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さくら台駅前ペット探偵事務所 「FXで数億稼ぐサヴァンの天才」×「バツイチの40代おじさん」。凸凹バディが挑むのは、迷子のペットと「人間の感情(バグ)」!?  作者: あおにし
CASE1 事務所開業と雷パニックの柴犬

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File 2 犬はベクトル

「いつも応援ありがとうございます!さくら台駅前ペット探偵事務所、第2話です。今回は犬探しのセオリーからヒカルが緻密に分析します。お楽しみください!」

事務所前の路上に出ると、向かいの『さくらベーカリー』からエプロン姿のカスミちゃんが小走りでやってきた。


少し頬を染め、上目遣いでヒカルに小さな紙袋を差し出す。


「ヒカルさん! これ、新作の甘いコーンパンが焼けたので、もしよかったらお仕事の合間に……!」


しかしヒカルは、空間の一点を見つめたままパンをじっと観察した。


「……精製された小麦粉と多量の砂糖。血糖値の急上昇を招き、脳内の情報処理速度を著しく低下させる。摂取する合理的な理由が完全に欠如。……不要」


「えっ……」


「ばっ! お前、女の子の気持ちってものが分からんのか!」


俺はヒカルの頭をはたき、慌ててカスミちゃんから紙袋を受け取った。


「ありがとうなカスミちゃん! 後で仕事の合間にコイツと美味しく頂くからさ!」


「は、はい……! 失礼します!」


逃げるように去っていくカスミちゃん。


「イナガキさん、呼吸が増加。なぜ怒り?」


「……お前のせいだよ! 行くぞ!」



大林家の玄関先。 妻の恵美さんと、10歳の娘・結衣ちゃんが泣きじゃくっていた。俺は結衣ちゃんの姿に、離れて暮らす息子の面影を重ね、しゃがみ込んで頭を撫でた。


「大丈夫。おじちゃんたちが絶対に見つけ出すからな」


ヒカルは無表情でノートパソコンを開いた。


「犬種、柴犬のミックス。年齢3歳。……重要な変数が不足。去勢の有無の確認」


「えっと……去勢はしていませんが……」


「未去勢。テリトリー意識と性衝動で移動ベクトルが跳ね上がる。……何も考えず動いても見つけるのは不可能。天文学的確率。無駄」


「お前なぁ、言い方ってもんが……!」


ヒカルは、庭に残された犬小屋と首輪を観察した。 そして、タイピングの手がピタリと止まる。


「……エラー。首輪の金具に物理的な負荷がかかった痕跡が0。パニックで自力で抜け出したという前提は、物理的に不可能。入力データに矛盾」


ヒカルは無表情のまま、タイピングの手を止めた。


「データが繋がらない。飼い主の証言と、物理的痕跡の不一致。人間特有の『見栄』または『保身』による意図的なバグ。……これでは、正しい初速が計算できない」


その時、俺は結衣ちゃんの「異常な自責の念」に気がついた。


「……奥さん。コロは自分で首輪を抜けたんじゃない」


俺は結衣ちゃんの小さな肩に、そっと手を置いた。


「……結衣ちゃん。雷を怖がるコロが可哀想で、家の中に入れてやろうとして……自分で首輪を外してやったんだな?」


結衣ちゃんはビクッと肩を震わせ、ワァッと泣き出した。


「ごめんなさいっ……コロが震えてて、助けてあげなきゃって思って……私のせいで……!」


「責めないであげてください。この子は、家族を助けようとしただけだ」


俺はヒカルを見た。


「なあヒカル。これで『パニックによる突発的な逃走』じゃなくなったってことでいいか?」


「……正解。入力データを『飼い主に首輪を外された直後の逃走』にアップデート。これなら初速と移動ルートの再計算が可能」


ヒカルのタイピングが復活した。


「犬が逃げるのを追うには、『軌跡(ベクトル)』を推測する必要がある。目撃情報という『点』が1個あれば十分。タスクの分割。イナガキさんは『足』として、半径500m圏内の目撃情報を収集。僕は駅前で地形と気象データを解析」


「……お前、ただ歩きたくないだけだろ。まあいい。頭を使うのはお前、足を使うのは俺ってわけだ」



昼。定食屋『さくら亭』。汗だくで店に入った俺は、一番奥の席でパソコンを開いているヒカルの向かいに座った。


大将のゲンさんが、山盛りの生姜焼き定食をドンと置く。


「ほらよ! うちの看板メニュー、特製豚の生姜焼き定食だ!食ってみろ! 飛ぶぞ!若いの、お前もいつもそんな泥水(プロテイン)ばっか飲んでないで、四の五の言わずに食え!」


「……豚肉の脂身に含まれる飽和脂肪酸と白米の過剰な糖質は血糖値の急上昇を招き、午後の捜索における脳内の情報処理速度を著しく低下させる。……迷惑だ、ゲンさん」


「だーっ! 理屈っぽい奴だな!」


「まあまあゲンさん! こいつの分も俺が食うからさ!」


俺は生姜焼きをかき込みながらヒカルを見た。


「で、どうだ。俺が集めてきた『昨夜21時に三丁目交差点で見た』って目撃情報は使えそうか?」


「完璧な『点』。雷の発生位置と歩幅から、現在地を算出……。北西ルート約3.2km地点の、国道沿いの高架下」


「じゃあ、今から向かうか?」


ヒカルは首を振る。


「……今の時期のように暑い場合、犬は体力を温存するため日中は日陰で休む。今から行っても見落とす確率が高い」


「なるほど。日が落ちてから動くってことか」


「……正解。ターゲットが活動を再開する夜間に、安全に確保する」

「ここまで読んでいただきありがとうございました!

次回、ヒカルの分析の先にある衝撃の真実とは……!?


もし『続きが気になる!』『このコンビ、面白い!』と思っていただけましたら、下部の☆☆☆☆☆から【評価】や、作品フォロー&ブックマークをしていただけると、執筆の励みになります!ぜひよろしくお願いします!」

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