茶番の入札会
『それでは、入札のルールをご説明いたします。入札は二回。一回目はテストですので、参考になる金額をご提示ください。そして二回目の入札で、最も高い金額を提示した方が落札となります』
『なお、お支払いは仮想通貨「べっくら・コイン」にてお願いいたします。入札専用アプリを送ります。落札が決まると、代金は私の口座へ自動送金される仕組みです』
『ああ、儂は構わんぞ』
「ちょっと待て! 勝手に話を進めるな! こんな茶番に付き合えるか!」
イラついてるゴリオシは文句を言うが、レイヴンは冷ややかに応じた。
『それでは議員は不参加ということで。残念ながら不戦勝で、エドワード様の落札ということになりますね』
「待て! ……分かった、参加する」
ここで逃がしたら元も子もない。エドワードの身柄を手に入れるため、ゴリオシは入札に渋々参加することにした。
『分かりました。それでは早速、一回目の入札を始めます。これは練習ですので、入札された金額はすぐに返金いたします。では、金額を入力してください』
ゴリオシとエドワードは、スマホアプリで入札額を入力した。
少し時間をおいて、レイヴンが開く。
『それでは発表いたします。後ろのモニターをご覧ください。ゴリオシ様、100億C。エドワード様、300億C。よって、一回目の入札はエドワード様が最高額となりました』
「くっ!」
『ほっほっほっ』
ゴリオシは悔しそうに顔をしかめ、エドワードは勝ち誇って高らかに笑う。
『それでは、本番となる二回目の入札に参りましょう。これが最後の入札です。じっくりご検討ください。後悔なさらないように』
(一回目は様子見で、負けても痛くはない。次勝てばいいだけの話だ。ホークブルク家とは言え、動かせる金はそんなにあるまい。ならば、奴の十倍を出せば勝てる)
ゴリオシはニヤリとして、桁違いの金額を入力した。
エドワードも静かに入札を終える。
『それでは結果を発表します。おおっ! ゴリオシ様なんと、3000億C!』
「ふっ、勝ったな」
『ところがぎっちょん。エドワード様、一兆コイン‼ 落札決定です! おめでとうございます!』
『この程度で済むとは、意外と安かったのう』
「お前らふざけるな! 八百長だー!」
ゴリオシは大声で怒鳴った。どう考えても、自分の入札額が相手に漏れていたとしか思えない。
入札アプリにウィルスが無いのは確認したが、もし入力したデータをエドワードが、見られるようになっていたらインチキだ。実際その通りである。
ゴリオシは、レイヴンとエドワードが裏で手を組んだと悟った。
「レイヴン! 今まで散々稼がせてやったというのに、恩を仇で返す気か⁈」
『……これは異な事をおっしゃますね。あくまでビジネスなので、お互い様です。ですが、あなたに御世話になったことも確か。昔を思い出せば、気が変わるかもしれません』
ゴリオシはレイヴンの機嫌を取ろうと、昔語りを始める。
「そういえば、馬鹿な秘書が機密文書を持ち出し、俺の不祥事の証拠も手に入れて、脅してきたことがあったな。始末をつけてくれたのはお前達で、全ての証拠を燃やしてくれたから助かった」
『そんなこともありましたね。結構な料金をいただきました』
「あとは、俺を殺して権力を手に入れようとした愚弟が失敗し、逃げ隠れていたのを捜して始末してくれたのも、お前らだったな。愚弟が死んでスッとしたぜ」
『ええ、よく覚えております。見つけ出すのに骨は折れましたが、破格のボーナスをいただきました。こうして振り返ると、ゴリオシ様にはずいぶんお世話になっていますね』
「そうだろ、そうだろ? だから恩を返せ」
話は続き、気を良くしたゴリオシはペラペラと語り始めた。
自分では手を下していないものの、政敵や邪魔者を密かに始末させたことを、まるで武勇伝のように自慢している。
レイヴンは相づちを打つだけで、どこか様子がおかしかった。
やがてゴリオシの話が途切れると、大きな拍手をした。
『いやあ、実に見事な悪事の数々ですね。お見それしました、ゴリオシ様。なので腐った政治家とは手を切ります。やはり私はエドワード様と手を組むことにします』
「レイヴン! 貴様ー!」
『はあ? レイヴン? そんな奴はここにはいないぞ』
「な、何だと⁈ お前は誰だ!」
レイヴンの姿が揺らぎ、仮面をつけたアラシの姿へと変わる。
最初から、レイヴンになりすましていたのだ。
『俺は天女団総司令、ただの亡霊だ。まあ、そんなことはどうでもいい。それより、自らマスコミの前で悪事の暴露してくれるとはな。大した男だ。はっはっはっは!』
「ど、どういうことだ? まさか……!」
カメラの向きが変わると、そこには杖を持ち椅子に腰掛けていたエドワードと、無数のカメラを向けてる取材陣がいた。
今までのやり取りは、すべて生中継されていたのだ。全てが芝居。
銀河ネットでも、リアルタイムで全宇宙へ配信されている。
「なっ…………」
はめられたゴリオシは、顔を引きつらせ言葉を失う。
そして記者達の質問が矢継ぎ早に飛ぶ。
『上級評議員、先ほどの発言は全て事実なのですね⁈』
『実の弟まで始末させたのですか⁈』
『共和国政府ぐるみの犯行だったのですか⁈ 他にも関与した評議員はいるのですか⁈』
ゴリオシはタジタジになり、通話アプリを終了させようとしたが切断できない。
これも仕組まれていた。
記者達を制し、エドワードはゴリオシを鋭い眼光で睨みつけ、力強く言い放つ。
『殺し屋を雇い、儂と家族の命を狙ったことは、もはや疑いようのない事実。共和国の上級評議員がこのような暴挙に及んだ以上、それは戦争を仕掛けたも同然! ならば我ら新生惑星機構は、この時をもって独立連合共和国に宣戦を布告する‼』
『おおっ!』
無数のフラッシュが激しく瞬き、記者達が一斉に質問をしたせいで、会場内は大混乱になり収拾がつかなくなる。
この間にゴリオシは端末の電源を落として、画面から姿を消した。
しかし、もう手遅れである。
ゴリオシによる暗殺未遂と、それに対する新生惑星機構の宣戦布告は、全宇宙が知ることとなった。
誰もが、争乱の始まりを感じていた。
記者会見が終わった後、アラシとエドワードは二人きりで話す。
「結局、戦争に巻き込んでしまった。すまんのう、アラシ殿」
「いや、どうせ共和国とは戦になっていただろう。最高評議長がいなくなっても、独裁者が圧政を続ける限り、反乱が起きるのは当然。中立惑星や辺境惑星から搾取するだけの腐った政体は、滅びるべきだ。保身のために何をしでかすか分からん。次の大災害は、何としても防がねばならない」
「まったくじゃ! 共和国は民主主義とは名ばかりの独裁国家群。帝国の二元君主制よりはるかに劣る。しかも自ら改める気などなく、悪徳政治家は権力の座にしがみつき、国の未来など見ておらん。独立連合共和国は消え去る時が来たのじゃ!」
――星暦1992年、銀河独立戦争が幕を開けた。
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