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さくら台駅前ペット探偵事務所 「FXで数億稼ぐサヴァンの天才」×「バツイチの40代おじさん」。凸凹バディが挑むのは、迷子のペットと「人間の感情(バグ)」!?  作者: あおにし
CASE10 さくら台の絆と探偵の誇り

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37/39

File 37 心の傷

「いつも応援ありがとうございます!さくら台駅前ペット探偵事務所、第37話です。

無事に保護できるか。お楽しみください!」

再び電車に乗り込み、東の緑地帯へ到着した俺たちは、昨晩の方針通りに動いた。


「よし。昨晩決めた通り、犬の捜索の原則だ。現地で目撃情報という『点』を探して、現在の『軌跡(ベクトル)』を引くぞ」


俺はカラーコピーしたボーダーコリーのポスターを何百枚も束にして持ち、緑地帯の周辺から範囲を広げていった。


早朝からジョギングをしている人や、犬の散歩をしている飼い主たちを見つけては小走りで駆け寄り、ポスターを配りながら片っ端から聞き込みを開始する。


「すいません、こんなボーダーコリーを見かけませんでしたか?」


足が棒になるまで歩き回り、冷たい風の中で声を枯らしながらポスターを配り続けること数時間。俺の足が、ついに有力な情報を掴み取った。


「ヒカル! 緑地帯の清掃員が『一昨日の夕方、この緑地帯を抜けて、さらに東へ向かって歩いていた』って証言してくれたぞ! 二つ目の点だ!」


「……CIAがくれた一つ目の点と繋がり、ベクトルが確定。対象は、緑地帯には留まらず、さらに数キロ先に向かっている」


ヒカルは画面のマップにベクトルを引き直し、静かに息を吐いた。


「……僕の『疲労で緑地帯に留まっているはず』という推測は、前提から間違っていた。対象の抱えるパニックと恐怖は、僕の想定を遥かに超えている」


「だから昨日、俺たちがヘッドライトやサーモで緑地帯をいくら探しても見つからなかったわけだ。よし、向かおう!」


俺が気合を入れて歩き出そうとした瞬間、腹の奥から「グゥゥゥ」と情けない音が鳴り響いた。


朝から数時間もポスターを配り歩き続け、時刻はすでに昼を回っていた。


「……イナガキさん。これから先の未知のエリアの捜索に向け、カロリーの充填が必要だ。ここで食事にする」


「そ、そうだな。腹が減っては戦はできねえ」


俺たちは近くのベンチに腰を下ろし、今朝カスミちゃんからもらっていた紙袋を開けた。


中には、甘いチョコレート生地のフォンダンショコラから、節分の魔除けの柊鰯のように焼いた『イワシの頭』が何本も天に向かって突き出ている、おぞましい物体が鎮座している。


「明るいところで見ると、さらに地獄みたいな見た目だな……」


俺がドン引きしている横で、ヒカルは無表情のまま、突き出たイワシの頭ごとフォンダンショコラをガブリとかじり、静かに咀嚼した。


「……イワシの強い塩気とカカオの濃厚な甘みが、脳の疲労を急速に回復させる。視覚的エラーを補って余りある、極めて合理的なエネルギー充填だ。……美味い」


「マジかよ」


俺も恐る恐る口に運ぶと、見た目からは想像もつかない奥深く絶妙な甘じょっぱさに驚かされた。


親父さんの狂気と才能が詰まった『究極のハイブリッドパン』で腹を満たし、気力と体力を完全に取り戻した俺たちは、力強く立ち上がった。


「よし! エネルギー充填完了だ。急ぐぞ、ヒカル!」



ヒカルが正確に引いたベクトルの延長線上。俺たちは、緑地帯からさらに東へ2キロほど先にある、古く静かな自然公園へとたどり着いた。


すでに太陽は傾きかけ、2月の冷たい風が吹き抜けている。


「ここがベクトルの終着点か。かなり木が鬱蒼としていて、枯れ草も多いな。これじゃあボーダーコリーの柄でも保護色になっちまって、肉眼じゃ簡単には見つからねえぞ」


俺は頭のLEDヘッドライトを点灯させ、枯れ草を棒でかき分けながら、這いつくばって公園の奥へと進んでいった。


泥だらけになりながら、獣道や茂みの影を一つ一つ丹念に潰していく。


だが、広大な公園の自然の中で、ただ肉眼で闇雲に探すだけでは限界があった。


「……イナガキさん、そこからは僕の領域」


ヒカルは機材バッグから単眼スコープ型の『サーモグラフィ』を取り出し、冷え込み始めた公園の奥を見渡した。


「夕暮れが近づき、地表温度が急速に下がるこの時間帯。……2月のこの低い外気温なら、枯れ草の奥に潜む恒温動物の熱源は、ノイズなしで赤外線で鮮明に可視化される」


ヒカルは冷徹な視線で、公園内の熱源を次々とスキャンしていく。 モニターの青黒い背景の中に、ポツンと、一つだけ真っ赤な熱源が浮かび上がった。


「……対象の熱源、特定」


ヒカルがサーモグラフィを下ろし、指差した先。 自然公園の最も奥。


木々に囲まれつつも、なぜかポツンと開けた場所で、ガタガタと極限状態で震えているボーダーコリーを、ついに発見した。


野宿を続けていたはずなのに、泥や枯れ草の付着が異様に少ない。


「いたぞ……!」


俺は刺激しないように姿勢を低くし、優しく近づこうとした。


だが、ボーダーコリーは単なる迷子犬の警戒ではなく、人間である俺そのものに対して異常なほどの恐怖を見せ、後ずさる。


さらに、普通なら身を隠すために「狭い茂みの奥」へ逃げ込むはずが、なぜか「狭く囲まれた場所」を極端に避けるように、開けた場所の真ん中で怯え続けていた。


「……エラー」


ヒカルが単眼鏡でカイを観察し、小さな違和感を口にした。


「いなくなってから数日間、10キロ以上を野外で放浪したはずの中型犬にしては、被毛の汚れや肉体的な疲労度が計算値と合わない。それに、休めるはずの緑地帯をスルーして逃げ続け、狭所への異常な恐怖反応……単なるパニックとは異なる『トラウマ』の挙動」


俺はすぐに依頼人の西城さんへ「見つけました。車で迎えに来てください」と連絡を入れた。


ほどなくして、西城さんが車で現場付近に駆けつけてきた。


「カイッ!! よかった……本当によかった!」


西城さんは涙を流して駆け寄った。


飼い主の顔を見て、ボーダーコリーの『カイ』も少しだけ警戒を解き、尻尾を振る。


だが、問題はその直後に起きた。


西城さんが安全に連れて帰るため、持参した「犬用クレート(持ち運び用のプラスチック製ケージ)」の扉を開け、中へ促そうとした瞬間だった。


「キャンッ!! グゥゥゥ……ッ!!」


カイは「狭い場所に閉じ込められること」に対して狂乱したように暴れ、牙を剥いて断固として入ることを拒絶したのだ。


「カイ……? どうしたんだ、いつもはお利口に入ってくれるのに……」


「……西城さん。無理に入れないでください。俺たちが後ろでカイを見ます。そのまま、『さくら台動物病院』へ向かいます」


異常なトラウマの反応。不自然な毛の綺麗さ。不気味なノイズの正体を確かめるため、俺たちは瑞希先生の元へと急いだ。



その日の夕方。『さくら台動物病院』の診察室。


白衣を着たクールな獣医師の瑞希先生は、診察台の上でガタガタと震えているカイを優しく撫でながら、無駄のない手つきで全身のチェックを行っていた。


「……なるほど。大きな外傷はないけれど、いくつか奇妙な点があるわね」


瑞希先生がカルテにペンを走らせ、クールな瞳で俺たちを見た。

「ここまで読んでいただきありがとうございました!

次回、カイに何が……!?


もし『続きが気になる!』『このコンビ、面白い!』と思っていただけましたら、下部の☆☆☆☆☆から【評価】や、作品フォロー&ブックマークをしていただけると、執筆の励みになります!ぜひよろしくお願いします!」

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