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さくら台駅前ペット探偵事務所 「FXで数億稼ぐサヴァンの天才」×「バツイチの40代おじさん」。凸凹バディが挑むのは、迷子のペットと「人間の感情(バグ)」!?  作者: あおにし
CASE3 大手のプライドと下町探偵の意地

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File 11 ママチャリFBI

「いつも応援ありがとうございます!さくら台駅前ペット探偵事務所、第11話です。豪邸にどのように入れてもらうか?お楽しみください!」

俺はジャージの袖をまくり上げ、豪邸の高い塀に沿ってアスファルトに這いつくばった。わずかな隙間や茂みの奥をライトで照らしていく。


少し離れた場所では、桐生がドローンの操縦器を手に、俺の姿を呆れたように見つめている。


そこへ、豪邸から上品な奥様が出てきた。


「ちょっと、あなた! うちの塀の周りで何をウロウロ這いつくばってるの!」


「い、いや奥様! 実は迷子の猫を探しておりまして、少しお庭の隙間を見せていただけないかと……」


「お断りします! 完全に不審者じゃないの! 警察を呼びますよ!」


「ちょ、待ってください……!」


「――言わんこっちゃない。だから素人はダメだと言うんだ」


ずっと一部始終を見ていた桐生が、数人の部下を連れて歩み寄ってきた。冷ややかな目で俺を見下ろす。


「無断で私有地付近を這い回り、不審者として騒ぎを起こす。お前たちのやり方では、こうやって現場を無駄に混乱させるだけだ。……ご安心ください藤堂様、我々は正式に依頼を受けた――」


桐生がスマートに名刺を取り出し、藤堂さんを宥めようとした、その時だった。


キキィィィッ!!


背後から、けたたましいブレーキ音とともに三台のママチャリが急停止した。


振り返ると、そこにはサンバイザーを被ったタエ子さん、ヨシエさん、ミツコさんの三人が仁王立ちしていた。


「……ッ!? お前たちは……『さくら台FBI』……!」


「な、なんであんたらがここに……!?」


俺と桐生が同時に驚愕の声を上げると、タエ子さんが胸を張った。


「昼間、さくら亭のゲンさんからあんたたちの行き先を聞いてね! 野次馬に来てみたら、うちの所長がイジメられてるじゃないの!」


ヨシエさんは不審がっている藤堂さんを見ると、呆気に取られている桐生をドンッと突き飛ばして満面の笑みで歩み寄った。


「藤堂の奥様、先週はうちの美容室をご利用いただきありがとうございました〜! 今日のヘアセットも素敵ですねぇ!」


「あら、坂東さん……? どうしてここに?」


「実はね、この探偵さんたち、うちの商店街の自慢の青年たちなんです! 私の顔に免じて、少しだけお庭を見せてやってくれませんかねぇ?」


さっきまで頑なだった藤堂さんの態度が、嘘のようにコロッと変わった。


「まあ、坂東さんの知り合いなの? そういうことなら、どうぞ見てちょうだい」


「ありがとうございます」


「なっ……!? バカな……!」


エリートの桐生が驚愕して振り返ると、タエ子とミツコが桐生に話す。


「あっちの地主さんは私が物件の世話をしたのよ!」


「三軒隣の旦那は、うちの店にボトルキープしてるわ!」


「あり得ない……! このような閉鎖的な高級住宅街で、我々プロですら住人の口を割らせるのには何日もかかるというのに……! それを、わずか数秒で!? なんだこのおばさんたちは……!」


戦慄する桐生の肩を、タエ子さんがバンバンと遠慮なく叩いた。


「ほら! そこのシュッとしたイケメンの兄ちゃんも、ボサッと突っ立ってないで猫探すの手伝いなさいよ!」


「ひっ……!? わ、私に気安く触るな!」


圧倒的なオバチャンパワーの前に、大手のチーフとしての威厳もペースも完全に乱され、ドン引きしてタジタジになる桐生。


ドローンでは決して入り込めない私有地に関するローカルな情報を、いとも簡単に引き出してきたのだ。彼女たちは、圧倒的なコミュ力と下町のおばちゃんネットワーク(顧客リスト)で、高級住宅街の分厚い塀を突破していく……!


ヒカルは空間の一点を見つめたまま、微かに目を見開いた。


「……エラー。社会的階層の壁を、事前の関係構築プロセスなしに数秒で突破……? 彼女たちの情報収集の速度と精度が、僕の予測アルゴリズムと完全に矛盾」


ヒカルは少し戸惑ったように瞬きをすると、信じられないものを見るように『さくら台FBI』を見つめた。


「今まで、彼女たちのおしゃべりは不快なノイズだと思っていた……訂正。彼女たちの井戸端会議は、この地域における最も精度の高い『ローカルデータベース』」


ヒカルのデータと俺の勘が指し示した場所。

藤堂さんに許可をもらい、俺が縁の下の暗がりをヘッドライトで照らす。


暗闇の隅で、ホコリまみれになった真っ白なペルシャ猫が、ガタガタと震えながら丸まっていた。


「……いたぞ。マリーだ!」


ヒカルがゆっくりと、音を立てずにマリーへと歩み寄っていった。


怯えきっているマリーは、ビクッと身体を震わせる。ヒカルは一定の距離を保ってしゃがみ込むと、マリーをじっと観察した。


「……呼吸数、毎分80。瞳孔の散大。尻尾の先端の硬直、およびヒゲの微細な震え。……極度のパニック状態」


ヒカルは無機質な声でデータを読み上げると、完全に視線を外し、小さく息を吐いて全身の余計な力を抜いた。


その光景を背後から見ていた桐生は、初めは素人の無謀な行動だと呆れていた。


『……素人が下手に手を出せば、猫はさらに奥へ逃げ込むだけだ。……ん?』


だが、ヒカルが視線を外し、呼吸を整えたその瞬間。 極限の恐怖に震えていたマリーの耳が微かに動き、荒かった呼吸が少しずつ落ち着いていったのだ。


桐生のプロとしての観察眼が、ヒカルの異常な挙動を瞬時に捉えた。


『完全に視線を外している……それに、あの極端にゆっくりとした重心移動。いや、それだけじゃない。猫の荒い呼吸のリズムに合わせて、あいつ自身の呼吸と筋肉の弛緩を、完全に同期させているのか……!?』


ヒカルはマリーの呼吸のペースに完全に同調し、耳の角度や筋肉の緊張が解ける『最適なミリ単位の軌道』を計算し尽くして、そっと両手を差し伸べた。


その手がマリーに触れた瞬間――。マリーの身体から、スッと余計な力が抜けたのがわかった。


「……呼吸数、低下。筋肉の硬直も解除。耳の向き、重心のブレ……すべて正常値に移行。もう、危険な変数は何もない」


マリーは


「にゃあ」


とか細く鳴くと、自らヒカルの腕の中へと擦り寄っていった。ヒカルは無表情のまま、泥だらけのマリーをしっかりと抱きかかえる。


手元のタブレットに映る、ノイズだらけで何も見えないドローンの熱源映像。そして目の前の、一切のブレなく自らの身体を制御し、極限のパニック状態の猫の心拍に完全に同調してみせたヒカルの背中。


桐生は驚愕で目を見開いた。


「バカな! 完璧な動物行動学に基づく『カーミングシグナル』だと……!?」


桐生の視線はヒカルを捉えている。


「我々プロも現場で使う基本技術だ。だが……人間なら必ず生じるはずの『ブレ』が一切ない……!極度の恐怖状態の動物に、ミリ単位で完璧に同調し続けている……!」


そして、呆然とつぶやいた。


「あいつは自分自身を、機械のように制御しているのか……!」


大手のマニュアルや最新機材では絶対に再現できない、異常なまでの『個人の技術』を見せつけられた瞬間だった。


「あんたらの最新のデジタル機材じゃ、動物の心(シグナル)までは読めねえ。……ましてや、それに完璧に応えることなんてな」


俺は、泥だらけの顔で立ち上がり、ニヤリと笑った。

「ここまで読んでいただきありがとうございました!

次回、マリー救出後、勝利の余韻に浸れるか……!?


もし『続きが気になる!』『このコンビ、面白い!』と思っていただけましたら、下部の☆☆☆☆☆から【評価】や、作品フォロー&ブックマークをしていただけると、執筆の励みになります!ぜひよろしくお願いします!」

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