天鳥船
「ふっふふふ、見事に引っかかってくれたようだな。司令の作戦は完璧だ」
「ええ、大尉。我らは駆逐艦だけで艦数も少ないので、敵は必ずこちらを甘く見ます。しかも女だと、最初から舐めてますから」
「ならば、天女団の恐ろしさを思い知らせてやろう」
艦隊の指揮を執っていたのは、東雲志乃。
両手で指揮杖を湾曲させながら、命令を出していた。
いつもの鞭代わりで、気分が高ぶった時の手慰み。
今回は戦闘に参加できたので嬉しくて仕方ない。そして志乃は、その指揮能力を存分に発揮していた。
ホークブルク家は宣戦布告と同時に、私設艦隊を星門へ進撃させていたのである。
天女団も作戦に協力することとなり、アラシは出撃準備を命じていた。
先手を取り星門を抑えてしまえば、何としても奪還にくるだろう。
そして天女団艦隊は、敵を挑発して罠にはめるのに成功した。
使用したのはステルス誘導機雷。
敵艦隊を十分に引きつけて、リモコン操作で一斉に起動させると、動き出した機雷が艦に命中し大損害を与えた。
「よし、このまま後退を続行せよ。ゆっくりとな」
「了解!」
反転攻勢のチャンスなのに、なぜか志乃は逃げ続けるよう艦隊に命令した。
その間に追撃艦隊は航行不能艦を後方へ下げ、陣形を立て直す。
「なめやがって、ぶっ殺してやる!」
怒りに燃えて天女団艦隊を猛追してくるが、完全に長蛇の列になってしまう。
これを見た志乃はニヤリと笑った。
「まるで猪武者だな。愚か者め。あの世で悔いるがいい!」
時をおかず、追撃艦隊は左右からの横撃をいきなりくらう。
「こ、これは一体!」
『我らは機構合同艦隊! 卑劣なゴリオシに鉄槌を下す者なり!』
『独裁者の犬ども、覚悟しろ!』
伏兵艦隊だった。
志乃が得意とする、誘敵殲滅作戦に引っかかったのである。
新生惑星機構合同艦隊は、盟約に従い各惑星から集まってきていた。その数三百隻。
共和国に長年に渡って食い物にされてきたので、その恨みは深く兵達の士気は高かった。
お返しとばかりに、ティラノス艦隊に猛然と襲いかかる。
「ぎゃああああ!」
左右から挟み撃ちにされては、反撃することもできず追撃艦隊は壊滅した。
三百隻もの合同艦隊を相手にしては、もはや勝負にすらならない。
『残敵は放置しろ! そのまま前進し、敵本隊の背後を突け!』
『了解!』
合同艦隊は合流して集結し、そのまま前進を開始する。
それに合わせてホークブルク私設艦隊も、小惑星帯から出て攻勢に転じた。
今度は前後からの挟み撃ち。
もうティラノス艦隊に勝ち目はなく、指令官のコビールは究極の決断を迫られる。
降伏か? 死か?
どちらも選びたくなかったヘタれのコビールは、味方を見捨てて逃げようとした。
「全軍、旗艦の撤退を援護しろ! 命ある限り戦え!」
『し、司令! それでは我々は――』
「黙れ! これは総司令官命令だ!」
通信を一方的に切り旗艦は護衛艦を連れて、戦場から一目散に離脱していく。
これを紅美が見たら、間違いなくブチ切れていただろう。部下を見捨てるような真似だけは絶対に許せない。
もっとも今回は艦隊戦なので出番がなく、大人しく自惑星で留守番中。
静香の指示に従って、建設作業で汗を流していた。
慌てて逃げる旗艦を見て志乃は笑う。
「ふっ、逃げられるとでも思っているのか? 司令が卑怯者を許すわけないだろ!」
そう、コビールに迫る影があった。旗艦の天頂方向から、一機の黒い戦闘艇が猛スピードで接近してくる。あまりにも速い!
天鳥船――諸元、全長約25㍍・全幅16㍍・重量80㌧。主武装は高出力ビーム砲×2、小型誘導ミサイル20発。
ホークブルク家が、天女団に供与した特注品で最高性能の機体だ。
最高速度は、一般的な戦闘艇の遙か上をいく。ゆえに並のパイロットでは乗れない。
この機体を手足のように操れるのは、アラシのみ。
旗艦オペレーターが叫ぶ。
「直上より何かが接近中! 形状はミサイルではありません。しかし、戦闘艇とは思えない速度です!」
「げ、迎撃しろ! 絶対にそれを近づけさせるな!」
コビールの悲鳴にも似た命令が飛ぶ。司令官は誰よりも早く、命の危機を感じ取っていた。
対空砲が一斉に火を噴くも、天鳥船には一発も当たらない。
高速高機動で動いて全ての弾を躱したのだ。
仮に直撃を受けたとしても、機体を覆う重力シールドが、強力な防御壁となって攻撃を受け止める。
機体には軽く10Gを超える加速度が常にかかっていて、一般人ならとっくに気絶しているところだ。
しかし、アラシは体に力場を纏わせているため問題ない。
誰もアラシを止めることはできなかった。
天鳥船は猛スピードで旗艦へ迫り、ついに有効射程に捉えた。
「ミサイル発射!」
放たれたミサイルが、旗艦の各所に次々と命中し大爆発が起きた。
旗艦からいくつもの火柱が上がる。
「ひぃいいいい!」
コビールは艦橋から逃げ出し、一人で脱出艇へと向かう。どこまでも見苦しかった。
しかし、部下を見捨てた男に天罰は下る。
「ファイヤー!」
アラシが操縦桿のトリガーを引くと、高出力ビーム砲が火を噴き、無数の光線が旗艦へ突き刺さっていく。
ビームの直撃を受けて、コビールは体ごと蒸発。旗艦も大爆発を起こし撃沈された。
天鳥船は、そのまま戦場を離れていく。
こうして、ケツァル星門会戦は終結した。
残った敵艦は降伏し、新生惑星機構軍の勝利となった。
とはいえ、ゴリオシにはまだ戦力は残されており、戦いは始まったばかりである。
ホークブルク家は次の戦略を練り始めていた。
◇◇◇
俺が天女団艦隊の旗艦へ戻ると、志乃達が笑顔で迎えてくれた。
「司令お疲れ様でした。お見事です!」
「素晴らしい攻撃でした!」
「ああ、ありがとう。皆もよくやってくれた。さて基地に帰るとしよう」
「了解!」
こうして俺達は勝利を収め、凱旋の途についた。
とはいえ、俺自身は今回の戦果に納得はしていなかった。
今回は戦闘艇で出撃したが、昔の力があれば、生身で敵艦を沈められたはず。
さすれば友軍の被害を抑えられただろう。
何事も完璧とはいかない。今回の反省を踏まえて次に生かそう。
俺達の艦隊は帰路につく。
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