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さくら台駅前ペット探偵事務所 「FXで数億稼ぐサヴァンの天才」×「バツイチの40代おじさん」。凸凹バディが挑むのは、迷子のペットと「人間の感情(バグ)」!?  作者: あおにし
CASE1 事務所開業と雷パニックの柴犬

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File 1 開業!ペット探偵事務所

「いつも応援ありがとうございます!さくら台駅前ペット探偵事務所、第1話です。凸凹バディがペット探偵事務所を開業し、事件が飛び込んできます。お楽しみください!」

手元のスマホ画面には、消費者金融からの冷たい督促メール。 そして、別れた妻の口座への「養育費」の振込履歴。


総負債額、正確に600万円。残高、20万1450円――完全に、詰んでいた。


深夜4時。無機質なLEDが照らす、24時間営業のスポーツジム。 ランニングマシンの規則的なモーター音だけが響くフロアで、俺は、ベンチプレスに力なく腰掛けたまま天を仰いでいた。


「……どうすんだよ、これ」


誰にともなくこぼし、慌てて画面を伏せた、その時。


「イナガキさん。口座残高、20万1450円」


不意に、無機質な声が降ってきた。


顔を上げると、少し離れたマットで、若い男がストレッチをしていた。 巨大なノイズキャンセリングヘッドホン。彼の足元には、ラベルの向きからミリ単位の隙間まで狂いなく一直線に並べられた「3本のプロテインウォーター」。


「え? ヒカル……」


「さっき画面をスクロールした時の秒速、約15cm。網膜が捉えたフレームの右下、青い数字の残高表示。……正確に、20万1450円」


「……!」


ヒカルは、一直線に並んだプロテインを一口飲み、淡々と続けた。


「対して、消費者金融の請求と未払いの養育費を合算した総負債額、600万円。……資金は完全にショート(破綻)している」


「なんで俺の借金の額まで……!」


「スクロールの最終フレーム、画面下部から約1.5cmの位置に、8ポイントの文字サイズで表示」


ヒカルは自分のスポーツバッグから、薄型のノートパソコンを取り出した。 そして、ビー玉のように透き通った瞳で、初めて俺を真っ直ぐに見据えた。


「イナガキさんが手元の20万円を自力で増やそうとした場合の成功確率は、0.003%未満。……14日。その20万円は、600万円になる。だから、僕に投資して」


「……は?」


「過去20年分のチャート波形との一致。計算は完了済み。……ただの、確実な未来」


深夜4時の静寂。 いくら顔見知りとはいえ、常識外れの提案だ。しかし、この一切の打算がない透明な瞳を見た時、俺の直感が告げていた。


『こいつのその頭脳に、俺の人生の残り全部、賭けてみるか』と――。



5月。若葉が緑色を深め、きらきらと日光が輝く。


「さくら台駅前ペット探偵事務所」 それが、ドアに掲げられたプレートの名前だ。


あの日、俺が手渡した最後の20万円を、こいつは本当に14日間で600万円にして俺の口座に振り込んできた。借金を完済できた俺が「何でもする」と頭を下げた時、こいつは言ったのだ。


『僕と一緒に働いて。事業内容は、ペット探偵』


俺は暇を持て余し、ブラインドの埃を払った。


「ヒカル。今日で開業して2ヶ月になるけど、見事に依頼ゼロだな。先月……4月は結局何もないまま、お前のお姉さんから給料だけもらう形になっちまったし」


部屋の奥では、ヒカルが何台ものモニターに為替チャートを映し出し、無表情でプロテインを飲んでいる。


「もっと忙しくなるかと思ったけど、すっかり予想を外したな。お前、相場の天才のくせに、日常生活の金銭管理は全部お姉さん任せだろ。このままだと今月も、俺の給料から事務所の経費まで、全部お姉さんに持ってきてもらうことになるぞ」


ヒカルはデスク上の複数モニターから目を外して、俺を見た。


「問題ない。今朝の僕のポートフォリオの総資産に対して、イナガキさんの月給20万と家賃15万の占める割合は0.05%。完全に誤差の範囲 」


「ヨウイクヒ! ハチマンエン!ハチマンエン!」


部屋の隅で、オウムの『ステラ』が甲高い声を上げた。


「うるせえな! リアルな数字を連呼すんな!」


バンッ! その時、勢いよくドアが開き、ヒョウ柄ブラウスの大家のタエ子さんが飛び込んできた。


「イナガキ所長! ちょっと聞いてちょうだいよ!」


「大家さん。俺は所長じゃなくて……」


「ショチョウ! イナガキショチョウ!」


鳥かごの中のステラが、タエ子さんの言葉を真似て鳴く。


「うるせえ! 少し黙ってろ」


俺はステラを睨みつけた。


「三丁目の町内会長の大林さんのところのワンちゃんが、昨日の夜の雷に驚いて、首輪を抜け出して逃げちゃったみたいなのよ!」


「へえ、雷パニックか」


「クビワ! ヌケダシタ! ハズシタ! ハズシタ!」


「おいステラ、少し黙れ。……まあいい、大家さん、その依頼だけどな――」


「だから私、一日2万円の格安で探してくれる名探偵がいるから任せなさいって、太鼓判を押しておいたのよ!」


「一日2万!? 冗談キツイぜ。ペット探偵の相場は一日7〜10万は下らないんだぞ!うちの基本料金だって、一日8万円だ……」


ヒカルがキーボードを叩きながら口を挟む。


「犬の移動はベクトルを推測すれば良いから、ルート予測の精度が高い。……日当2万円も、資産運用益の計算上エラーに不該当。当該案件は受理相当」


「ほら! 助手のヒカルちゃんもこう言ってるし、イナガキ所長、絶対に見つけてあげてね!」


タエ子さんは地図を机に叩きつけ、嵐のように去っていった。


「おい、なんで俺が所長じゃないって強く訂正しないんだよ! だいたい、なんでペット探偵なんて割に合わないこと……」


「動物の行動原理は純粋でノイズがない。完璧な予測アルゴリズムを構築可能。……でも、現実で証明するには、パニックになった飼い主や人間社会という『処理不能なノイズ』を通す必要あり」


ヒカルはヘッドホンを首にかけた。


「だから、僕が理解できない人間の感情を代わりに処理する『ノイズ処理フィルター』として、君を雇った。……移動開始。イナガキさん、機材の運搬」


「おいヒカル! 一日2万で請け負ってたら、俺の給料もいつまで経っても上がらねえだろ!」


「……イナガキさん、声量が過剰。無意味な自立心(プライド)の主張は無駄なカロリー消費だ。移動開始」


「はいはい、雇い主様の言う通りに! ……って、なんで俺ばっかりこんな重い荷物を!」


俺は重い機材バッグを背負わされ、ため息をついた。


「ここまで読んでいただきありがとうございました!

次回、ヒカルはどのように分析は!?イナガキの対応は!?


もし『続きが気になる!』『このコンビ、面白い!』と思っていただけましたら、下部の☆☆☆☆☆から【評価】や、作品フォロー&ブックマークをしていただけると、執筆の励みになります!ぜひよろしくお願いします!」

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