の一撃を受けて、龍化の持続時間を消耗している。私は弾丸を五発使用済み……」


 冷静な声でアウラが切り出す。

 猫耳を立て直し、全員に視線を配る。


「……へっ、見事なまでに最悪な状況だな」


 吐き捨てるように、悠真が呟いた。


「そのうえ、俺は手札も事故るっつーおまけ付きだ」


 静かに付け加えた彼の一言が、空間に重く落ちる。

 それでも、悠真の足は前を向いていた。

 

 デッキケースを握り直す。

 場に伏せたカードが端で静かに光を放つが、まだ今は使う時ではない。


「だけど、まぁ……諦めるつもりはないぜ。ここまで来たんだからよ。ほら、全員立て。次の手を考えるぞ」


 悠真は言い切る。

 そしてサキュバスクイーンが、ゆっくりと両手を再び持ち上げ始めた。

 漆黒の魔力が、再び収束を始める。


 サキュバスクイーンの両手の間で、先程より濃い闇が渦を巻いていた。

 石畳が軋み、空気が震え、階層内全体が圧力に耐えるように鈍く唸る。

 そしてその照準が、ホウキへと向いていた。


「ちっ……!ホウキ、逃げろ!」


 アウラが叫ぶ。

 だが、ホウキの膝の損傷は思いのほか深く、立ち上がることは出来ても歩行は厳しい様子。


 太刀を地面に突き立てることで、己の体を支えることで精一杯のようで、負傷した側の足が主の言うことを聞く事はない。


 そして――――悠真は走った。

 他の誰よりも先に、迷わず。

 ホウキの前に滑り込み、大きく両手を広げた。


「悠真様……!」


 ホウキの切れ長の黒い瞳が、彼の背中を見上げる。


「な、何をしておられるのですか……!」

「見て分からねぇのか? お前を守るんだよ」

「馬鹿なことを言わないでください……!」


 彼女の声が、珍しく震えていた。


「私の失態で、悠真様まで……このままでは貴方が死にます……! 私などは見捨てて、どうか……どうか逃げてくだされ……!」

「嫌だね」


 振り返らずに彼は答えた。


「これは私の責任……怪我を負ったのは己の不覚です!だから!悠真様を巻き込むわけにはいきませぬ……!貴方様は……どうか生きて、このダンジョンをクリアしてください……!」


 ホウキの声に、涙が混じり始める。

 静かに悠真は息を吐いた。


 漆黒の魔力が、臨界に近づいてくる。

 空気が焦げるような感覚が、肌に焼きつく。


「……まったく、こういう肝心な時に限って手札が事故るってのは、カードゲームあるあるだよな。ほんと、勘弁して欲しいぜ」


 文句を吐き捨てるように、彼は呟いた。

 力の抜けた笑いが、悠真の口元に浮かぶ。

 前髪が風に揺れ、茶色の瞳が漆黒の魔力を真正面から見据えている。


「はぁ……あとは頼んだぜ。ホウキ、みんな!」

「悠真……っ!」


 ホウキが手を伸ばした。

 しかし、その指先が届く前に、サキュバスクイーンが両手を解放した。


 漆黒が解き放たれる。

 それは光の反対とも見て取れる存在。

 輝くのではなく、吸い込む。


 存在を消去する純粋な闇が、悠真へと真っ直ぐに向かってきた。

 だが尚も彼は一歩も、その場から動かない。

 両手を広げたまま、その場に立ち続けた。


 そして漆黒が悠真の肉体に衝突した瞬間――――世界が大きく歪む。

 痛みという概念が、全身を同時に貫いた。


 骨の内側から焼かれるような、皮膚が引き剥がされるような、魂そのものを引き抜かれるような感覚が、刹那に凝縮して彼の全身を蹂躙する。


「──ッッ……あ……」


 声にならない声が漏れた。

 漆黒が通り過ぎた後、悠真の身体は、ゆっくりと前のめりに崩れ落ちる。

 石畳に膝がつく。手がつく。そして、横に倒れた。


「悠真くん……!」


 シャルルの叫び声が、階層内に響き渡る。

 長く細い耳が限界まで逆立ち、翠色の瞳が恐怖で見開かれていた。


「悠真……!」


 声を荒げながらアウラが駆け寄ろうとする。

 猫耳が固まったまま青灰色の瞳が、悠真の倒れた姿を捉えていた。


「悠真様……悠真様……!」


 膝をついたままホウキは、彼の元へと這い寄る。

 黒いポニーテールが乱れ、切れ長の黒い瞳から涙が溢れていた。


「なぜ……なぜ、このような……私のせいで……!」

「…………」


 石畳に頬をつけたまま、悠真は目を細める。

 視界が徐々に霞んでいく。


 痛みが波のように引いていく。

 それが良い兆候ではないことは、彼自身が一番理解している。


 そして悠真が事前に、場に伏せた一枚のカードが、微かな光を放つ。

 すると彼の視線が、そこへと自ずと向いた。


(──あとは、任せたぜ)


 それだけ心の中だけで呟くと、悠真は生命の終わりを迎え、静かに目を閉じる。

 それと同時にコメントが、静止するように止まった。

 そして数秒の沈黙の後、怒涛のように文字が流れ始める。


『嘘だろ……悠真くん……死んじゃったの……?』

『起きてくれ頼む頼む頼む』

『仲間を守って死んだ……』

『泣いてる止まらない』

『噓だ! 噓だ! 噓だ! 噓だ!』

『ホウキを守るために……あいつ本物の漢だよ』

『悠真くんが死んだ……?本当に……?』

『俺たちのリーダーが……』


 ――そしてサキュバスクイーンが優雅な笑みを零す。

 高く、甲高い笑い声が、階層内に響き渡った。


 人の声ではない。圧倒的な強者が、弱者の終わりを嗤う声だ。

 漆黒の翼を大きく広げ、深紅の瞳が天井を仰ぐ。


 その笑いには、憐れみも慈悲もなく、ただ勝利の愉悦だけが満ちていた。

 相手の笑い声が、仲間たちの耳にも届く。

 シャルルは、その場で膝をついた。


「悠真くん……ごめんなさい……ごめんなさい……。僕がもっと早く回復魔法を使えていたら……」


 髪が石畳に垂れ、長く細い耳が伏せられる。

 翠色の瞳から、涙が一筋伝い落ちた。


 それは偏に詠唱が間に合わないという、どうしようもないもの。

 サキュバスクイーンの攻撃は、収束から解放までの時間が余りにも短かった。


 回復魔法の詠唱を始めた瞬間には、既に魔法は解放されていたのである。

 つまり無言詠唱以外、如何なる回復魔法を使用したとしても、それは絶対に間に合わない魔のタイミング。


 さらに不運なことに、事前準備で用意していた大量のポーションも、戦闘の衝撃で全て砕けていた。

 脆いガラス瓶は、サキュバスクイーンとの交戦の中で尽く破損していたのである。

 つまりあの瞬間、悠真が身を挺する以外に、ホウキを守る手段は存在しなかった。

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