暴動の空回り
まず狙われたのは、共和国内にあるホークブルク家の関連企業。
そこにゴリオシの支持者である愛国青年隊が、なだれ込むように敷地に侵入した。
「ゴリオシのために戦え!」
「嘘つきホークブルクを成敗しろ!」
偽りのスローガンを叫びながら、ハンマーや鉄パイプを手にして、建物のある場所へ向かっていく。
ただの暴徒集団にすぎないが、数だけは多く止めようもない。
狂信者達は自ら考えることなく、正体不明者の指示に従って行動していた。
それで日当や交通費が振り込まれ、人に危害を加えても恩赦で許されると思ってるので、罪悪感なしに暴力をふるえた。
しかも警察や治安部隊は一切動かない。「デモだから」という理由で、見て見ぬふりをされている。
一般人は巻き込まれることを恐れ、近づこうとはしなかった。法律は形だけ。
これが権力の恐ろしさである。
ガチャーン!
窓ガラスが割られ、ドアが叩き壊される。暴徒達は我先にと建物に押し入っていく。
手当たり次第に部屋を荒らし回るも、中はもぬけの殻で人っ子一人おらず、誰もが戸惑ってしまう。
「これは一体どうなってやがる⁈」
「分からん。場所は間違ってないはずだが……」
連絡用SNS「カオスリンク」を開くが、新たな指示はなかった。他の場所を襲った連中も、空振りに終わったらしい。
それどころか、ホークブルクとは無関係の企業を襲撃してしまい、大騒ぎになってしまう。
どうしてこうなったのか?
その理由は、ホークブルク家がすでに連合共和国から、姿を消していたからである。
離脱・独立宣言の数か月前から、脱出計画は密かに進められていた。
関係者や資産は少しずつ中立惑星に移され、拠点も順次閉鎖された。表向きは通常業務を装っていたため、共和国は最後まで気づかなかった。
ゴリオシ子飼いの、国家保安局もその動きを掴めなかった。
独立宣言と同時に、残っていた施設から撤収を完了させている。
しかし、「施設廃止届」はあえて後日届くようにしたので、登記簿はまだ変わっておらず、暴徒達は気づかずに騙されたと言っていい。
跡地や旧社屋は別の会社が買い取っていたので、被害を受けた企業は、愛国青年隊を告訴した。
「俺は知らん! アイツらが勝手にしたことだ!」
ゴリオシは彼らを庇おうとはせず、知らぬ存ぜぬを決め込んだ。
これは間違ったでは済まず、自分の立場が危うくなるので見捨てたのだ。
所詮使い捨ての駒にすぎない。
「話が違う!」
「ここから出せー!」
拘置所で叫んでも後の祭り。
逮捕された暴徒達は裁判にかけられ、多額の賠償責任まで負うことになった。
ただこの一件で、ゴリオシの支持者達は徐々に離れていくことになる。
それでも狂信者はまだ大勢いた。今度は新生惑星機構への潜入を図る。
しかし中立惑星を中心とする機構は、共和国と国交を結ぶ気はなく、入国は完全に拒否される。
損ばかりで何の利益にもならないから見限ったのだ。今さら共和国と手を組む気など、さらさらない。
それでも諦めず、
「こうなったら、密入国してやる!」
人道支援を掲げる「グローバル・ホイヒラー船団」が、無許可で宙域へ侵入した。
もちろん建前にすぎず、船に乗っていたのは、過激活動家を名乗るテロリストしかいない。
船はステルス装置を使っていたので、誰にも気づかれずに侵入できるはずだった。
だが――
『そこの不審船、停まりなさい!』
あっさり発見され、私設艦隊に拿捕されてしまう。
「な、なんでバレた⁈」
「警備が手薄な航路を選んだのに!」
船内は大騒ぎになる。
船に武装はなく、たった三隻では勝ち目はないので、停船命令に従うしかなかった。
やがて臨検部隊が艦内に踏み込んでくると、彼らは見苦しい言い訳を始めた。
「我々はホークブルク家に不当に苦しめられている貧民へ、援助物資を届けに来ただけだ! 拘束される理由はない!」
「そうだ、そうだ! 暴力反対!」
「ふざけるな! これのどこが援助物資だ!」
隊員が積み荷の箱を床にぶちまけると、
「重火器に爆弾、それに催涙ガスまで。どう見ても、テロ用装備一式じゃねえか!」
「…………」
自称活動家達はぐうの音も出ない。
彼らは不法入国を始め、爆発物取締法違反、銃器不法所持、テロ等準備罪など、数多くの容疑で逮捕された。罪状を上げたらきりがない。
人道的な取り調べの過程で、ゴリオシの関与が次々と明らかになったが、当人は声を荒げてこれを否定した。
「俺が直接命令した証拠はない! 取り調べで無理やり嘘を言わされたに決まっている! 全て、ホークブルク家のでっち上げだ!」
今回も手下を見捨て、賠償にも応じなかった。
その一方で、ゴリオシは国家保安局長を呼びつけ、怒鳴り散らしていた。
「何をやっている、この役立たず! 失敗ばかりしやがって!」
「……申し訳ございません」
「謝って済む問題か! 俺に恥をかかせるな、ボケ!」
局長は物を投げられても、平謝りするしかなかった。
どうしてこうなったのか? それは、諜報能力の差である。
ゴリオシは自らが支配する惑星ティラノスと、その傘下の惑星では絶対的な権力を握っていた。
そこでは暗殺や情報操作も思いのままだが、ホークブルク家が影響力を持つ、中立惑星群に力は及ばなかった。
ホークブルク家の情報局は、全宇宙に情報網を張り巡らせており、国家保安局では太刀打ちできなかった。
協力者の数も質も群を抜いている。しかも決して裏切らない。
それは買収されたからではなく、ホークブルク家が長年積み重ねてきた善行に報いるため、自ら進んで協力していたのである。
なので国家保安局の動きは筒抜けだった。情報はダダ漏れ。
その後も、偽ジャーナリストや闇医者などを送り込んで潜入を試みるが、ことごとくバレて失敗に終わる。
国家保安局長は更迭された。その後、二度と公の場に姿を現すことはなかった……。
怒り心頭のゴリオシは、次なる一手を考え始める。
テロ作戦が失敗した以上、より卑劣な手段に出るしかなかった。
「こうなったら、ホークブルク家の指導部を始末してやる。しかし、中立惑星に侵入すらできん。工作員がアルバートに近づくのも難しい…………仕方ない、アイツらを使うとするか」
苦々しい表情で、ゴリオシはある組織へ連絡した。特殊な通信アプリを使っている。
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そこは暗殺や破壊工作などを請け負う、闇組織だった。
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