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「お前は戦力外だ」と追放されたカードゲーマー、伝説級レアカードで無双する ~元クラスメイトたちは没落したけど、俺は美少女パーティーとダンジョン配信で大成功しました~  作者: どすこい。お嬢様
第六章

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第4話 負傷してゆく仲間たち

「なっ──」


 ホウキが後退する。


「私も参りますわ!」


 アイリスが叫び、幻影の反逆を発動した。

 金色の狐耳を立て、本体と二体の幻影が三方向から同時に突撃する。


 レイピアの切っ先が三本、サキュバスクイーンの各所を狙う。

 しかしサキュバスクイーンは、まるで水の中を泳ぐように滑らかに動いた。


 三本のレイピアを全て躱し、その動作の延長線上に手が伸びる。

 幻影の一体が弾き飛ばされ、アイリス本体が衝撃波を受けて石畳を滑った。


「アイリス!」

「問題ない……ですの」


 金色の狐耳が伏せられ膝をついた彼女だが、苦悶とした声色で悠真に返事をしながらも、歯を食いしばりながら立ち上がる。


「援護するよ! 豊穣の賜り物──千荊縛鎖!」


 シャルルの長杖から、無数の茨の蔓が射出された。

 棘を帯びた蔓が、サキュバスクイーンに絡みつこうとする。


 だがサキュバスクイーンは、翼を一度羽ばたかせた。

 それだけで、蔓が根元から断ち切られる。

 シャルルの魔力が削られ、彼女が一歩後退した。


「――デッドアイ・シュート、発動!」


 アウラの魔眼が起動し、七発の魔弾が装填される。

 引き金を引くたびに、弾丸がサキュバスクイーンへと正確に飛ぶ。


 しかし、いつもならば確実に当たるはずの弾丸が、サキュバスクイーンの翼に阻まれ、あるいは僅かな体捌きで全て躱されていく。


「くそっ……当たらない! 速度と反応速度が、計測値を大幅に超えている! 通常の射撃理論が通用しない!」


 珍しく苛立ちの声を、彼女は漏らした。

 猫耳が逆立ったまま、青灰色の瞳が分析を続けている。


「今度はアタシが行く!」


 シュンリンが吠えた。

 燃えるような赤いツインテールを振り乱し、龍化第一段階の鱗が両腕に浮かび上がる。

 硬質な爪の拳に深紅の魔力を凝縮させ、真正面からサキュバスクイーンへと突進した。


 拳がサキュバスクイーンの腹部に直撃する。

 確かな手応えを感じた様子。


 だが──サキュバスクイーンは、僅かに後退しただけだった。

 深紅の瞳が、シュンリンを見下ろす。


 その表情は変わらない。

 まるで赤子の拳を受け止めたかのような、余裕の表情だった。

 次の瞬間、翼が振り下ろされる。


「シュンリン!」


 悠真が叫んだ時には、彼女の体が壁まで吹き飛ばされていた。

 石壁に激突した衝撃で、龍化の鱗が数枚剥がれ落ちる。

 燃えるような赤いツインテールが乱れ、赤金色の大きな瞳が一瞬焦点を失った。


「っ……まだ、やれる」


 壁を背に立ち上がろうとするが、シュンリンの膝は笑っている。

 悠真は即座に状況の把握を試みた。


 ホウキは太刀の軌跡が全て弾かれ、再突入のタイミングを計っている。

 アイリスは膝をついたまま幻影を再展開しようとしているが、魔力の消耗が顔に出ていた。

 シャルルは茨の蔓を再び展開しようと杖を構えているが、翠色の瞳に疲労が滲んでいる。

 

 アウラは射撃を続けているが、弾道を読まれ続けており、七発のうち六発目に差し掛かっていた。

 シュンリンは壁際で体勢を立て直している。

 全員が明確に消耗していた。


 それに対してサキュバスクイーンは、白磁のような肌に傷一つない。

 深紅の瞳は依然として余裕の光を湛え、ゆったりと漆黒の翼は揺れている。


「……こいつ」


 歯を食いしばりながら、悠真はデッキケースを握り直した。

 これまでの戦いで培った経験が、この状況を冷静に告げている。

 今の仲間たちの攻撃では押し込めない。何か、別の手が必要だと。


『やばい、全然通じてない……』

『サキュバスクイーン強すぎる』

『悠真くん、頼む……』

『仲間たちが傷ついていく……』

『絶対諦めないでくれ』


 コメントが流れていた。

 サキュバスクイーンが、ゆっくりと悠真へと視線を移す。


 深紅の瞳が、彼だけを捉える。

 まるで、最後に残った獲物を確認するかのように。


「簡易領域能力──クイック・デュエル・フィールド!」


 悠真の足元に魔法陣が展開された。

 青白い光が円形に広がり、デッキケースが輝く。

 その瞬間だった。


 素早くホウキが動く。

 桜花千凜の参ノ型を発動しようと、大きく地を蹴り上げた彼女だが、その脚は着地の瞬間に大きく滑った。

 

 先程の翼による衝撃で石畳に亀裂が入っており、踏み込んだ足場が崩れたのである。

 支えを失った体は、そのまま無防備に沈む。


 膝が割れた石の縁へと叩きつけられた。

 鈍い衝撃の直後、裂ける感触。

 衣服が破かれ、皮膚が削がれ、鋭利な石片が深く食い込む。


 血が、滲むのではなく溢れた。

 赤い筋が膝から流れ落ち、砕けた石畳の隙間へと滴る。


「悠真様──」


 ホウキが叫ぶより早く、サキュバスクイーンが動いていた。

 両手を頭上で交差させ、深紅の瞳が閉じられる。


 漆黒の翼が最大限に広がり、全身から魔力が収束し始めた。

 それは漆黒の塊である。光ではない。


 闇が凝縮されたような、見る者の意識を根底から揺さぶる漆黒の塊が、両手の間で渦を巻いている。

 空気が震え、床の紋様が軋む音を立てた。


 重力が歪んでいるかのような感覚が、悠真の全身を圧迫する。

 あれを受ければ死ぬ。


 理屈ではなく、彼の本能がそう告げていた。

 加護も防御魔法も、あの規模の前では意味をなさない。


 生身で受ければ、即座に命が終わる。

 悠真は手を震わせながらも、デッキケースから五枚のカードを引き抜いた。

 一瞬だけ目を走らせる。


(──駄目だ)


 手札が見事なまでに事故っていた。

 今すぐ戦力として使えるカードが、この五枚の中に無い。


 彼は舌打ちをした。

 しかし僅かに悩んだ末に、一枚のカードを場に伏せる。


 それだけして、デッキケースを素早く外套の内側に戻す。

 次の行動は、一つしかない。


「ホウキ!」


 悠真は地を蹴り上げる。

 サキュバスクイーンの両手から、漆黒の魔法が解き放たれようとしている。


 収束した闇が形を成し、それ自体が意志を持った捕食者のように、ホウキへと狙いを定めている。

 彼の足が石畳を叩く。一歩、二歩、三歩。距離が縮まる。


 漆黒が膨張した。

 ホウキは膝をついたまま太刀を盾代わりに構えようとしていたが、その薄い刃一枚で防げる代物ではないことは悠真でも理解できる。


 あの規模の前では、太刀など紙片と同じだと。

 そして彼はホウキの傍に着くと、彼女の身体を確実に掴み一回転すると、そのまま遠心力を利用して力の限り遠くへ投げ飛ばし、その反動で自身も横へと飛ぶ。


 その刹那、漆黒の魔法が、二人が居た場所を通過する。

 石畳が根こそぎ消えた。


 爆発ではない。崩壊でもない。

 ただ、存在が消えた。


 漆黒が触れた部分の石畳が、まるで最初からそこになかったかのように、跡形もなく消滅していたのである。

 直径三メートルほどの虚無が、床に口を開けていた。


「……っ”」


 荒い呼吸を整えながら、地に転がる悠真は、視線を周囲に配る。


「悠真様……」


 投げ飛ばされて地面に横たわるホウキは、か細い声で無事を知らせるが、それと同時に切れ長の黒い瞳が、消えた石畳を見つめていた。


「……無事か?」

「少しだけ足を負傷しましたが……問題ございません」


 それだけ言葉を交わすと、二人は素早く立ち上がろうとする。


「今のは……」


 掠れた声でシャルルが呟く。

 翠色の瞳が虚無と化した床を凝視している。


「石畳が、消えた……。物質的な破壊ではない。魔力による存在の消去だ。あれが直撃すれば、肉体ごと消滅する……」


 低く震える声でアウラが言い切った。

 猫耳が固まったまま、青灰色の瞳が分析を続けている。


「冗談じゃないですわ……。悠真、今のは無茶すぎますの。もし、貴方まで消えていたら──」


 金色の狐耳を伏せながら、アイリスが蒼い瞳で彼を見た。


「ああ、分かってる……」


 短く悠真は答える。

 前髪を掻き上げ、サキュバスクイーンを正面から見据えた。


 サキュバスクイーンは、微動だにしていない。

 静かに漆黒の翼を揺らし、深紅の瞳が悠真を見ている。


 その表情には依然として変化がなく、あの極大の魔法を放った後でさえ、魔力の消耗を微塵も感じさせなかった。


「あれが最大出力じゃない……かもしれないな。あの余裕っぷり……まだ、本気じゃないって顔だぜ」


 壁際から立ち上がりながら、シュンリンが赤金色の大きな瞳を細める。

 燃えるような赤いツインテールが乱れたまま、龍化の鱗が肩口に浮かんでいた。

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