モノローグ ホセリア3
二日後、私は炊事班の皆さんの前に立っていました。場所は基地の大食堂。
隊員達の食事を一手に担う重要な部隊で、人数はかなり多いです。
炊事班の隊長は総料理長でもある、月城椿さんです。
天女団の中では比較的おとなしい方だと聞いていますが、一度キレると誰にも止められず、爆弾を投げ始めるそうです……あくまで噂ですが。
さらに料理に対しては非常に厳しく、一切の妥協を許しません。
真面目な性格なのでしょう。実際、出された料理はどれも美味しかったです。
そんな相手に生半可な話は通用しませんね。私は気を引き締め、提案説明を始めます。
まずは挨拶をしました。
「皆さん、お忙しいところ申し訳ありません。なるべく、手短に済ませますのでよろしくお願いします」
パチパチと、まばらに拍手がなりました。
親衛隊と両大尉が賛成に回ってくださったので、もう罵声にさらされることはありません。
ただ炊事班の皆さんは毎日の献立を考え、仕込みもするので非常に忙しく、話を聞いている時間すら惜しいようです。
長々と前置きをしている時間はなく、私はさっそく本題に入ることにします。
「炊事班の皆さん、本日ご紹介するのはこちら! 最新式・全自動調理システムです」
今回も後ろにおいた大型モニターに、商品映像を流します。
「まずは全自動野菜カッター! ニンジン、タマネギ、ジャガイモ、何でもござれ! 食材を投入するだけで、千切り、みじん切り、乱切りまで自由自在! 面倒な皮むきもやってくれます!」
「これは楽になりそう! 欲しいわ」
「まだまだ終わりません! こちらは自動攪拌機能付き大型釜! 煮込み料理を作る際、人が何時間もかき混ぜる必要はありません! 焦げ付き防止機能付き! しかも火力自動調整! ちょっと目を離しても大丈夫!」
「…なん…だと⁈」
「続いてご紹介するのはこちら! 回転ドラム式炒め調理ロボットです! 食材は内部で均一にかき混ぜられ、加熱ムラも少なく、大量調理でも安定した仕上がりを実現! AI制御で、焦げ付きや加熱不足を防ぎます!」
「なんと⁈」
「もう重たい鍋を振る必要はありません。腕力不要、腰への負担も大幅軽減! 炒め物はもちろん、焼きそば、チャーハン、野菜炒め、大量の肉料理まで対応可能! 一度に百人前、二百人前の調理も可能です!」
「す、凄い!」
「皆さん、いかがでしょうか? 今なら包丁セットとレシピ集が付いてきます!」
誰もが絶句する中、月城隊長が口を開きます。
「もう十分でありますよ、ホセリア殿。今はほとんど手作業で、自分達のまかないを作るのも大変なので、自動調理機を頂けるのは本当にありがたい。炊事班は停戦に、賛成するであります」
「我らは総料理長に従います!」
「うんうん! 毎日大量に作るからね」
私は頭を下げてから、話を続けます。
「皆様ありがとうございます。ですが、まだ終わりじゃありません! 味の決め手となる、調味料が欲しくありませんか? 香辛料があればカレーが作れますよ!」
「うっ! それは喉から手が出るほど欲しいであります。南部基地では少ししか取れないので作れない。美味しいカレーをアラシ殿に、食べていただきたいであります」
「そこで、香辛料の栽培地や農園を造りませんか? 我がグループがお手伝いいたします。開墾はもちろん、栽培技術の提供から苗や種の調達、加工設備の整備まで、全面的に支援いたします!」
「うおおおおお!」
食堂は一気に盛り上がりました。料理人であれば、その価値が分かるからです。
きっと試してみたいことが山ほどあるのでしょう。調味料は宝ですから。
椿さんは両手を挙げて言いました。
「ここまでされては、降参であります」
こうして賛成は六割に増えました。天女団の皆さんはアラシ司令のために動くので、その「利」になることを提示したのです。
それは長く使い続けられる道具でした。
ただ機械の整備や部品交換は欠かせませんので、グループ会社の技術者を派遣し、保守点検をさせます。
なので機械が必要とされている限り、争いは再開されません。我ながら知恵が回ります。
一応私は策士ですから、うふふふ。
私達は次に、列車で農園基地に向かいます。
景色を眺めていると建物はみあたらず、緑の大地がどこまでも広がっていて、不思議と気持ちが穏やかになります。
私はクララさんと話します。
「高層ビルや建物が並ぶ市街地とは違い、車の走る音も聞こえないので、慌ただしい日々を忘れさせてくれますね」
「ええ、本当にここは平和です。軍閥との争いもなく、銃声に怯えることもありません。荒れ果ててしまった惑星と違って豊かです。だからこそ、土足で踏みにじろうとする輩が許せないのでしょう」
「そうですね、ホセリアさん。だから天女団が動かないように、寄ってくる火の粉は、早めに消さねばなりません。もしアラシ司令が怒って本気を出したら、この世は終わりです」
私はうんうんと肯きました。クララさんも、宇宙の平和を望んでるので本気です。
やがて私達は農園基地に到着しました。とにかく広い。
見渡す限り畑が広がっており、はるか彼方まで続いています。田んぼもあります。
家畜小屋には牛や豚・羊・鶏が飼育されていました。さらに養蜂も行われており、たくさんの巣箱が並べられています。
アラシさんの指揮のもと、ここまで発展したそうです。
他の場所にも農園はあると聞いたので、天女団で使う食料は十分にあるでしょう。
備蓄もあると聞きました。裏をかえせば、いつでも攻めにいけるということです。
雨天で畑仕事ができない日に、農務兵の方々に大型倉庫へ集まっていただきました。
私の都合だけでお話するわけにはいかないので、この日まで待ちました。
農業部隊長で古参である、畑山花子さんは言ってきます。
「お話は聞いてます。もう大尉達が賛成しておられるんで、私ら農務兵も停戦賛成に回りますだ。あとは少しでも、作業が楽になる機械をいただければ、ありがてえですだ」
農務兵の皆さんはあまり戦いを好まないそうなので、話はすぐにまとまりました。
ただし、あとで不満やクレームが出ないよう、納得してもらう必要があります。
「ありがとうございます。それでは早速商品を、ご紹介させていただきます! まずはこちら、百姓ロボ・タガヤス君です。耕し・種まき・雑草取り・肥料散布とこれ一台で十分。皆さんはお茶を飲みながら休んでください。タガヤス君が朝から晩まで働き続けます!」
「こんなのも、あるんだなや」
「さらに対となる収穫ロボット・モギモギ君です。熟した作物を自動で見分け、収穫し、選別しコンテナへと積み込みます。農務兵の皆さんは命令するだけで、楽ちん!」
「これは、すげえだ」
「あと家畜の世話をする機械もありますが、皆様害獣でお困りではないでしょうか?」
「うう、確かに。農園が広がるにつれて、害獣被害もひどくなってきた」
「鳥は仕方ないとしても、畑が荒らされてるのを見ると、殺意を覚える。せっかく育てたのに」
「皆さんご安心ください。全自動害獣撃退システム『ガーディアン・スケアクロウⅧ』がお悩みを解決いたします! 半径十キロ圏内の生体反応を常時監視! 猪や鹿、そして謎の巨大ウサギも見逃しません!」
「おおっ!」
「害獣を発見した瞬間、ロボット番犬のシルバーファングが即座に出動、凄まじい速さで向かい、畑へ近づく前に追い払います。まずは吠えて威嚇、それでも立ち去らない獣には制裁を加えます。熊にも怯まず必殺技を繰り出します! 銀……勝てるものはいません!」
「それらを頂けるのであれば助かりますね。ありがとうございます」
花子さんは頭を下げてきました。
「いえ、これは前置きにすぎません。ここからが本題で、皆様に是非ご提案したいものがあります。それは、農業にとって欠かせない水です」
「あっ! 今は川から水を引いてますが、農地が広がったので足りなくなってきました」
「そこで用水路や貯水池を作る、灌漑工事を私どもにお任せ願いたいのです。完成すれば安定した収穫が見込めます。また治水のためにダムも建設したいです。完成まで数年はかかると思いますが、水不足や洪水対策のためにも是非!」
「収穫だけでなく、災害対策まで考えているとは……」
「日照りも洪水も怖くなくなるわ」
「いやぁ、こりゃ参りましただ、ホセリアさん」
農務兵の皆さんは納得してくださり、これで七割が賛成してくれました。
これも私の策でインフラ事業を請け負うことにより、戦いから遠ざける狙いがあります。
もちろん、わざと工期を遅らせたりはしません。信用を得るのが第一ですから。
残りはあと少し。
この作品がお気に召したら、応援・評価をいただけると幸いです。
笑っていただければ幸いです。




