宇宙を揺るがす声明
俺は基地の無線とネット回線を使い、全軍に通達した。
『天女団はホークブルク家と和平協定を結ぶこととなった。明日のために、過去のことは水に流す。条約に基づき、開拓船団が順次ココに来る予定だ。各隊は受け入れ準備を進めてくれ。窓口はホセリア代表とクララ先生なので、何かあれば相談するといい。これから忙しくなるだろうが、みんなよろしく頼む』
「了解!」
皆生き生きと、仕事に取り組んでいた。特に静香と志乃は大忙しだ。
侵攻計画から開発計画に変わったので、最初からやり直しになる。
やってくる開発団体が大半の仕事をしてくれるだろうが、建設地の選定や現場の支援部隊の割り振りは必要だ。
大変な作業だが、二人の顔は明るい。
「敵から奪うよりずっと実入りが大きいから、これくらい苦にならないわよ、アラシ」
「軍事と違って本部AIに任せられますし、何より全員参加できるので、戦のように人選で悩まなくて済みます。かなり楽ですよ、司令」
「そうか、味方に犠牲が出る心配もないしな。無理しないで頑張ってくれ」
俺は二人の元を離れた。方針を決めたら、あとは部下に任せるだけ。
その上で現場を見て回り、問題がないかを確認する。全てを丸投げして、後から事件や事故が起きてからでは手遅れだからだ。
どこぞの政府や企業のように、無責任な者にはなりたくない。
まあ超能力があるおかげで、危険を察知できるし、念力で対処もできる。
俺は傭兵団のアジトから助けた者達のところへやってきた。
女性と子供全員に集まってもらう。
「そろそろ、みんなに今後の身の振り方を決めてもらいたい。ホークブルク家の保護団体には話を通してるから、希望者は受け入れてもらえることになった。ここに残るのもよし、新しい土地で暮らすのも自由だ。できるだけ支援させてもらう」
すかさず代表の女性が言ってくる。すでに相談して決めていたようだ。
「できれば、このままここに置いてください。私達に身寄りはなく行く当てもありません。それに、今の宇宙でこの星ほど安全な場所はないでしょう。食事の心配もありませんし、どうかこれからも働かせてください」
「僕達も残りたいです。親の顔も知らないし、お姉ちゃん達と離れたくありません。いつか近衛隊に入って、アラシ兄ちゃんに恩返しをしたい」
「そうか、分かった。ならば今まで通り働いてくれ。あと教師もくる予定だから、みんな勉強するように。俺の役に立ちたいなら、しっかり学べ」
「うええー……」
「はーい!」
不満そうな声と元気な返事が上がり、笑いがおきた。
次に俺は通信室へ向かう。
「……ええ、はい、よろしくお願いします」
ここにホセリアがこもりきりで、グループ会社の担当者達と、ひっきりなしに連絡を取り合っていた。
真面目なのは感心するが、激務で体を壊したら元も子もなく、少し心配になってくる。
天女団の中にも仕事中毒がいるので、働きすぎてる者は無理矢理休ませている。
だからこそ、俺の仕事は見回りなのだ。ホセリアにも忠告する。
「いい加減、休んだらどうだ。働き過ぎだぞ、倒れられては困る。協定は結んだし、一度実家に帰ったらいいんじゃないのか?」
「お気遣いありがとうございます。ですが、私はここに骨を埋める覚悟で参りました。もう実家へ戻るつもりはありません」
「おいおい……」
ホセリアの覚悟は生半可ではなかった。事業が始まらないうちは、安心できないのだろう。
自分の身を約束の担保にしている。自ら人質になりに来たようなものだった。
そこまでする必要はないと思ってるが、ホセリアは頑固なので、俺の言うことを聞きそうもない。
そこでクララ先生に頼むことにした。仲が良いので、少しは耳を傾けてくれるだろう。
また、奸智にたけた弥生にも頼んだ。頭の良い者には頭の良い者をぶつけるしかなく、そして少しひねた考えが必要だった。
「ふふふ……わかった、アラシ。ようはホセリアを休ませればいいんだな?」
「……ああ、そうだ」
不安だったが、弥生は見事に――いや、劇薬じみたやり方で問題を解決してみせた。
悪知恵を働かせた弥生は、建設予定地の視察と称してホセリアを引っ張り回し、へとへとに疲れさせて眠らせたのである。
いくら頭が冴えていても、長時間歩き回れば体は正直だ。最後はぐっすりと寝るしかなかった。
「……睡眠薬を盛る手もある」
「それはやめろ」
成果はあったが、代償も大きかった。やはり弥生はヤバいな。
――それから数日後。
第一次輸送船団が到着する頃、ホークブルク家から重大な発表が行われることになった。
それは全宇宙へ向けた生放送による声明で、多くの人々の注目を集めることとなる。
俺達も新たに配備された超距離通信衛星で、その発表を見守っていた。
モニター越しの記者会見場に映ったのは、ホセリアの父であるアルバート・ホークブルク。
見たところ相当なやり手だ。立っているだけで圧するような存在感があった。
やはり、ホセリアの父親だけのことはある。
代々の婿養子は優秀だが、直系の男子はろくでなしばかりだと、ホセリアは吐き捨てるように言っていた。
愚兄の尻拭いにココにきたので、その気持ちは分かる。
マイクの前で、アルバートは口を開く。
『前置きはおいて、先に結論を申し上げる。我がホークブルク家は、独立連合共和国と決別する!』
『おおっ!』
会場内はどよめきが起こり、フラッシュが激しく明滅した。
『今ここで共和国を断罪する。時空歪曲事変に対して責任もとらず、軍閥の横暴を放置し多くの民を苦しめた。あまつさえ、荒廃した地方惑星の復興を後回しにし増税を強いた。我々の救援活動にすら金を取ろうとする始末だ。どこまで民を苦しめれば気が済むというのか! 我々ホークブルク家は、腐敗した国家と歩むつもりはない。本日をもって共和国と決別し、新たな道を歩むことをここに宣言する!』
宇宙中がざわめく中、アルバートは続けた。
『共和国の大罪はそれだけではない。悪徳政治家どもは各企業から賄賂を受け取り、その見返りに国政を歪めてきた。もちろん証拠はすべて揃っている。後ほど全てを公開する予定だ。本来汚職を取り調べるはずの、軍警察の怠慢も目に余る。なにせグルだからな。特にひどいのは軍と結託した兵器企業だ。数は多いが、あえて二社の名を挙げる』
『どこの会社ですか?』
記者の質問が飛ぶ。
『それは、ハカイダー・ダイナミクス社とブソウ・インダストリーである。この二社は、パワードスーツ開発と称して出資を募り、その裏で禁断の女のホムンクルスを作って、戦わせていた。しかも戦争博打を行っており、後で慰み物にするつもりだった』
『まじか……』
『それは人道違反じゃないか!』
会場内は大騒ぎになってしまい、しばらく収拾がつかなくなる。
俺達は黙って聞いていた。
『これにも証拠はある。なにせ、我が一族の者が関わっていたからな。ホムンクルスの軍隊である天女団の皆様に対し、心より深くお詫び申し上げる』
アルバートが頭を下げたので誰もが驚いていた。それは俺達も同じ。
これだけ大々的に、謝罪するとは思わなかった。恐らく現当主の意向だろう。
「こんだけ詫びを入れられたら、許すしかねえよな? 大将」
「そうだな紅美。むしろこっちが返さないと、割にあわなくなった」
「……借りを返さないと、女が廃る」
「まったくであります!」
他にも関わった者達の実名が読み上げられ、これで共和国と兵器会社は大恥をかくことになった。
否定しても誰も信じないだろう。
もはや国の信用は地に落ちた。いや、すでにどん底かもしれない。少し胸のすく思いだ。
演説はしばらく続き、アルバートはこう締めくくった。
『我らに賛同した中立惑星と、共和国より離脱した辺境惑星は、ここに新生惑星機構の成立を宣言する!』
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