目障りなネズミ
ティラノス艦隊は、奪われたケツァル星門を奪還すべく進軍していた。
詳細な艦種は省くが、その艦数は約三百隻で大艦隊である。
偵察によれば、ホークブルク家の私設艦隊は約百隻。戦力差は三対一で、正面からぶつかっても余裕で勝てるだろう。
しかし、油断はしない。敵に各個撃破されなように、艦隊は一塊となって、奇襲に警戒しながら進んでいた。
ティラノス艦隊の司令官の名はコビール。
ゴリオシにへつらい、取り入ることで今の地位を得た。無能というほどでもないが、守りを重視する指揮を得意としていた。
裏を返せばただのビビりで、危なくなれば即撤退。
コビールは旗艦を艦隊中央に置き、多くの護衛艦を配置して守らせていた。
偵察も怠らず哨戒艦を送り出し、索敵を続けさせていた。
「異常はないか?」
「今のとこ問題はありません、司令」
コビールは大きな不安を抱えていた。戦力はかき集めたものの、補給体制が万全ではなく心許ない。
何より問題なのは、ほとんどの兵士達に実戦経験がないことだった。
演習やシミュレーション訓練と、本物の戦場はまるで違う。いざ砲火を交えた時、まともに兵と艦隊が動けるか分からない。
心配で胃に穴が開きそうだった。そこに、索敵オペレーターが声を上げる。
「前方の哨戒艦より入電。少数の艦隊を発見したとのことです」
「数は? 艦種は?」
「確認中……敵艦約十隻。共和国製・乙型駆逐艦後期型です。エンブレムに『天女団』の文字あり、軍艦旗は金色の羽衣を確認。現在、こちらへ接近する様子はありません」
参謀が説明した。
「情報にあったホムンクルスの女軍団でしょう。ホークブルクと同盟を結んでますね。恐らく、先行偵察隊でしょう」
「そうか、相手にする必要はないが、一応警戒は続けろ。こちらは予定どおり前進するだけだ」
「了解」
コビールが命じてティラノス艦隊が無視すると、天女団の艦隊は深追いすることなく、後方へ姿を消した。
「ふっ、所詮は雑魚か」
「まともに戦う度胸もあるまい。ほら、かかってこいや女ども」
兵士達は天女団を侮った。
ただしばらくすると、天女団艦隊は再び姿を現し、一定の距離を保ちながらついてくる。
ティラノス艦隊が動きを止めると、すぐに離脱する。これを繰り返した。
「ちっ! うっとうしい奴らだ。雑魚に目の前をうろちょろされると、イラつく」
「ああやって、こちらの陣形を少しでも乱したいのだろう。どうせ仕掛けてはこない。放っておけ」
ケツァル星門に到着する頃には、天女団艦隊は完全に姿を消していたが、それを気にしてるどころではなかった。
「なんだ、これは⁈」
星門は巨大な輪の構造物で、これを通過することで艦船は長距離星間跳躍ができる。
問題なのは、星門周辺に無数の小惑星が浮かんでいたことで、以前は何もなかったのである。
これはホークブルク私設艦隊と工作艦が運び込んでおり、小惑星を利用した防御陣地を築いていたのだ。
まるで天然の要害に立てこもられたようなもので、艦数は勝っていても攻め落とすのは難しい。
しかも敵艦隊は星門近くに陣取っていて、下手に攻撃すれば、ケツァル星門に当ててしまう恐れがあった。
壊したら目も当てられない。完全に星門を盾に取られていた。
ホークブルク艦隊はまともに撃ち合う気はなく、地の利を生かして戦おうとしていた。
数の不利を補う、良い作戦である。
「どうしますか? 司令」
「う、うう……」
「敵が攻撃を開始しました!」
コビールが攻撃を迷ってるうちに、私設艦隊は小惑星群の陰から砲撃を浴びせてきた。
無数のビームが闇を切り裂き、艦へ次々と命中する。
応戦命令が出ないまま、ティラノス艦隊の被害はみるみる拡大していく。
オペレーターの悲鳴が上がる。
「二番艦、大破!」
「重巡艦、撃沈!」
「司令、ご命令を!」
「くそっ! 後退しろ!」
指示はわずかに遅れた。その間に十数隻の戦艦が撃沈されてしまう。
それでもまだ、戦力は私設艦隊を上回っている。
「艦隊陣形を立て直せ!」
「了解!」
敵艦隊は追撃してこなかった。数が少ないので防御に徹する気なのだろう。
コビールは艦隊を再編しながら、小惑星をどう攻略するか頭を悩ませた。
参謀が進言する。
「下手に攻撃すれば星門に当たります。敵を誘い出すか、遠距離から精密射撃で少しずつ戦力を削るしかないでしょう。接近するのは危険です」
「それしかないか……」
コビールが命令を下そうとしたその瞬間、艦橋の窓がまばゆい閃光に包まれた。
「何事だ!?」
「後方よりミサイル攻撃! 多数の着弾を確認!」
「後方だと? 敵はどこだ⁈」
コビールが戦術モニターを見ると、味方艦が炎を噴き上げていた。
巨大ミサイルを撃ったのは天女団艦隊。
駆逐艦では発射できない大型なので、ミサイルを牽引して、戦場で切り離して使用していた。
ティラノス艦隊を目標にセットして発進させれば、あとはAIが不規則な機動を繰り返して、ミサイルは自動で艦に命中する。
これを迎撃するのは難しい。この奇襲にコビールと乗組員達は激怒した。
「こっちが黙っていれば、つけ上がりやがって! ホムンクルスどもめ!」
「あの売女どもをぶっ殺せ!」
這い回っていたネズミがいきなり噛んできたのだ。舐められっぱなしでは腹が立つ。
徹底的に駆除せねば、気持ちは収まらなかった。
「後方艦隊、反転! 敵を殲滅せよ!」
「了解! 雑魚を蹴散らします!」
ところが後方艦が旋回を始めると、天女団艦隊は一目散に逃げだしてしまう。
「追えー! 絶対に逃がすな!」
追撃艦隊は天女団艦隊を追い始める。ただ艦列は乱れ各艦が我先にと突進してしまう。
冷静さを欠いていた。
敵はわずか十隻ほどなので、簡単に踏み潰せると高をくくり、警戒する者は誰もいない。
レーダーにも他の艦影は映っていなかった。先頭の艦が追いついて、攻撃しようとしたその時、
「射撃用意――な、何事だ!?」
艦内が激しく揺れ、警報が鳴り響く。
「四方で爆発が発生! これは機雷です‼」
「ばかな!」
追撃艦隊は大混乱に陥る。
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