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さくら台駅前ペット探偵事務所 「FXで数億稼ぐサヴァンの天才」×「バツイチの40代おじさん」。凸凹バディが挑むのは、迷子のペットと「人間の感情(バグ)」!?  作者: あおにし
CASE3 大手のプライドと下町探偵の意地

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10/39

File 10 大空と地べた

「いつも応援ありがとうございます!さくら台駅前ペット探偵事務所、第10話です。

今回はヒカルの推理により、調査が進みます。お楽しみください!」

出動のためビルを出た俺たちを見つけ、向かいの『さくらベーカリー』から、エプロン姿のカスミちゃんが小走りで駆け寄ってきた。


「あ、ヒカルさん、イナガキさん! これ、今月の新作の『完熟マンゴーのデニッシュ』です! 暑いので、ビタミン摂ってお仕事頑張ってくださいね!」


カスミちゃんは少し頬を染め、上目遣いでヒカルに小さな紙袋を差し出した。


しかしヒカルは、空間の一点を見つめたままパンをじっと観察した。


「……精製された小麦粉と多量の脂質、およびマンゴーの果糖は――」


「はいストップ! わかってるから! ありがとなカスミちゃん、後で食うから!」


俺は慌ててヒカルの頭をはたき、カスミちゃんから紙袋を受け取った。


「あ、あの! 気をつけてくださいね。さっき、黒いワゴン車がたくさん連なって、高級住宅街の方へ走っていきましたから!」


「大手のお出ましってわけか。急ぐぞ、ヒカル!」



現場は、さくら台の外れにある高級住宅街だった。


立派な豪邸の前に到着すると、ちょうどヒアリングを終えて門から出てきた桐生たち大手チームとすれ違った。


「……一応、お前たちの話はしてある」


桐生は俺たちを一瞥すると、黒いワゴン車へとスマートに去っていった。 俺たちは、庭で泣き崩れている依頼人・宝生静の元へ向かった。


「ああ……イナガキさんですね。さっき桐生さんから伺いました。引っ越しの作業中に、開いたドアからマリーが飛び出してしまって……外の世界なんて一度も歩いたことがないのに!」


俺は大手が事前に説明を通しておいてくれたことに内心舌を巻きつつ、静さんを落ち着かせるように相槌を打った。 その横でヒカルがタブレットを開く。


「引っ越しという環境の激変は、猫にとって非常に大きなストレス。さらに、外の世界を知らない完全室内飼いの猫は、未知の空間への恐怖からパニックを起こす。……恐怖が限界を超えているからこそ、猫は遠くへは行けない」


「『猫は領域(テリトリー)』、だろ?」


俺がお株を奪うようにニヤリと笑うと、ヒカルは小さく


「……正解」


と呟いた。


「よし。じゃあ、ここは俺の経験則で足を使って稼いでくる。あのブロック塀の隙間と、あの茂みの導線が怪しい。ネコ探しなら、まずは『赤外線カメラ(トレイルカメラ)』の設置だ」


ヒカルは頷いた。


「……正解。機材バッグからトレイルカメラを5台。予測される獣道と暗がりに設置して」


午前中。


大手チームも周辺でデータ収集を行っている中、イナガキはアスファルトに這いつくばり、猫が通りそうな『領域』を予測していく。そして、カメラを設置する場所の住民にはその都度事情を説明してしっかりと許可を取りながら、トレイルカメラを地道に仕掛けて回った。



昼時。


俺とヒカルは、定食屋『さくら亭』の奥のテーブルで作戦会議をしていた。


大将のゲンさんが「食え!」と置いていった生姜焼き定食を、俺は一気にかき込む。


「午前中のデータ、どうだ?」


「……午前中に設置したトレイルカメラの映像データを解析。すべて反応ゼロ」


「ゼロ? じゃあ、そこにはいないってことか?」


「……不正解。極度のパニック状態にある猫は、一度隠れた場所から一歩も動かない。……『仕掛けたすべてのカメラに移動した痕跡が映らなかった』という事実こそが、遠くへ逃げていないことの証明」


ヒカルは画面のマップを拡大した。


「地形と気象データ、そしてカメラの配置から逆算し、絞り込む。マリーは脱走地点から半径五十メートルの暗くて狭い『領域』……カメラの死角となっている特定のブロックに潜伏している確率が、極めて高い」


「なるほど。俺が足で潰してカメラを置いた時に感じた、一番怪しい死角と完全に一致する。午後はそこを徹底的に洗うぞ」



午後。


俺たちが特定したブロックの上空には、大手の最新鋭の熱源感知ドローンが何機も展開し、不気味な羽音を響かせていた。


「おいおい、あんなの飛ばされたら敵わねえぞ……!」


ヒカルが手元のタブレットを俺に向けた。


「……不正解。大手が使っている市販の汎用ドローンの帯域から、漏れている映像信号を簡易受信中……これを見て」


俺が画面を覗き込むと、思わず息を呑んだ。画面いっぱいに広がる、上空からの熱源感知(サーモグラフィ)映像。


だが、太陽に焼かれたアスファルトの道は「真っ白(最高温度)」に白飛びし、各住宅の裏にある無数の室外機が「真っ赤なノイズ」となって激しく点滅している。


強烈な『環境熱のノイズ』が画面全体を埋め尽くし、小さな猫の体温など全く見えない絶望的なビジュアルだった。


「7月の猛暑で熱されたアスファルトと室外機の熱。大手の誇るサーモグラフィは、完全に機能不全。……猫を探すためには地べたの捜索。特定したブロックはあそこ」


ヒカルが指差し、俺が睨みつけたのは、要塞のように高い塀に囲まれた、ひときわ巨大な豪邸だった。


「マジかよ……超厳重なセキュリティの私有地じゃねえか。勝手に入れるわけないぞ」


「ここまで読んでいただきありがとうございました!

次回、豪邸に入るにはどうすれば良いか……!?


もし『続きが気になる!』『このコンビ、面白い!』と思っていただけましたら、下部の☆☆☆☆☆から【評価】や、作品フォロー&ブックマークをしていただけると、執筆の励みになります!ぜひよろしくお願いします!」

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