集まれ、陰謀の杜
「ホークブルクの奴ら、ふざけやがって!」
「卑しい商人ごときが、我らと肩を並べられると思っているのか!」
「頭を下げて金を納めてればいいものの、独立だと⁈ 身の程をわきまえろ!」
「…………」
怒り狂っていたのは、共和国の主要惑星の上級評議員。
中央に位置する四大惑星の代表達が、ネット会議を開いていた。
バーチャル空間には、青々とした木々が立ち並び、小川が流れ鳥の声が響いていた。
現実と見分けがつかないほど美しい杜で、心が安らぐ景色である。
……しかし、集まった連中は大悪党ばかりだった。
面子はゴリオシ、マルクス、サロット、そして銀玉幻斎の四人。
最高評議長代理であるスベーナは、この会議に呼ばれてすらおらず、彼らにとって彼女も格下にすぎないのだ。
女だと侮り、見下している。
首星ワイロニアに協力する気はさらさらなく、自分達さえ甘い汁を吸えればそれでよかった。
もともと連合共和国は、統合組織としてのルールが曖昧で、結束力も責任感も乏しい。
加盟惑星は自国の利益を優先し、好き勝手に振る舞っていた。特に四大惑星は、特権にあぐらをかいていた。
「口は出すが、金は出さん」
「運営資金など、地方惑星から徴収すればいい」
そんな考えがまかり通っていたが、ホークブルク家の暴露した不正が決定打となり、地方惑星はついに反旗を翻した。
「ふざけんなー! 俺達はお前らの奴隷じゃねー!」
「賄賂に、横領に脱税! どれだけ私腹を肥やせば気が済む!」
「我が惑星は共和国から離脱し、新生惑星機構に加盟することをここに宣言する!」
アルバートの記者会見の後、離脱する惑星が相次ぎ、共和国は引き留めることすらできなかった。
「公開された不正の証拠はホークブルク家が捏造したものだ! 我々は断じて認めない!」
と騒いだところで誰も信じず、反証も出せなかったので、かえって不正を認めたようなものだった。
辺境惑星の離反は急加速し、共和国は急速に力を失っていく。
一番まずいのは、税を絞り取れなくなることではなく、経済圏を失うことだった。
特定の資源や特殊部品が一つでも入らなくなれば、機械が動かせなくなって生産ラインは止まり、労働者は仕事ができなくなる。
続いて起こるのは物価の高騰だ。品不足が広がり、人々の暮らしはますます苦しくなる。
離脱した惑星の中には資源惑星や工業惑星もあって、すでに影響が出始めていた。
これには四人の上級評議員達も危機感を抱き、バーチャル会議を開くことになった。
しかし、口から出るのはホークブルク家への悪口ばかりで、対策を打ち出すこともできず時間だけが過ぎていく。
「ひとまず休憩にしよう。どう対処すべきか、何か案をまとめるべきではないか? 諸君らのとこにも国家戦略AIがあるだろう。それに聞いてみるといい」
「そうだな、こうしていても埒が明かない」
幻斎の提案に評議員達は賛成した。
――数時間後、閣僚との相談を終えた四人が席に戻った。
ゴリオシが腹立たしげに口を開く。
「AIは『地方惑星に頭を下げろ』と抜かしやがった。莫大な予算をかけたのに、まるで使えん機械だ!」
「うちのAIも同じ答えだが、それが嫌なら戦争を仕掛けるしかなく、勝てたとしても被害が大きく、かえって損をするとの計算だ」
「はあ……だったら、どうすりゃいいんだ?」
AIは至極真っ当な答えをだしたのだが、支配者が望むような回答ではなく、他人に頭を下げるなどあり得ない。
会議の空気が重くなる中、幻斎は言った。
「敵はホークブルク家だけではない。知っての通り遠方ではレガリア軍が侵攻を始め、三姉妹率いる辺境星防衛軍も独立の動きを見せている。すでに納税を拒否している以上、もう反乱だ。このままでは、いずれ中央まで攻め込んでくるぞ」
「三つの反逆者共を相手にせねばならんのか……」
「しかも猶予はないな……」
「それにしても、軍閥どもは使えん! 盾代わりにもならんとは!」
どっちもどっちだった。会議はまたしても停滞する。
幻斎は言う。
「一つずつ片付けていくしかあるまい。まず三姉妹を相手にするのは無謀で、あれに勝てる者はいないだろう。次にレガリア軍だが、元帝国軍だけあって精強だ。戦うべきではない。残るはホークブルク家となるが、私設軍隊と直接戦うのは危険だ。しかし……」
三人は銀玉の次の言葉を待った。
「他に比べたら、戦力が少ないので勝算はある。かといって虎の子である、中央護国艦隊を動かすわけにはいかん。そこで我々が直接手を下すのではなく、荒事を生業とする連中をぶつけるのはどうだろうか?」
幻斎はゴリオシに視線を向けた。
「……なるほどな。俺のとこの国家保安局と愛国青年隊を使うわけか? 狂信的な支持者はごまんといるからな。あー何をしでかすか分からんし、俺は一切関知せん。ホークブルク家はこれから、不幸な事故が続くことになるだろう。ふっふっふ」
「それは可哀想にな、ご愁傷様と先に言っておこう。はっはっは!」
ゴリオシは己の地位を守るため、対立候補を公然と、あるいは裏から排除してきたのだ。
暗殺・脅迫・票の改ざんと、あらゆる手段を使っている。
民主主義を掲げているが、その実態はただの独裁者である。
マルクスとサロットも同類だ。この世に正義はない。
「その計画に賛成する。脅えた辺境惑星どもは、我々の元へ戻ってくるだろう。そうなれば軍費を支払わせ、強制徴兵もしてやる」
「そして、三姉妹との戦いに駆り出すわけか。実にいい考えだ、くくくくく」
彼らにとって、辺境惑星の住民など家畜に過ぎず、何人犠牲になろうが気にもしない。
これで会議は終了となり、ゴリオシは早速動きだしていた。もはや勝った気でいる。
それを見ながら、幻斎はつぶやく。
「……果たして、そう簡単に上手くいくかな?」
他の三人が楽観視する中、幻斎だけはホークブルク家を甘く見ていなかった。
そして彼らはまだ知らない。
ホークブルク家の背後には、恐るべきエスパーと天女団がいることを。
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