全体会議と裏の会議
俺達が基地に帰還すると、宇宙の情勢が激変したようだった。
天女団の全体会議で、琴音が状況報告をしてくれた。大型モニターに宇宙図が表示される。
「まずティラノス星……いえ、ゴリオシ勢ですね。先の敗戦を受けて防衛を固めたようです。まだ戦艦はあり十分な戦力は残ってるはずですが、再度の星門奪還に動く気配はありません。恐らく有能な指揮官がいないのと、自分の権力維持を優先しているのだと思います。ホークブルクの私設艦隊が物流を押さえてますので、いずれジリ貧になるでしょう」
「独立連合共和国、四大惑星の一角が崩れたわね」
「ええその通りです、獅堂大尉。軍閥海賊は討伐されて、力を失い鳴りを潜めました。その結果、独立勢力が共和国に攻勢をかけています。我らと同盟を結んでいる惑星機構は、支配拡大を望まず、現状維持を目的としています」
「はい、ホークブルク家は他星を征服する気は全くありません。面倒を見るのも大変なので、今ある経済圏を守れれば十分です。あるだけ奪おうとする、クソ共和国とは違います」
「ははははは!」
ホセリアの発言に笑いが起きる。
その働きぶりには皆が感心し、今ではすっかり仲間達と打ち解けていた。
ただその影響なのか、お嬢様だったホセリアが、かなり汚い言葉を使うようになってしまった。
ストレスを発散してるのかもしれないが、少し問題である。
琴音は報告を続けた。
「次にレグナス・レギオンが率いるレガリア軍ですが、元帝国軍だけあって強く、支配惑星を着実に増やしています。ただし直接支配はせず、軍資金や物資を国からせしめてるようです。その一方で、海賊討伐や復興支援にも力を入れており、住民からの支持が厚い。飴と鞭を使い分ける、実に狡猾なやり方です。恐らく優秀な参謀がいるのでしょう」
「聞く限り厄介な相手だな。こちらに攻めてくる様子はないのか?」
「はい、東雲大尉。今のところは、弱った共和国だけを敵として見ているようです。二正面作戦は避け、他勢力との争いは避けてるようです。もっとも共和国が滅んだ後に、牙をむけてくる可能性は十分にあります」
「なるほど」
「レグナスとやらは、銀河の覇者を目指しているのだろう。目的がはっきりしている分、共和国より手強い敵になるかもしれん。だが、今は様子見でいい。こちらから手を出す必要はない」
「了解しました、司令」
俺の発言に皆が肯く。当面の敵はゴリオシなので、相手にしてる暇はない。
それに今は惑星開拓で忙しい。
「そして辺境星防衛軍ですが、『辺境惑星同盟』と名を改め、共和国に独立宣言と宣戦布告を行いました。目的は被災惑星の救済と解放です。私達が勝利したことで、各地の独立勢力が活発に動いています。まあ、こちらとはかなり離れた宙域にありますので、当面は脅威にならないかと」
「そうか」
「一つ気になる点は、同盟軍の指令官は超能力者で、三姉妹の長女だそうです。宇宙最強との呼び声も高く、共和国軍は戦わずに逃げるだけとか。アラシ司令の元部下と聞いてますが、ご連絡しなくてもよろしいのでしょうか?」
琴音の問いに、皆が一斉に俺を見た。
いつもは好意的なのに、今は突き刺さるような視線を感じる。
まるで無言の非難を、浴びせられているようだった。少しふて腐れてるようにも見える。
なんでや?
「ごほん。共和国に俺の存在を知られるわけにはいかんから、テレパシーで居場所は伝えていない。写真はあったので、俺の元部下なのは間違いないが、三人の記憶は曖昧だ。どうやら記憶が欠落してるらしい。情勢が落ち着いたら、会いに行こうと思っている」
「そうですか。それでは無視しましょう、スルーしましょう、知らんぷりしましょう!」
「昔の女なんてほっときゃいいんだよ! 大将」
「今は私達の総指令官であります!」
「そ、そうか……」
会議場は異様な雰囲気になった。サラ達に対し、なぜか否定的である。
皇帝の妹で参謀長でもあるクラリスのことは、今はとても話せる空気ではない。
しばらくは胸にしまっておこう。更にややこしくなりそうだ。
「それでは、次の情報です。皆さんの製造に関わった兵器企業二社は、悪事が暴露されて信用を失い倒産寸前です。ただ、身売りや分社化で必死に生き残ろうとしているようです。噂では軍閥海賊と手を組んだとも言われてます。その動きには要注意ですね」
「ふん。落ちぶれた者同士が、惨めに手を組んだというわけか」
「もし出くわしたら、あたいらを作ってくれたお礼をしないとな。電磁ナイフを突き刺してやるぜ!」
「……電磁槍で串刺し」
「牢屋に閉じ込めて、餓死されるのもいいでしょう」
天音の過激な案に誰もが肯く。
道具として作られ、戦わされた恨みは、決して消えてはいなかった。
兵器会社の社長や役員共は死んだ戦友の仇だし、何より飢えに苦しめられたので、復讐せねば収まらない
俺も止める気はなかった。外道にかける情けはない。
「さて、最後の情報です。共和国の上級評議員である三人の身元や経歴データは揃っていますが、四人目の銀玉幻斎だけは情報が全くありません。いつ、どのようにして権力の座へ上り詰めたのか一切不明。ホークブルク家の情報局をもってしても何一つ掴めておらず、極めて不気味な存在です」
「正体不明の権力者か……司令のようなエスパーの可能性もあるな」
「そうね、これは要注意人物だわ」
「確かに不気味だな、警戒はしておこう。敵対してこない限りは放置でいい。もし出遭って危険を感じたら、迷わず逃げろ。引き続き調査を頼む、琴音」
「了解しました」
報告が終わると、全員が琴音に拍手した。今後の指針を決めるに当たって、情報は重要なので感謝を込めている。
そして志乃が俺に言ってくる。
「司令、お休みになってはいかがでしょうか? 残る議題は開拓状況の報告だけなので、我らだけで十分対応できます」
「そうか、そうさせてもらうか。明日からは現場の視察に回ることにする。みんなも無理をせず、働いてくれ」
「総員、アラシ司令に敬礼!」
俺は返礼し自室へと向かった。
◇◇◇
アラシが去った後、会議場の空気は一変する。やや殺気だってると言っていい。
そして天女団の裏会議が始まった。志乃は言う。
「ホークブルク家が提供してくれた作業ロボットのお陰で、日々の仕事はかなり楽になった。手の空いた人員で、西地区の開発がようやく進められる。ホセリアには感謝だ」
「いえいえ」
「この星に平和を作る『楽園計画』は順調ではあるが、アラシ司令を王として戴く必要がある。そして、その障害になり得る者達が現れた。しかも、かなりの強敵だ」
「三姉妹ね。アラシに会う気はなくとも、向こうは必ず捜しにやってくるわ。女の執念は言うまでもなく、絶対にアラシを奪いにくるわよ」
「そうはさせないのであります!」
「そうだ、そうだ! 私達の司令を渡してたまるものか‼」
「……ふっふっふ、アラシは私のもの。誰にもあげない」
会議はいつもよりヒートアップする。
これは男を巡る女の戦いなのだ。絶対に負けるわけにはいかない。
サラも静香も女の直感で、互いの存在を感じていた。
「来たら、アタイが全員ぶっ飛ばしてやるぜ!」
「紅美では、時間稼ぎにもならんぞ。やはり頼りになるのは、琴音とエルフ達だな」
「はい、ですが相手は最強エスパー。私達でも足止めが精一杯かと、その間に……」
「何とか司令を騙して、宇宙へ連れ去るしかあるまい。その手はずは……」
「おまかせ下さい。高速ロケット船『ぶっ飛び君』でアラシさんを、ホークブルクの私有惑星へ一気に送ります。そこならまず見つかりません。ほとぼりが冷めたら、迎えに行きましょう」
「よろしく頼むわ、ホセリア。みんな開拓と戦争で忙しいけど、その時に備えて各部隊は訓練しておきましょう。いつでも三姉妹に対処できるように」
「了解!」
その後も、アラシを慕う親衛隊は対応を協議した。
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