タイマン勝負
「身体強化!」
「神拳!」
俺達は拳に力場を纏わせて殴り合う。
このレイヴンという男はかなり強い。俺の体に張った障壁が、数発で壊されてしまった。
暗殺者達のリーダーだけのことはある。
もっともシールドは直ぐに張り直してるし、敵の障壁は一発でぶち壊していた。
不利を悟って、レイヴンは間合いをとる。
「くっ! お前一体何者だ⁈ その馬鹿でかい、オーラはおかしいぞ! もう人間じゃねえ‼」
「ほう、見えるか? だが教えてやらん!」
もう名乗るのはやめた。狙われている俺の存在は、秘匿しなければならない。
だからサラ達に俺の居場所を、教えるわけにはいかなかった。
誰も巻き添えにしたくないからな。いつか再会できることを願っている。
「神影走!」
「なっ、速い! 三重障壁!」
俺は体を加速させて攻めた。
一気に決めるつもりでいたが、レイヴンは障壁を重ねて攻撃を耐え、しかも反撃してくる。
「三倍強化!」
「おおっ!」
レイヴンの速度とパワーがさらに跳ね上がり、俺は驚く。
筋力を増加させ、心肺機能を一時的に高める身体強化能力とみた。
俺は押し込まれたが、能力は短時間しか続かないようで、猛攻はすぐに止んだ。
レイヴンは後退し、荒い息をつきながら毒づく。
「……はあ……はあ……このガキ……笑ってん……じゃねえ!」
「そうか……悪いな、顔が緩んでいたようだ」
笑ったのは余裕があるからではなく、命の駆け引きを楽しんでいたからだ。
エスパー同士の闘いに心が躍っていた。俺には戦闘狂な一面があるのだろう。
あるいは好敵手を求めているのかもしれない。ああ、度し難いな。
「す、凄すぎる! 超高速カメラじゃないと、司令が見えない!」
「ええ肉眼じゃ追えないし、動きにもついていけない――悔しい!」
周りにいる部下達からは、驚きの声が上がっていた。
機甲羽衣のカメラ越しに闘いを見守るしかできず、歯がゆさを感じてるようだった。
俺としては見るだけでも、良い経験になると思っている。その上で、自分に何ができるのかを考えてほしい。
エスパーとて無敵ではなく、チャンスさえあれば倒せるのだから。
死闘は続いていた。レイヴンは限界以上の力を発揮して、俺と渡り合っている。
部下を逃がそうと必死なのだろう。殺し屋とはいえ、その覚悟だけは尊敬に値した。
もっとも、逃げた奴らは全員倒したと報告を受けている。残ってるのは、気力で立っているレイヴンだけ。
なぶる気はないので、俺は終わらせることにした。
「むっ⁈」
殺気を察知したレイヴンが後ずさる。それに合わせて、俺もバックステップ。
そして右足に力場を溜めてから、思い切り床を蹴った。
「爆踏!」
爆音と共に俺は一瞬で移動し、レイヴンの目の前で拳を繰り出す。
誰にも見えなかっただろう。
「なっ⁈ ぐああああ!」
それでもレイヴンは多重障壁を張って、腕を交差させて防ごうとした。
しかし俺の拳は障壁ごと両腕をへし折り、体を吹き飛ばす。
レイヴンは壁に叩きつけられて跳ね返り、そのまま倒れ伏す。もう動かない。
「神雷速」
後ろの床には大穴が開いて、まるでクレーターのようになっている。
これは足の力場を地面に叩きつけ、その爆発的な反動で一気に加速する技だった。
神影走より速く神拳の威力も上がるが、溜めが必要なうえ、足場を破壊するので使い勝手は悪い。
レイヴンの動きが鈍っていなければ、俺の攻撃は当たらなかっただろう。
決着はついたが、館は戦闘の影響でボロボロになってしまった。
アルバートからは「壊して構わん」と許可は得ていたが、壊れた床を見てると、気分は良くなかった。
俺は気を取り直して、次の準備にかかる。これからが本番と言っていい。
◇◇◇
――数日後。
「ちっ! あいつら何をしてやがる。訃報の一つも上がってこねえじゃねえか!」
ゴリオシは毎日ニュースを確認していたが、ホークブルク家の誰かが殺されたという報道は、一向になかった。
それどころか、共和国から離脱する惑星の話題ばかりで、見てると不快になる。
チャンネルを切り替えてると、闇通信アプリから連絡が入り、モニターに切り替えた。
画面に現れたのはレイヴン。
『これは議員、お久しぶりです』
「おい! 一体どうなってやがる⁈ 説明しろ!」
ゴリオシが問い詰めてくると、レイヴンは頭を下げた。
『申し訳ございません。ご依頼は失敗しました。ホークブルク家の優秀な護衛に阻まれ、仲間は全員倒されました。それでも、一人だけ確保できました』
レイヴンがカメラを動かすと、一人の老人が椅子に腰掛けていた。
ホークブルク家当主、エドワードだった。
捕らえられているにもかかわらず、その表情は落ち着き払っている。
一方のゴリオシは冷静ではいられなかった。頭の中で策を巡らせる。
(殺すか……いや、それでは恨みを買うだけで利がない。人質として交渉に使うべきだな)
「そいつを引き渡せ」
『お断りします』
「何だと? 貴様!」
『暗殺依頼は失敗しましたが、当主は仲間が命懸けで確保した捕虜です。契約には含まれておりません。ですので、身代金は別途いただきたいと思います』
これを聞いたゴリオシは、キレかけたが何とかこらえた。
今はレイヴンが切り札を握ってるので、怒らすわけにはいかない。
「……いくらだ?」
『ちっちっち、安く見られては困りますな。実はエドワード様も、自ら身代金を支払うとおっしゃっております。ですので、身柄を懸けた入札を行いたいと思います』
「なんだと!?」
『さて、上級評議員殿はいくらお出しになりますかな? ほっほっほっ』
エドワードは余裕の笑みを浮かべた。
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