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さくら台駅前ペット探偵事務所 「FXで数億稼ぐサヴァンの天才」×「バツイチの40代おじさん」。凸凹バディが挑むのは、迷子のペットと「人間の感情(バグ)」!?  作者: あおにし
CASE10 さくら台の絆と探偵の誇り

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File 35 不気味なノイズ

「いつも応援ありがとうございます!さくら台駅前ペット探偵事務所、第35話です。新たな情報が突破口になるか?お楽しみください!」

閉店間際の『さくら亭 』の一番奥のテーブル席。


2時間近くかけて10キロの道のりを歩き通し、足が棒のようになって疲労困憊で座り込む俺。それぞれの場所での調査状況を話し、まるで痕跡がないことを伝えた。


明日から、どのように調査すべきか、回答が見つからない。八方塞がりの状況の中で、作戦会議をしていたが、ついにヒカルが限界を迎えた。


「……エラー。目撃情報という『点』と、実際の推移が全く合致しない。未定義のカオス。……脳への過剰入力……ショート。処理能力、限界……」


フラリ、とヒカルの体が大きくよろめいた。


ドカン!


テーブルに地響きを立てるような音を立てて、特大の生姜焼き定食が置かれる。 首に白いタオルを巻いた大将のゲンさんが、不骨に胸を張って立っていた。


「おう、若いの! 理屈はいいから、四の五の言わずにうちの生姜焼きを食え! 飛ぶぞ!」


フリーズしているヒカルは動けない。


その極限状態の時、俺のスマートフォンに一つの通知が飛び込んできた。


タワマンマダムの『さくら台CIA』のマリさんから、広域SNSネットワークのフォロワーからのダイレクトメッセージが転送されたものだった。


「おい、ヒカル! マリさんからだ! ボーダーコリーを見かけたって……写真付きの情報が届いたぞ!」


「……写真?」


フリーズしかけていたヒカルの目に、強烈な光が戻った。


ヒカルは無言で割り箸を割ると、思考を再起動させるための莫大なカロリーを強制充填すべく、ゲンさんの生姜焼きを猛然と喰らい始めた。


「……あ、食うんだ……」


俺が呆気にとられている横で、ヒカルは生姜焼きを完璧に咀嚼して飲み込み、口を開いた。


「……糖質とラードの急速補給。極めて合理的。……イナガキさん、対象が目撃された具体的な座標は?」


俺はスマホの画面をスクロールして確認した。


「えっと……さくら台から東へ2駅先、10キロ先の緑地帯付近だ!」


「……東へ10キロ先の緑地帯?」


完全にリブートしたはずのヒカルだったが、その声はひどく消極的だった。


「……エラー。僕たちが引いた南南西のベクトルと、方向がまるで正反対。さらに、パニックで走り続けたボーダーコリーが、数日間も同じ緑地帯の周辺に留まっているのも不自然。……ノイズの可能性が高い」


「おい! 写真があるんだぞ!」


俺が食い下がると、ヒカルは少しの間沈黙し、それから静かに俺のスマートフォンへ視線を向けた。


「……イナガキさん。その画像データとメッセージの詳細、僕のアドレスに転送して」


「分かった。今転送する」


「……ノイズの可能性は極めて高いが、視覚的情報の真偽は確認する。事務所のメイン環境で精密な画像解析を行う。帰還する」


時刻は午後9時。ちょうど食堂の閉店時間だ。


ヒカルは生姜焼きを急ピッチで食べ終えると、さっさと席を立ってしまった。


俺は疲れた足を引きずってヒカルの背中を追い、事務所へと戻った。



事務所に帰ると、ヒカルは無言のままパソコンの前に座り、キーボードを叩き始めた。


だが、普段なら瞬時に終わるはずの解析作業が、一向に進まない。


送られてきた不鮮明な写真のノイズ除去と、ヒカル自身の極度の脳疲労が重なり、処理に膨大な時間を要していたのだ。


カチッ、カチッ、と。 静まり返った事務所に、時計の針の音と、ヒカルの重いタイピング音だけが響き続ける。


俺は疲れた体を労わるように、ストレッチをしながらヒカルの作業が進むのをただ待った。


やがて、時計の針が深夜12時を回った頃。


大きく息を吐き出し、ヒカルの口がようやく開かれた。


「……画像解析を完了。被毛のパターンの類似性、両耳の角度、鼻先の微細な傷。……一致率99.9%。同一個体であると断定」


「やっぱり間違いねえ! 当初考えていたベクトルが違うにしても、この情報を信じて行ってみるか!」


「……ベクトルの矛盾は深刻なノイズだが、画像解析の事実は否定できない」


「なら、今から行くか?」


「……不正解」


「なんでだよ! 俺の足ならまだ動くぞ!」


「……イナガキさんの筋肉疲労は限界値に達している。それに、現在時刻は深夜0時過ぎ。さくら台から東の隣町へ向かう電車は、すでに終了。でも……最大の理由はそこじゃない」


ヒカルはこめかみを指先で押さえ、静かに息を吐いた。


「……僕の脳が持たない」


「え?」


「……今日一日、イナガキさんが捜索している間、僕は対象のイレギュラーな行動を予測するため、数万通りのシミュレーションを並行して実行し続けた。さらに先ほどの不鮮明な画像解析で、僕の脳は限界までブドウ糖を消費し、深刻なオーバーヒート状態……」


ヒカルは、画面に明日の電車の時刻表を表示した。


「……今の状態で動けば、必ず現場で致命的なエラーを見落とす。明日の朝、始発電車で向かうのが最も合理的」


「……お前、そんなに無茶してたのか。くそっ、わかったよ。明日の朝一番だな」


俺が腰を下ろすと、ヒカルは再びプロテインウォーターに手を伸ばした。


この正反対のベクトルが意味する『不気味なノイズ』の正体に、俺たちはまだ気づいていなかった。

「ここまで読んでいただきありがとうございました!

次回、いよいよ捜索を始めます。見つかるか……!?


もし『続きが気になる!』『このコンビ、面白い!』と思っていただけましたら、下部の☆☆☆☆☆から【評価】や、作品フォロー&ブックマークをしていただけると、執筆の励みになります!ぜひよろしくお願いします!」

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