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「お前は戦力外だ」と追放されたカードゲーマー、伝説級レアカードで無双する ~元クラスメイトたちは没落したけど、俺は美少女パーティーとダンジョン配信で大成功しました~  作者: どすこい。お嬢様
第六章

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第3話 サキュバスクイーン

「……閉じた」


 静かにシャルルが呟いた。

 長く細い耳が静かに揺れ、翠色の瞳が閉じた扉を見つめている。


「当然だろうな」


 腕を組みながら、アウラが低く言い放つ。ゆっくりと猫耳が前方へ向く。


「どういう意味だ?」

「帝国軍の資料にも、似たような記録がある。高位のダンジョンには、挑戦者を識別する仕組みが備わっているものが多い。おそらくこの門も、挑戦者(パーティー)たちを認識した時点で、外部からの介入を遮断する設計になっているはずだ」


 悠真の問い掛けに対して、アウラは短く答えた。


「つまり……我らがボスと決着をつけるまで、あの門は再び開かぬ、ということにございますな」


 静かにホウキが続けた。切れ長の黒い瞳が、閉じた扉から前方の空間へと移っていく。


「勝つか、負けるか。どちらかが決まるまでは、外の誰も入ってこられない。そして、我らも出られない」


 小さくアウラが頷いた。一瞬の沈黙が流れる。


「……なるほどな」


 前髪を掻きながら悠真は、その事実を静かに受け止めた。

 退路はない。助けも来ない。

 この六人だけで、この先にいる存在と決着をつけなければならない。


「はっ、ちょうどいい。邪魔が入らないってことだろ。むしろ好都合だ!」


 燃えるような赤いツインテールを揺らしながら、シュンリンが硬質な爪の拳を握り締めた。

 赤金色の大きな瞳が、前方の暗闇を真っ直ぐに見据えている。


「ああ、同意だ」


 アウラが短く言い、銃を構え直した。


「ところでシャルル、魔力残量は?」

「問題ないよ。昨日の休息で、しっかり回復した」


 悠真の問い掛けに、シャルルが長杖を構えながら応じる。

 翠色の瞳が静かに輝いていた。


「アイリス、幻影の展開は?」

「いつでも。三体同時展開、準備完了ですわ」


 彼の言葉にアイリスは、金色の狐耳を立たせると、蒼い瞳が鋭く細まる。


「ホウキ、桜花千凜は?」

「全型、使用可能にございます」


 悠真の問い掛けに、ホウキの切れ長の黒い瞳には、静かな炎が灯った。

 そして彼はデッキケースを握り直す。

 

 残枚数は把握している。

 どのカードをどのタイミングで使うか、すでに頭の中で組み立てていた。


「よし……!」


 悠真は前を向く。

 ボス部屋の空間は広大だった。


 天井は果てしなく高く、左右の壁は遠く、まるで一つの世界を切り取ったかのような規模がある。

 地面には古代の紋様が刻まれており、それが微かな光を放っていた。


 空気が違う。重い。密度がある。

 この空間全体に魔力が充満している。


「……いる」


 シュンリンが低く呟いた。

 額の両側の龍角が僅かに赤みを帯びている。


 本能が、この先の存在を感知しているようだ。

 六人が横一列に並ぶ。


 漆黒の扉は、もう開かない。

 退路はない。


「……行くぞ」


 悠真の一言が、静寂の中に落ちた。

 六つの影が、同時に踏み出す。


 そして――それは起きた。

 天井から細かな石の破片が降り始めたのである。

 砂が舞い、古代の紋様が刻まれた床に、白い粉が積もっていく。


「上だ!」


 アウラが即座に銃を、天井へと向けた。

 猫耳が鋭く逆立ち、青灰色の瞳が暗闇を見通そうとしている。


 天井の一点が、ひび割れた。

 亀裂が広がり、石材が砕けて落下し始める。


 そして──轟音と共に何かが落ちてきた。

 それは石とかではない。


 粉塵が舞い上がり、視界が白く霞む中、六人は一斉に後退した。

 悠真がデッキケースに手をかけ、ホウキが太刀を抜く。


 アイリスがレイピアを構え、シュンリンが拳を握り締めた。

 ゆっくりと粉塵が晴れていく。


 その中心に、何かがいた。

 着地の衝撃で砕けた石材が周囲に散らばり、そこに立っているのは──人の姿をした存在である。


 身長は悠真より高く、全身のシルエットは紛れもなく女性のそれだ。

 漆黒の長髪が床まで流れ落ち、白磁のような肌が薄暗い階層の中でも際立った輝きを放つ。


 顔立ちは完璧と言える造形で、どの角度から見ても非の打ちどころがない美しさだ。

 だが、その背中から広がる漆黒の翼が、人ではないことを示している。


 額から生える一対の角が、この存在が悪魔であることを物語っていた。

 全身を包む漆黒のドレスは胸元と背中が大きく開き、翼と尾が自然な動作で揺れている。


 ゆっくりと深紅の瞳が、六人を見渡した。沈黙。

 その存在は言葉を発しなかった。


 ただ、ゆっくりと首を傾け、長い髪を肩に流す。

 その仕草だけで、空気が変化した。

 甘い香りが漂い、空間全体が熱を帯びるような感覚が走る。


「う……美しい……」


 シャルルが思わず呟いた。

 長く細い耳が揺れ、翠色の瞳が存在から離れない。


「綺麗すぎる……あれが、ラスボス?」


 歯を食いしばりながら、悠真は相手を見据えた。

 その圧倒的な美しさに、油断しそうになる自分が居たのである。


 しかし、何かが違う。

 この甘い香り、この肌を撫でるような空気の変質。

 戦闘経験が積み上げた本能が、警戒を叫んでいた。


「全員……待ってくれ」


 低く声でホウキが言い放つ。

 黒いポニーテールが揺れ、切れ長の黒い瞳が存在を鋭く見据えている。

 太刀を構えたまま、彼女は続けた。


「あの翼……あの角……そして、この空気の変質。それらについて私は……祖国の文献で読んだことがございます……」

「……なんだ」


 数秒の間を空けて、悠真が問い返す。


「それは……サキュバスクイーン。人の欲望を糧とする魔物、サキュバスの上位種にございます……」


 一拍置いてからホウキは静かに、しかし確かな緊張を込めて言い放つ。

 その言葉が落ちた瞬間、場の空気が変化する。


「サキュバスの、クイーンだと? ……ちっ、厄介な相手だな。サキュバス系の魔物は、視覚と嗅覚に干渉して判断力を奪う。上位種ともなれば、その効果は──」


 アウラが低く唸った。

 猫耳がぴたりと止まり、青灰色の瞳が険しく細まる。


「精神への直接干渉も可能、ということですわね」


 静かにアイリスが言い切った。

 金色の狐耳が逆立ち、蒼い瞳が存在を冷静に分析している。


「これが……ラスボス」


 低くシュンリンが呟いた。

 燃えるような赤いツインテールが静かに揺れ、赤金色の大きな瞳がサキュバスクイーンを見据えている。


 普段の豪胆さが影を潜め、その瞳には珍しく緊張の色があった。

 額の両側の龍角が、僅かに赤みを増している。


 サキュバスクイーンは、ゆっくりと一歩を踏み出した。

 その動作一つ一つが、舞踏のように優雅で、しかしどこか捕食者の静けさを持つ。


 漆黒の翼が緩やかに広がり、深紅の瞳が悠真たちを順番に見渡していく。

 甘い香りが更に濃くなった。


「全員、鼻を覆え。この香りが魔法の媒体になっている可能性がある。直接吸い込むな」


 即座にアウラが指示を出す。


「「「了解」」」」


 全員が素早く反応した。


『サキュバスクイーン!?』

『ラスボスがそれ!?』

『絶世の美女じゃん、えっど』

『これは強い、絶対強い』

『悠真くんたち気を付けて!』

『視聴者数また上がってる』


 コメントが流れてゆく。

 悠真はデッキケースを握り締める。


 目の前の存在は、これまで戦ってきた、どんな魔物とも違う。

 圧倒的な美しさの中に、底知れない力が潜んでいる。


「──やるしかねぇな」


 彼の声が、静かに落ちた。

 サキュバスクイーンの深紅の瞳が、悠真の瞳と交差する。


 次の瞬間、彼女の唇が僅かに弧を描く。

 言葉はない。ただその表情だけが、この戦いの始まりを告げていた。


 重々しい魔力が、階層内に満ちてゆく。

 空気が変質する。


 先程までの甘い香りが消え、代わりに鉄と魔力が混じり合う、重い空気が肌に張りつく。

 床に刻まれた古代の紋様が赤黒く光り始め、天井から落ちる砂埃が止まった。

 まるで世界が、これから始まることを知っているかのようである。


「くっ……魔力密度が……。これまでのどの階層とも比較にならない……」


 長く細い耳を立てながら、シャルルが長杖を両手で握り直した。

 翠色の瞳が、空間全体の魔力濃度を測るように動いている。


「……当然だ。ここはダンジョンの最深部。その存在が、全ての頂点に君臨している」


 短くアウラが言い切った。

 銃を構え直し、猫耳を鋭く前方へ向ける。

 青灰色の瞳に、軍人としての緊張が滲んでいた。


 一方で、サキュバスクイーンは、なに一つ動じない。

 ゆっくりと漆黒の翼を広げ、長い黒髪が重力に従って流れる。


 深紅の瞳が六人を静かに見渡し、その唇が僅かに開かれた。

 まるで勝利を確信した者の笑み。


「来るぞ……ッ!」


 低く悠真が告げた。


「桜花千凜──壱ノ型、花散らし!」


 その瞬間、ホウキが地を蹴り上げる。

 太刀が花弁へと変じ、無数の刃がサキュバスクイーンへと殺到した。


 桜の光が弧を描き、空間を切り裂いて迫る。

 だが、サキュバスクイーンは身じろぎ一つしなかった。


 漆黒の翼が広がり、花弁の刃を全て受け止める。

 翼の表面に刃が触れた瞬間、まるで布を切ろうとしているかのように刃が滑り、弾かれた。

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