難民船団
『こちらは天馬団。AIが自動応答しています。救援要請は受諾しました。辺境惑星同盟はタルボットの皆さんを受け入れます。ただ他にも共和国からの難民が多く、対応が追いつかない状況です。追ってこちらから連絡しますので、それまでお待ちください。なお、共和国の追撃艦隊には十分ご注意ください』
自動返信が来てアーロン達はホッとした。
「断られなくて良かった。けど安心はできませんね? 代表」
「ああ。やはり俺達の星以外でも、共和国は弾圧と搾取をしていたようだな。マルクスのクソ野郎め! みんな考えることは同じだな。追い詰められたら、大脱出するしかない」
「これは順番待ちになりますな。追っ手に警戒しつつ、同盟宙域に入りましょう」
「そうしよう。一応手は打ったし、時間は稼げるだろう」
その頃、ランボー星では輸送船が戻ってこないので、軍の追跡艦隊が派遣されるところだった。
マルクスは司令官に命令した。
「タルボットの行政官との連絡が途絶えた。これは反乱が起きた可能性が高い。いや、ほぼ確定だろう。そして輸送船で惑星から逃げたはず。貴様の任務は奴らを連れ戻すことだ」
「了解しました。反乱を起こした者どもを引きずってきます。痛い目を見せてやる!」
「なるべく殺すなよ。金がもったいないから」
マルクスは、とにかくケチだった。人を金を生む道具としか見ていない。
労働者奴隷が減ると、自分の懐に入ってくる金が減るのを嫌がっている。
自分は働かず、他人から搾取した金で贅沢三昧をする毎日。
何人もの愛人がいるが、飽きればすぐに捨てて、生まれた子供の面倒を見ることもない。
その結果、子供が餓死しても気にすることはなかった。正に人間のクズ。
その悪行が表に出ることはない。嗅ぎ回る者がいれば、消されるのだから……。
そして悪知恵と勘が働くので、上級評議員まで上り詰めたのだ。
艦隊が発進した後、その勘が働きピーンときた。
「……うーん、このままだと捕まえ損ねるか。金がもったいないが仕方ない」
少し考え込んだ後、ある所へ連絡をした……。
追跡艦隊は、移動している輸送船団へと向かっていた。
時空転移を繰り返し、時間をかけずに距離を縮めていく。
「ふっ、愚か者め。自動艦船識別装置が電波を出してるかぎり、船の位置は丸わかりだ。絶対に逃げられんぞ!」
司令官は勝ち誇り、もうすぐ輸送船団が見えるはずだった。
しかし、艦のオペレーターが異常を知らせてくる。
「もうとっくに視界に入ってるはずですが、輸送船が見当たりません」
「馬鹿な! レーダーをよく確認しろ⁈」
「はい……こ、これは、前方にあるのは無人探査機だけです。そこから電波が発信されています。輸送船ではありません!」
「なにぃ!」
司令官は愕然とする。この宙域に輸送船は一隻もいなかったのだ。
まんまと囮に引っかかったのである。
その頃、タルボット難民船団は、辺境惑星同盟の宙域に入りつつあった。
「逃げてるのに、AISをそのままにするわけないだろ。追っ手は囮にひっかかったかな?」
「周囲に反応はないので、どうやら上手くいったようです」
代表のアーロンはホッとする。捕まればどんな目に遭うか、分かったものではない。
殺されはしなくても、地獄の日々に戻るだろう。または徴兵されて死地に送られる。
そんなのは真っ平ごめんで、大脱出を何としても、成功させねばならなかった。
そこに通信士が朗報を伝えてくる。
「量子暗号で続報が来ました。指定宙域まで来てほしいそうです。そこで我らを受け入れて、有人惑星に案内してくれるそうです!」
「うおおおおお!」
「やりましたね、代表!」
「ああ、だがまだまだ気は抜けん。みんな最後まで警戒してくれ」
「分かりました!」
喜びの声が船団中に広がった。
苦しい生活から、安心して暮らせる場所に行けるとなれば、浮かれるのも無理はない。
アーロンも喜んでいたが、なぜか不安を拭えなかった。
それでも難民船団は意気揚々と指定宙域へと向かう。追っ手の反応はない。
そこに到着してみると、
「やれやれ、これはある意味壮観だな」
「それだけ共和国、いやマルクスが各惑星から、金を搾り取っていたのでしょう。クソ議員め!」
指定宙域にはすでに数十隻の輸送船が集まっており、中にはボロボロの戦艦も混じっていた。
どの船にも同じ難民が大勢いる。
あまりの数の多さに、マルクスに対し憤りを覚えるが、同時に親近感もわく。
同じ苦しみを味わい、故郷を捨てて逃げてきた人々が、これほど大勢いたのだ。
「こんなにもいた。俺達だけじゃなかったんだな」
「ええ、代表」
迎えを待っている間、難民船団はオンライン会議を開き、互いの情報を交換した。
「そうでしたか。大変でしたね」
「いえいえ、そちらこそ苦労されたようで」
「私達も同じですが、皆様よりまだマシですね」
傷のなめ合いになった会議は、やがて悪口大会に変わる。
共和国とマルクスをボロクソに言って、みんなでストレスを発散した。
そこに、一隻の船が時空転移してくる。
よく見ると船体は傷だらけで、煙が上がっていた。攻撃を受けたのは明らか。
皆に緊張が走る。そして続々と戦艦が時空転移してきた。追っ手だ!
囮に引っかかったのとは別の艦隊である。
「つけられたな!」
「なんてこったー!」
「あと少しだったのに!」
やってきた船を恨んでも仕方がない。今は、何としても逃げるしかなかった。
輸送船団は一斉に散開し、それぞれ別方向へ逃げ始める。
その直後、追っ手艦隊から通信が入った。
『全輸送船団に告ぐ、直ちに停船し抵抗を止めよ、逃亡を図るなら砲撃をくわえる』
「冗談じゃない。捕まってたまるか!」
「もう奴隷生活に戻りたくない! 死んだ方がマシだ!」
停船命令に従う者はいなかった。皆、必死に逃げ続ける。
追撃艦隊の司令官の名はバルク・バルゼン。この状況を見て、冷静に命令を下した。
「……やはり降伏はしないか。仕方ない、ビーム出力を下げて撃沈しないように攻撃しろ。多少の犠牲はやむを得ん……悪く思うな」
「了解、砲撃開始!」
逃げ惑う羊に狼が襲いかかる。
司令官のバルクは軍閥海賊で有能だった。
大災害の後、馬鹿な上官が中央政府から独立した時は、嫌々従うしかなかったが、上官が三姉妹に倒されると、仲間を連れて離脱した。
その後は海賊となり、最近になって兵器企業と手を組んだ。表向きの肩書きは傭兵だが、裏仕事を請け負う便利屋である。
行き場もなく、追われる身では文句も言えない。補給を受けられるだけマシ。
今回はマルクスから兵器企業を通じて依頼を受け、輸送船団の捕縛を命じられた。
辺境惑星同盟へ逃げるのは分かりきっていたので、先回りして艦隊を展開し、来る宙域を予測して待ち伏せしていたのだ。
暗号通信が漏れたわけではなく、バルクの読みが当たったのである。
数十隻もの輸送船が同じ方向へ向かえば、どうしても位置がバレてしまう。
見つかって追いかけられた船は、運が悪かったとしか言い様がない。
輸送船に武器はなく、もはやこれまでと思われたが、
「前方より艦隊が接近してきます! 識別コード確認、辺境惑星同盟軍です!」
「おおっ!」
三姉妹が救援にやってきたのだ。アーロン達の命運は、まだ尽きてはいなかった。
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