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さくら台駅前ペット探偵事務所 「FXで数億稼ぐサヴァンの天才」×「バツイチの40代おじさん」。凸凹バディが挑むのは、迷子のペットと「人間の感情(バグ)」!?  作者: あおにし
CASE6 老犬の記憶と空っぽのベッド

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21/39

File 21 楽しかった記憶

「いつも応援ありがとうございます!さくら台駅前ペット探偵事務所、第21話です。ヒカルはマックを見つけることができるのか?イナガキが頭を抱えます。お楽しみください!」

「なお、CASE2,CASE4,CASE6について、登場人物を増やしたため、大幅にアップデートしています。こちらも読み直していただけると話がつながると思います。」

「……いや。外部のノイズが干渉しないなら、彼が本能的に選ぶのは……」


ヒカルの指が、静かにキーボードを叩く。画面に、一本の緑色のラインが浮かび上がった。


「商店街の裏路地と土の道を繋ぐ高低差ゼロのルート…… 。これなら、体力消費を限界まで抑えて到達可能」


商店街の裏路地を抜け、柔らかい土の道を辿った先にある、枯れ草の生い茂る古い広場。


「……広いし、すっかり枯れ草が生い茂ってるな。これじゃあ、金色の毛をしたマックは保護色になっちまって、肉眼じゃ見つけにくいぞ」


「……問題ない。イナガキさん、機材バッグから『サーモグラフィ』を」


「おいヒカル、それ、前に桐生が使って、周囲の熱のせいで使い物にならなかったポンコツ機材じゃないか!」


「あの時は7月の猛暑。……今は10月中旬の夕暮れ」


ヒカルは単眼スコープ型のサーモグラフィを構え、冷え込み始めた広場を見渡した。


「地表温度が急速に下がるこの時間帯なら、枯れ草の中にうずくまる生命の熱源は、ノイズなしで可視化される」


モニターの青黒い背景の中に、ポツンと、一つだけ真っ赤な熱源が浮かび上がった。


「……対象の熱源、特定」


その熱源が示す広場の真ん中の日陰で、大きな金色の毛玉が丸くなっていた。 マックだ。疲れ切って穏やかな寝息を立てている。若い頃と同じように、誰かがボールを投げてくれるのを待つみたいに。


「……いたぞ。マックだ」


ヒカルはマックのそばに静かにしゃがみ込むと、ひどく優しい、慈しむような手つきでその金色の背中を撫でた。


「……心拍数、低下。呼吸は浅いが安定している。……よく頑張ったね」


ヒカルは少し表情を引き締め、言った。


「だが、長時間の放浪による脱水症状の兆候。15歳の老体、至急、医療機関での処置が必要」


「わかった! だが、大型犬を俺が背負って走るわけにはいかねえ。さっき会ったゲンさんに連絡して、買い出しの軽バンをここまで回してもらおう! ヒカル、お前は瑞希先生の病院に急患の連絡を入れてくれ! 田中さんとも病院で合流だ!」



夕暮れの道を、ゲンさんの軽バンが急いで走っていく。 後部座席には、マックを抱きかかえるようにして乗っている俺とヒカル。


「まったく、俺は探偵事務所のお抱え運転手じゃねえんだぞ! だがまあ、マックが無事で見つかって本当によかったぜ!」


ハンドルを握りながらボヤくゲンさんに、俺は頭を下げた。


「わりぃゲンさん! 本当に助かった!」



『さくら台動物病院』の診察室。 診察台の上で、点滴を受けているマック。


白衣姿の瑞希先生が、優しく、しかし無駄のない手つきで心音を確認している。


「……ギリギリだったわね。極度の脱水と疲労で心肺機能も落ちていたけれど、点滴が入ったからもう大丈夫。数日安静にすれば回復するわ」


「よかった……。ありがとうございます、先生」


俺が胸を撫で下ろしていると、田中さんが慌てて診察室へ駆け込んできた。


「マックッ!!」


田中さんが涙を流してマックに駆け寄る。マックは薄く目を開け、田中さんの手に顔を擦り付けて安心したように鼻を鳴らした。


「よかった……本当によかった……! 探偵さん、先生、本当にありがとうございます……!」


「ふふ。でも、目も耳も悪いおじいちゃん犬なんだから、これからは首輪の金具がサビてないかしっかりチェックしてあげてね。……今日はこのまま、車でゆっくりお家へ連れて帰ってあげて」


瑞希先生の言葉に、俺はニヤリと笑って口を挟んだ。


「ゲンさんに家まで送ってもらうように頼んでおきましたよ」


「ありがとうございます!探偵の費用とこの治療費は 喜んで払わせてもらいますよ!」


その光景を見つめるヒカルの横顔は、いつもの無表情ではなく、静かな光を宿していた。



数日後の、10月20日。 ガチャリとドアが開き、上品なカーディガンを羽織った冴子さんが入ってきた。


「ヒカル、イナガキさん。今月もお疲れ様です」


手渡された給料の入った分厚い封筒を受け取り、俺は安堵の息をついた。


「本当によかった……。これで今月も養育費が払えます!」


「ヨウイクヒ! ハチマンエン!」


「だから、お前はリアルな金額を言うなっての!」


冴子さんがデパ地下の紙袋を机に置いた。


「すっかり寒くなってきたから、今日は『秋鮭ときのこのホイル焼き』を買ってきたわ。お二人とも、温かいものを食べて栄養つけるのよ」


ヒカルは空間の一点を見つめたまま、淡々と言った。


「……秋鮭の赤い色素成分・アスタキサンチンによる強力な抗酸化作用とDHAが、脳神経の疲労を鎮める。極めて合理的なリカバリー食」


「相変わらず理屈っぽい奴だな! 素直に美味そうって言えよ」


俺はホイル焼きのフタを開けながら、ニヤリと笑ってヒカルを見た。


「にしてもお前、この間の捜索の時、一段と優しい顔してあの老犬を撫でてたな」

「……僕はただ、対象のバイタルサインを確認しただけだ」


ヒカルは気まずそうにふいと目を逸らした。その視線の先には、部屋の隅にある『空っぽの犬用ベッド』が静かに置かれている。


ヒカルの箸が止まる。 空っぽの犬用ベッドを見つめたまま、数秒だけ動かなかった。


やがてヒカルは小さく瞬きをすると、何事もなかったかのように、再び静かに鮭を口へと運んだ。


俺は深く詮索することはせず、自分のホイル焼きを一口ほおばった。


「キコエナイ! ミエナイ!」


ステラが鳴き、窓の外では、落ち葉を揺らす秋の風がさくら台の駅前を優しく吹き抜けていった。

「ここまで読んでいただきありがとうございました!

「さくら台駅前ペット探偵事務所」は、何とかCASE6まで掲載できました。


もし『続きが気になる!』『このコンビ、面白い!』と思っていただけましたら、下部の☆☆☆☆☆から【評価】や、作品フォロー&ブックマークをしていただけると、執筆の励みになります!ぜひよろしくお願いします!」

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