モノローグ アーロン
俺の名はアーロン・アンソニー。
共和国に属するタルボット自治星の代表だ。
もっとも自治とは名ばかりで、ランボー星傘下の奴隷に過ぎない。支配してるのは上級評議員のマルクスの野郎だ。
おっと、面だって悪口を言うと、再教育施設送りにされるな。
前任者は刃向かった末に消された……表向きは行方不明。支配された惑星に自由などなかった。
タルボット星は中立を貫く独立国だったが、共和国と帝国との戦争に巻き込まれ、そして共和国に武力併合されたのだ。
自国民は不当な扱いを受け続け、何度も反乱を起こしたが、その度鎮圧された。
共和国が掲げる自由・平等・友愛などありはしない。見る度、聞く度に腹が立つ。
あるのは一方的な搾取だけ。この窮状を訴える場所も機会もなく、誰も助けてはくれない。都合の悪いことは全部隠しているからな。
なので、ボロ服を着た俺達の惨めな姿を知る者は、宇宙には一人もいないだろう。
もちろん大災害で被害を受けても、共和国は何の支援もすることもなく、多くの国民が命を落とした。
自力で復興を進めている最中、マルクスは税を納めるよう要求してきた。
「支払えぬのなら、兵士を差し出せ。それと、備蓄している食料をすべて出せ」
これは共和国から離脱した、辺境惑星同盟との決戦に向けた準備だろう。
今の我らに人も食料も出せるわけがなく、前任者が抗議したのだが、帰らぬ人となってしまった。
そして、小さな漁村の網元に過ぎなかった俺が、代表に選ばれてしまった。
マルクスの手下の行政官は脅しをかけてくる。
「払えぬなら、村ごと潰す!」
「……分かりました。皆と相談する時間をください」
ここで逆らえば、見せしめに何人かが殺されるだろう。
俺は従う振りをして皆を集め、ある計略を話した。
「全てを渡してしまえば、俺達には何も残らない。そうなれば、どのみち終わりだ。ならば……をやって見ないか?」
「そうだな、どうせ死ぬならやってやる!」
「どこまでも、アーロン代表についていくぜ!」
共和国には恨みしかないので、誰も裏切ったりはせず、俺にも人望があった。
「よし決まりだ。奴らに一泡吹かせてやろう」
細やかな反乱である。失うものなどなにもない。
俺は行政官に言った。
「食料をお渡ししますので、多数の輸送船を手配してください」
「いいだろう」
やがて、タルボット星に大型輸送船が数隻やってきた。護衛艦はおらず、警備兵が少し乗っているだけだった。
何度も反乱を鎮圧してきたので、俺達を完全に甘く見ているのだろう。
こっちにとっては好都合。
「搬入作業も俺達でしますので、酒でも飲まれてはいかがですか? 行政官殿」
「そうかそうか、なら任せてやろう。せいぜい俺達の役に立つことだな」
秘蔵の酒を渡すと行政官は油断し、警備兵達にもこっそり酒を渡した。
酒に薬などは仕込んでいないが、アルコール度数は高く、何杯も飲めば酔い潰れる。
その間、俺達は真面目に毎日作業をしていた。不審な動きは一切みせない。
食料を運びつつそれに紛れて、日用品と子供らを輸送船の中に入れていく。
――そして数日後。
「明日には終わります」
「そうか、きっちり作業を終わらせろ。ヒック!」
そう言って行政官は酒を飲んでいた。今にみていろ。
俺達が大人しかったので、警備兵達もすっかり気が緩み、ろくに仕事をしていなかった。
そこに女達が近づいていく。
「ねえねえお兄さん達、遊ばなーい。明日には行くんでしょ? お金を恵んでよ」
「へっへへへ、いいだろう。サービスしろよ」
「極楽に行かせてあげるわ。こっちに来てん♡」
鼻の下を伸ばし酔っ払った警備兵らが、女の後をのこのこついていくと、
「ぐわっ!」「ぎゃあ!」「ぐえええ……」
暗がりにきたところで、鈍器を持った仲間達が襲い、女達もワイヤーで警備兵の首を絞め落とした。
「極楽じゃなくて、地獄送りよ!」
男も女も強いのは、こっそり鍛えて軍事訓練をしてるからだ。国民のほとんどがレジスタンスと言っていい。
長年弾圧され続けた恨みは、世代を越えて受け継がれ、ついに牙をむく時がやってきた。
隠しておいた武器を手に取り、俺達は行政官達を襲撃した。
「な、何事だ⁈」
「反乱です!」
不意を突いた奇襲で、酔っ払ってる兵士達は何も出来ず、仲間達が着実に倒していく。
俺は仲間と臨時庁舎に乗り込んで、共和国職員を皆殺しにしてから、行政官を撃ち殺した。
あー、すっきりした。
戦闘が終結したところで、俺は全員を集めて言った。
「みんな良くやってくれた。これで死んだ仲間達も、少しは浮かばれるだろう。しかし、『大脱出』はこれからだ。命がけの旅になるだろう。失敗すれば全員が死ぬ。だから、残りたい者は残ってくれ」
「残るも地獄、進むも地獄なら、別天地へ行ける可能性に賭けよう!」
「せめて、子供達だけでも生かしたい。この星に未来は無い!」
「ならば行こう、みんな!」
「おう! 一蓮托生だ!」
こうして俺達はタルボット星から去ることにした。総勢約八千人。
老人達は「足手まといになりたくない」と言い、大脱出に参加しなかった。
いずれ共和国軍がやってきたとしても、もう何も残ってはいない。奪える物もない。
物資は全て輸送船に積み込んだのだから。
反乱がバレるのは時間の問題で、直ぐに討伐艦隊がやってくるだろう。
俺達は発進準備を急ぐ。そして次の日に出発した。
「さようならー!」
「さらば、タルボット星!」
「ううっ…………」
皆が手を振り、船の窓から遠ざかっていく星を見ながら、思い思いに別れを告げる。
もう二度と故郷を目にすることはないだろう。
苦しい生活ではあったが、生まれ育った場所に思い出はあり、涙を流してる者も大勢いた。
完全に惑星が見えなくなったところで、俺は気持ちを切り替える。皆を率いる代表である以上、いつまでも故郷を引きずってはいられない。
「それでは予定通り、俺達は辺境惑星同盟へと向かう。受け入れてもらえるかは分からないが、噂の三姉妹を頼ってみよう。共和国を敵としている天馬団は、弱い我らを助けてくれるはずだ」
「ええ、そうしましょう」
通信士がローカルネットの受付窓口に接続し、救援要請を送った。あとはメッセージが届くことを祈るしかない。
俺達避難民の漂流は、まだ始まったばかりだった。
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