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神力の少年兵  作者: 夢野楽人
第三章 争乱編

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天鳥船

「ふっふふふ、見事に引っかかってくれたようだな。司令の作戦は完璧だ」

「ええ、大尉。我らは駆逐艦だけで艦数も少ないので、敵は必ずこちらを甘く見ます。しかも女だと、最初から舐めてますから」

「ならば、天女団の恐ろしさを思い知らせてやろう」


 艦隊の指揮を執っていたのは、東雲志乃。


 両手で指揮杖(コマンド・バトン)を湾曲させながら、命令を出していた。

 いつもの鞭代わりで、気分が高ぶった時の手慰み。

 今回は戦闘に参加できたので嬉しくて仕方ない。そして志乃は、その指揮能力を存分に発揮していた。



 ホークブルク家は宣戦布告と同時に、私設艦隊を星門(ゲート)へ進撃させていたのである。

 天女団も作戦に協力することとなり、アラシは出撃準備を命じていた。

 先手を取り星門を抑えてしまえば、何としても奪還にくるだろう。

 そして天女団艦隊は、敵を挑発して罠にはめるのに成功した。


 使用したのはステルス誘導機雷。


 敵艦隊を十分に引きつけて、リモコン操作で一斉に起動させると、動き出した機雷が艦に命中し大損害を与えた。


「よし、このまま後退を続行せよ。ゆっくりとな」

「了解!」


 反転攻勢のチャンスなのに、なぜか志乃は逃げ続けるよう艦隊に命令した。

 その間に追撃艦隊は航行不能艦を後方へ下げ、陣形を立て直す。


「なめやがって、ぶっ殺してやる!」


 怒りに燃えて天女団艦隊を猛追してくるが、完全に長蛇の列になってしまう。

 これを見た志乃はニヤリと笑った。


「まるで猪武者だな。愚か者め。あの世で悔いるがいい!」


 時をおかず、追撃艦隊は左右からの横撃をいきなりくらう。


「こ、これは一体!」


『我らは機構合同艦隊! 卑劣なゴリオシに鉄槌を下す者なり!』

『独裁者の犬ども、覚悟しろ!』


 伏兵艦隊だった。

 志乃が得意とする、誘敵殲滅作戦に引っかかったのである。


 新生惑星機構ニュー・プラネット・オーソリティ合同艦隊は、盟約に従い各惑星から集まってきていた。その数三百隻。

 共和国に長年に渡って食い物にされてきたので、その恨みは深く兵達の士気は高かった。

 お返しとばかりに、ティラノス艦隊に猛然と襲いかかる。


「ぎゃああああ!」


 左右から挟み撃ちにされては、反撃することもできず追撃艦隊は壊滅した。

 三百隻もの合同艦隊(ジョイント・フリート)を相手にしては、もはや勝負にすらならない。


『残敵は放置しろ! そのまま前進し、敵本隊の背後を突け!』

『了解!』


 合同艦隊は合流して集結し、そのまま前進を開始する。

 それに合わせてホークブルク私設艦隊も、小惑星帯から出て攻勢に転じた。

 今度は前後からの挟み撃ち。


 もうティラノス艦隊に勝ち目はなく、指令官のコビールは究極の決断を迫られる。


 降伏か? 死か?


 どちらも選びたくなかったヘタれのコビールは、味方を見捨てて逃げようとした。


「全軍、旗艦の撤退を援護しろ! 命ある限り戦え!」

『し、司令! それでは我々は――』

「黙れ! これは総司令官命令だ!」


 通信を一方的に切り旗艦は護衛艦を連れて、戦場から一目散に離脱していく。

 これを紅美が見たら、間違いなくブチ切れていただろう。部下を見捨てるような真似だけは絶対に許せない。

 もっとも今回は艦隊戦なので出番がなく、大人しく自惑星(ホーム)で留守番中。

 静香の指示に従って、建設作業で汗を流していた。



 慌てて逃げる旗艦を見て志乃は笑う。


「ふっ、逃げられるとでも思っているのか? 司令が卑怯者を許すわけないだろ!」


 そう、コビールに迫る影があった。旗艦の天頂方向から、一機の黒い戦闘艇が猛スピードで接近してくる。あまりにも速い!

 

 天鳥船アメノトリフネ――諸元、全長約25㍍・全幅16㍍・重量80㌧。主武装は高出力ビーム砲×2、小型誘導ミサイル20発。


 ホークブルク家が、天女団に供与した特注品で最高性能の機体だ。

 最高速度は、一般的な戦闘艇の遙か上をいく。ゆえに並のパイロットでは乗れない。

 この機体を手足のように操れるのは、アラシのみ。

 

 旗艦オペレーターが叫ぶ。


「直上より何かが接近中! 形状はミサイルではありません。しかし、戦闘艇とは思えない速度です!」

「げ、迎撃しろ! 絶対にそれを近づけさせるな!」


 コビールの悲鳴にも似た命令が飛ぶ。司令官は誰よりも早く、命の危機を感じ取っていた。

 対空砲が一斉に火を噴くも、天鳥船には一発も当たらない。

 高速高機動で動いて全ての弾を躱したのだ。


 仮に直撃を受けたとしても、機体を覆う重力シールドが、強力な防御壁となって攻撃を受け止める。

 機体には軽く10Gを超える加速度が常にかかっていて、一般人ならとっくに気絶しているところだ。

 しかし、アラシは体に力場(フォース)を纏わせているため問題ない。

 誰もアラシを止めることはできなかった。


 天鳥船アメノトリフネは猛スピードで旗艦へ迫り、ついに有効射程に捉えた。


「ミサイル発射!」


 放たれたミサイルが、旗艦の各所に次々と命中し大爆発が起きた。

 旗艦からいくつもの火柱が上がる。


「ひぃいいいい!」


 コビールは艦橋から逃げ出し、一人で脱出艇へと向かう。どこまでも見苦しかった。

 しかし、部下を見捨てた男に天罰は下る。


「ファイヤー!」


 アラシが操縦桿のトリガーを引くと、高出力ビーム砲が火を噴き、無数の光線が旗艦へ突き刺さっていく。

 ビームの直撃を受けて、コビールは体ごと蒸発。旗艦も大爆発を起こし撃沈された。

 天鳥船は、そのまま戦場を離れていく。


 こうして、ケツァル星門会戦は終結した。

 残った敵艦は降伏し、新生惑星機構軍の勝利となった。

 とはいえ、ゴリオシにはまだ戦力は残されており、戦いは始まったばかりである。

 ホークブルク家は次の戦略を練り始めていた。


  ◇◇◇

 

 俺が天女団艦隊の旗艦へ戻ると、志乃達が笑顔で迎えてくれた。


「司令お疲れ様でした。お見事です!」

「素晴らしい攻撃でした!」


「ああ、ありがとう。皆もよくやってくれた。さて基地に帰るとしよう」


「了解!」


 こうして俺達は勝利を収め、凱旋の途についた。

 とはいえ、俺自身は今回の戦果に納得はしていなかった。

 今回は戦闘艇で出撃したが、昔の力があれば、生身で敵艦を沈められたはず。

 さすれば友軍の被害を抑えられただろう。

 何事も完璧とはいかない。今回の反省を踏まえて次に生かそう。


 俺達の艦隊は帰路につく。

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