モノローグ レグナス
俺の名は、レグナス・レギオン。
レガリア星の一領主に過ぎなかったが、今はこの宇宙に覇を唱える者だ。
まずは近くの中立惑星デルデルを掌握し、ここを足がかりにして、他の星に侵略を進めている。
「閣下、侵略ではありません。人聞きが悪い。あくまでも進出と救済です」
我が友で軍師でもある真田真之が、すかさず口を挟んできた。どうやら俺の言い方が気に入らなかったらしい。
軍議の最中に始まったドツキ漫才に、将軍達は笑っていた。
「どこが違うんだ?」
「我々は役立たずの共和国に成り代わり、海賊を排除して治安を守り、物流を安定させ、復興にも力を注いでいます。平和的な共存関係なので、占領も征服もしてはいません」
「半ば脅して用心棒を買って出たようなものだろ? 何と言ったかな……ああ、ヤクザだったな。みかじめ料のように、金を民からむしり取っているじゃないか?」
「軍の維持には費用がかかりますから、感謝料として国から頂いてるだけです。向こうで言うところの『思いやり予算』なので、決して無理矢理貰ってるわけではありません」
「払わなかった国はどうなる?」
「防衛の優先順位が下がるかもしれませんな。海賊襲撃時の救援に遅れがでるかも」
「脅しているようにしか聞こえんぞ。やっぱり俺達はヤクザだな」
「いえいえ閣下、本来任侠というのは弱きを助け強きをくじくもので、民から頼りにされる存在なのですよ。我々は義理人情に厚い軍隊です」
「コイツ、開きなおりやがった……」
「お褒めにあずかり光栄です」
「褒めておらん」
俺達の問答は将軍達に止められた。
「ぶはははははははははは!」
「閣下、軍師殿。もうその辺で勘弁してくだされ。腹が痛くてたまらん」
「戦をしてるかぎり、誹謗中傷されるのは当たり前、それでも人を助けた数だけ笑顔も増えていく。それで十分ではないでしょうか?」
「我々の評価は後世に任せましょう。ヤクザのヒーローでも良いではありませんか」
俺は笑いながら詫びる
「皆すまない、少し脱線しすぎたようだ。少し自虐的になるのは許してもらいたい。それで現在の状況はどうだ? 軍師」
「無人の囮輸送船と待ち伏せ作戦にひっかかり、海賊達は次々と撃破されております。これも将軍方の指揮によるものでしょう。実にお見事な働きです」
「そうか、皆よくやってくれた。将軍達の忠義と奮戦に、深く感謝する」
「いえいえ、閣下。陰の功労者は軍師殿ですよ」
「全くその通りですな。我らの勝利は、軍師殿の策略と敵情報の提供があってのもの」
「いえいえ、私は特に何もしてはおりませんよ。危険な前線で戦ったのは将軍方です」
真之は謙遜し、功を誇らなかった。もともとそういう性格なのだ。
実際、軍師直属の情報機関、幽霊・隠密・渡り巫女がいなければ、全ての作戦は成り立たなかった。
情報は力である。行き当たりばったりの海賊とは違い、我々は戦う前に勝っているのだ。
さらに戦闘映像を各惑星に流して、政治宣伝も行う。
海賊艦が爆破炎上する様子は、市民からすれば実に痛快だろう。溜飲も下がる。
映像は臨場感と高揚感を与え、人々の心を一つにする。真之は言う。
「ことさらに正義を語る必要はありません。海賊を打ち倒す姿を見せるだけで、人々は自然と我々を支持してくれます」
「そして俺は正義の味方を演じるわけか。やれやれ」
「そうですよ、閣下。役者顔負けの容姿なのですから、爽やかに笑って、愛想を振りまいてください。民衆は強くて格好いい英雄が大好きですから」
「まるで見世物だな、これでは道化だよ」
「政治とはそういうものです。民を恐怖で従わせるより百倍ましです。ファン倶楽部ができたらしめたもの。好感度があれば支配されても、文句一つ言わなくなりますよ」
「お前、腹黒いな……」
「いえいえ、それほどでも」
友とのやりとりはいつもこんな調子だった。
茶化してはいるものの、その助言は非情なほど合理的で、最も効率的な方法だった。
また俺が情に流されるのを窘めている。友の忠言は耳に痛いが、甘言を並べる者よりはるかにマシだ。
その裏で汚い仕事をさせてるので、済まないと思う。
海賊を捕まえて情報を吐かせたり、発信器を埋め込んで泳がせたり、顔を変えた工作員を送り込んだりと、かなりヤバい手段を用いている。
綺麗ごとだけでは戦には勝てない。宇宙を制覇せんと望むなら、それは覚悟の上だ。
ただ全ての汚名を背負おうとする友に対し、いずれ何か報いたいと思っている。
まあ当人は拒否するだろうが。
支配宙域が順調に広がる中、ある艦隊と遭遇した。我らの管轄宙域への無断侵入なので、警告をしたが無視されたため攻撃に踏み切った。
その艦隊は統率がまるで取れておらず、動きもバラバラだった。我らの敵となるような相手ではなく、戦いはあっという間に方がついた。
慌てぶりから見るに、何かから逃げてきたのかもしれない。
そして探知オペレーターが声を上げる。
「閣下、さらに新たな艦隊が接近しています!」
「そうか、先ほどの艦隊を追ってきたのだろう。回線を開け、向こうの指揮官と直接話す」
モニターに現れたのは、うら若い女性だった。美人なのは確かだが、目を奪われるような魅力を持っていた。
凜として気高い。俺は名乗って警告した後、しばらく彼女に見とれてしまった。
「私の名はサラ・イシュタール。こちらに交戦の意思はなく、速やかにこの宙域から離脱する」
「サラ司令の武運を祈る」
互いに敬礼して話はついた。艦数はこちらが多いが、無意味な戦いをする気はなかった。
なにより彼女を失うのは惜しい。去るのを艦橋で見送った後、軍師が淡々と告げる。
「命拾いしましたな、閣下。今のが軍閥を潰して回っている、魔女姉妹の長女ですよ。もし戦っていたら、被害は相当な物になったでしょう」
「なにっ、あれが噂の⁈ この宇宙で三姉妹を知らぬ者はおらず、その名を聞くだけで、共和国軍は震え上がる。だから警告を無視してまで、海賊が逃げ込んでくるわけだ」
「今となっては、彼女らが宇宙最強エスパーでしょう。決して敵に回されぬよう進言いたします」
「そうだな、ならば俺の妻にしよう」
「はあ⁈ 正気ですか、閣下?」
いつも冷静な真之が慌てたので、少し気が晴れる。
かなり驚いたようだ。
「有能な敵は味方にすべし、と軍師は常に言ってるじゃないか。結婚ほど強固な結びつきはないし、彼女らを味方につけたとなれば、他の勢力も手を出しにくくなる。もっとも合理的な手段じゃないか? ふふふふふ」
「相手にもよりますよ。そう簡単にアレが落とせるとは思いません」
「いいじゃないか。苦労があってこそ、手に入れた時の喜びも大きくなる。何より、俺は彼女が気に入った。どんな手を使ってでも手に入れたい」
「やれやれ、ご随意に」
真之は呆れかえっていた。止めたところで無駄だと分かっているのだろう。
俺も頑固で欲深いからな。宇宙もサラも手に入れてみせる!
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