ゴリオシ、見放される
惑星ティラノスの官邸で、ゴリオシは記者会見を開いていた。
新生惑星機構からの宣戦布告について、国民に説明するためである。
いつもなら御用メディアだけを呼ぶところだが、今回は一大事なので、そうもいかなかった。
「あの映像は全てホークブルクのでっち上げだ! フェイクだ! 俺が殺し屋を雇った証拠など、何一つない! ねつ造を口実に我が共和国へ戦争を仕掛けるとは、断じて許される行為ではない! 上級評議員として、断固非難する!」
「ねつ造の証拠はあるんですか? 過去に起きた暗殺事件と照らし合わせますと、ゴリオシ議員が自白された内容と一致しますが?」
「だからアレは俺ではない! そんなものは、生成AIでいくらでも作れる!」
ゴリオシは「フェイク」と繰り返すだけで、具体的な反証は何一つだせなかった。
記者達は呆れ、次の質問にうつる。こっちの方が重要である。
「それでは、新生惑星機構の宣戦布告に対し、政府はどう対応するのですか? 侵攻するのですか? それとも防衛ですか?」
「現時点で軍事行動については、安全保障上答えられない。あらゆる選択肢を視野に入れ、慎重に検討しているところだ」
「それでは、国民が納得しませんよ? 攻めてきたらどうするんですか⁈」
「うるさい! 戦争を仕掛けてきたのはホークブルクだ! 責任は向こうにある!」
ゴリオシはキレてしまい、記者会見は打ち切られる。結局、まともな回答は何一つ得られなかった。
逃げたゴリオシは執務室へ戻ると、すぐに他の上級評議員へ連絡を入れた。もはや部下に押しつけて済むような問題ではない。
しかし全員を集めることはできず、個別に会談するしかなかった。
三人を巻き込んで援軍を出してもらうつもりだった。
ところがマルクスは、
『自信満々にやれると言ってたのに、このざまか? 俺のところの軍は一兵たりとも貸さんぞ。自分で始末をつけろ』
そしてサロットは、
『こっちはレガリア軍との戦いで手一杯だ。ホークブルクを敵に回したのは、お前だゴリオシ! 俺を巻き込むな!』
二人からは一方的に通信を切られてしまう。銀玉幻斎は一切の通信に応じようとはしなかった。
もともと仲間意識などない。あるはずもない。
ただ利害が一致していただけで、都合が悪くなれば、すぐに見捨てる。
「くそっ! どいつもこいつも!」
孤立無援となったゴリオシは、首星ワイロニアにいる最高評議長代理に連絡をとった。
スベーナを散々馬鹿にしていたのに、泣きつくのは実に情けない限りだが、返ってきたのは冷たい対応だった。
『こちらの要請を無視しておきながら、今更何の御用ですか? 艦隊の増援をお望みなら、お断りします。正規軍は軍閥討伐のため、すべて出払っています』
「そ、相互に軍事協力する義務は、共和国憲法に定められてるではないか!」
『ええ、承知しています。ですが、その義務は共和国全体のためにあるもので、あなたの失敗の尻拭いをするためではありません』
「尻拭いだと! ホークブルクが攻めてくるんだぞ! 国民を見捨てる気か⁈」
『国民を盾に脅しても無駄ですよ。こちらは、こちらで別の対応を取ります。ご自身で責任をお取りください。それでは』
「おいっ!」
通信は切られた。ゴリオシは呆然となるが、自分が悪いとは微塵も思っていない。
そして独裁者は暴走する。内心は恐怖でガタガタ震えてるくせに、それを隠すため強硬な行動へ走るのだ。
「こうなったら、やられる前にやってやる! 中立惑星カロリーナを攻め落とす!」
ゴリオシはホークブルク家の、本拠地さえ落とせば勝てると思ったのだろう。実に短絡的である。
麾下のティラノス艦隊に、侵攻命令が下された。
「新生惑星機構と称するホークブルク一派が、我が国に言いがかりをつけ、侵略を企てている。この暴挙を断じて許してはならん! 我々は民と祖国を守るために戦うのだ! これは侵略ではない。正当な自衛戦争である!」
もちろん真っ赤な嘘だ。自らの罪を隠すため、戦争を口実に国民を騙そうとしていた。
国家保安局による監視は一層厳しくなり、人々はゴリオシに逆らえなかった。
反対者は即座に投獄される。まさに恐怖政治だった。
軍も忠誠ではなく恐怖で従っていた。建前は文民統制なので、作戦は総司令官に一任されている。
……だが、敗北すれば待っているのは粛清だった。
そのため、司令官と参謀達は必死に作戦を練った。時間は余りない。
出撃準備が整い次第、艦隊を発進させなければならなかった。
「うーん、うーん、どうしよう……」
「困りましたな、司令」
中央防衛軍として威張っていた軍は、温い訓練はしていたが、実戦経験はほとんどなかった。
一方、私設艦隊や地方艦隊は帝国との戦いを経験しており、その差は歴然である。
参謀達は何をすべきか分からず、作戦もまとまらない。また兵士達の戦意も低く、艦隊には重苦しい空気が漂っていた。
そこに急報が入る。
「尻……ケツァル星門が敵の手に落ちました!」
「なんだってー⁈」
星門――星系間を結ぶ超空間転移施設で、星間航行に欠かせない要衝である。
ここを押さえられれば、艦隊の移動はもちろん、民間の物流まで停滞してしまう。
銀河の交通と補給を支える生命線ともいえる場所だった。
特にケツァル星門は、ティラノス星にとっての玄関口。
ホークブルク家は、最も痛い急所を突いてきたのである。その行動はあまりにも早く、最初から計画していたのは明らか。
もはやカロリーナへ攻め込むどころではない。何としてでも星門を奪還しなければならなかった。
「おのれ、エドワード! やってくれたな! 今すぐ取り戻してこい!」
「はっ!」
ゴリオシは怒り心頭だった。その怒りの矛先は司令官へ向けられ、十分な準備も整わないまま艦隊は出撃した。
ホークブルク家の私設艦隊との決戦が迫る中、スベーナはブルート・ベルクマンと通信をしていた。
「ゴリオシからの援軍要請は断りました。これでよろしいかしら?」
『ええ、議長代理。マルクスとサロットにも話はついています。少なくとも、ホークブルク家が首星へ攻め込むことはありません』
ブルートは水面下で各勢力と接触し、不戦を条件に外交工作を進め、すでに三人の代表と密約を結んでいた。
狙いはゴリオシを孤立させ、私設艦隊を有利に戦わせるためである。
裏工作を依頼したのは当主のエドワード。
ブルートは傭兵時代の幅広い人脈があり、交渉人として有能だった……密使としても。
『これで、ゴリオシに勝ち目はないでしょう。裏には天女団もついてますからね』
「なるほど、あなた方と手を組んだのは正解でしたね。三姉妹との交渉も、最初からあなたに任せればよかったわ。ああ悔やまれる。ところで、ブルートさん。一つお願いがあるのですが……」
『なんでしょうか?』
ブルートは黙って、議長代理の頼みを聞く。
『……承りました。そちらにも伝手がありますので、話を通してみましょう』
「本当にありがとうございます。それではよろしくお願いします」
スベーナは深々と頭を下げた。それは彼女にとって何よりも大切な願いだった。
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