モノローグ アーロン2
『こちらは辺境惑星同盟軍、皆さん今助けます!』
優しい女性の声が通信で聞こえてきた。恐らくサラ司令だろう。
救援艦隊は散会し、各輸送船に向かって近づいていく。俺達の盾となってくれるようだ。
攻撃よりも防御を優先してくれている。下手に撃ち合えば輸送船に被害が出るため、身を挺して守ってくれてるのだ。その気遣いには感謝しかない。
一方、追っ手の艦隊も俺達を捕まえるのが目的なので、苛烈な砲撃はしてこなかった。
こうして両艦隊は散らばって接近し、戦闘艇による乱戦となる。
こちらとの通信はつながったままで、三姉妹の声が聞こえてきた。
『こう艦隊がバラバラだと、私の力は使えないわ! お姉ちゃん』
『任せろルナ! アタイが全機、撃ち落としてやるぜ!』
『こらリジー! 難民の輸送船を守るのが最優先よ!』
「……ああ……ううっ」
その言葉を聞いて、誰もが涙をこぼし感動していた。
これまで誰にも助けてもらったことのない俺達にとって、彼女達は正に女神。
モニターから戦況を見れば、三姉妹の戦闘艇の動きはズバ抜けていた。
格好いい形状なので、否応なく戦場では目立つ。
他の戦闘艇を尻目に、縦横無尽に宙を駆け、次々とビームで敵機を撃墜していく。
超撃墜王と言っていい。わずかな時間で何機やったのか、数え切れない。
「す、すごい」
「やはり超能力者は強いな。いや彼女達の才能かもしれん」
俺が感想を漏らすと、うんうんと皆が肯く。誰もが勝利を確信していた。
しかし戦況が変わる。敵機が一斉に引き上げて、追っ手艦隊が距離をとっていく。
撤退したわけではなかった。艦を再び集結させ、長距離砲撃を始める。
俺達の捕縛を諦め、殲滅に切り替えたのだ。ついでに同盟艦隊も沈める気だ。
「くそったれが!」
俺は思わず拳を固く握りしめる。
俺達を守ってるせいで、同盟艦は集中砲火を浴びることになり、損害が増していく。
艦隊がバラバラの状態では、三姉妹でもどうしようもなかった。
そして輸送船にも被害が及んできた。このままでは、みんなやられてしまう。
俺は決意し、各輸送船に提案した。
「こうなったら、……するしかない!」
『……分かった。こっちも覚悟は決めたぜ』
全船団の代表が賛成して、作戦は決まった。すかさず俺はサラ司令に連絡を入れる。
「司令と同盟に感謝する。今から仲間を乗せた脱出艇を外に出すので、そいつらを守ってやってくれ。俺達が囮になるから、その隙に撤退してくれ」
『えっ⁈ 無茶です! そんなことをしたら死にますよ!』
「いや、これ以上甘えるわけにはいかない。残った仲間達を頼む」
『……分かりました。必ず同盟惑星に送り届けます』
「ありがとう、司令」
他に手がないのは、サラ司令も分かっているのだろう。悔しさが通信から伝わってきた。
もともと、全員助かるとは思っちゃいなかった。それでも大半が生き延びられるのなら、命をかける意味はある。
「脱出艇の発進を急げ!」
「了解!」
女子供を乗せた脱出艇と、輸送船の数隻が戦場を離れていく。
最低限の乗員だけが残った船が、進路を変えて追っ手艦隊へ全速力で向かっていった。
特攻だ! 命捨てがまるは今ぞ‼
「絶対に後を追わせるな! 船をぶつけてやれ!」
俺達の気迫にビビったのか、追っ手艦隊は猛攻をしかけてくる。
こちらに武装はないが、ボロ戦艦が先頭になり、シールドを張って攻撃に耐えてくれた。
ビームに命中しようがおかまいなし、速度を落とさず敵艦に肉薄する。
「うわあああ!」
敵味方、どちらの悲鳴だったかは分からない。輸送船は体当たりに成功し、敵艦を巻き込んで大爆発を起こす。
決死の俺達を止められるはずもなく、敵艦は炎に包まれ沈んでいく。
足止めは成功だ。
「どうやら、同盟軍は撤退してくれたようだな。俺達も逝こう!」
「ええ代表、死なば諸共です!」
俺達に悲壮感はなく、同胞の礎になれることを喜んでいた。
いつかタルボット星が再興されることを、草場の陰から祈ろう。
……と思ったのも束の間、追手艦隊も散開して体当たりを上手く避けた。
「ちっ、やるな!」
敵の指令官はかなり頭がいいようだ。
旗艦を狙った特攻は空振りに終わり、残った輸送船はそのまま前進を続けることにした。
ここでUターンしたらやられるので、囮を続けて後を追わせるしかない。
案の定、追いかけてきた。ここまできたら、仕留めなければ気が済まないだろう。
「追ってこい、追ってこい」
少しでも時間が稼げるなら、それでいい。船が動くかぎり前に進むだけだ。
ところが、レーダー担当が異常を知らせてくる。
「大変です、アーロン代表! 前方に時空回廊が現れました!」
「なにぃ!」
宇宙のトンネルは突然出現するので、予測がつかない。これを科学の力で造ったのが星門なのだ。
自然発生したワームホールに入れば、どこに行くかは分からない。下手をすれば二度と帰ってこれないだろう。
「どのみち、この速度では避けようはない。突入しよう」
「ええ、追っ手も道連れにしてやりましょう。これで確実に、女子供達は逃げられる」
俺達は迷わずワームホールへ飛び込んだ。とっくに捨てたこの命、今更惜しくはない。
ワームホールの中は、一言で言えば時化だった。
視界は効かず上下の感覚は失われ、船が振り回されてバラバラになりそうになる。
このままではマズい。
「くそっ! 船が言うことをきかん!」
絶体絶命の中、俺は漁船での荒海を思い出す。あの時と似ている。
「舵を代わってくれ!」
「はい!」
漁船と宇宙船は全く違う。しかし、荒海を乗り切ったときの感覚が同じだった。
舵を細かくきり、エンジン出力を調整する。
流れに逆らうのではなく、船体を合わせるように動かすのだ。
「すごい!」
「他の船にも、こっちに合わせるよう伝えてくれ」
「了解しました!」
……どれほど時間が経ったのか分からない。長いようにも、一瞬のようにも感じられた。
やがて、前方にかすかな光が見えた。
「出口だ!」
そして俺達は、ワームホールの外に飛び出した。
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