モノローグ ホセリア4
私達は他の農園にも足を運び、丁寧に説明をして賛同を得ていきました。
多少時間がかかっても、一人一人に声をかけて回ります。
誰かをないがしろにすれば、みんなの信頼を失います。まだ交渉は終わってませんので、気は抜けません。
そして基地に戻り、野外演習場へとやってきます。ここでは天女団の皆さんが、日々訓練に励んでいました。
ランニング・筋トレ・格闘訓練などを行っています。
皆さんは快く集まってくださいましたが、説得するとなると一番の難敵かもしれません。
その理由は、口より先に手がでるタイプなので、くどくど説明しても理解してもらえないからです。
いわゆる脳筋……失礼。かなり厄介です。
「おう、とっとと始めてくれや」
「早くするニャ!」
リーダー格の久遠軍曹と、獣人の夏美さんが急かしてきます……気も短い。
例によって後ろのモニターに動画をながしますが、今回は回りくどい言い方はしません。
「はい、皆さんにお勧めしたいのはスポーツです。毎日同じ特訓では飽きてきませんか? 体を鍛える方法は軍事訓練だけではありません。スポーツなら楽しみながらも体力や持久力を養えますし、仲間との連携も強化できます」
「ほう」
「特におすすめしたいのは、バレーボールやバスケットボールで、バレーの醍醐味はやはりスパイクでしょう。仲間が上げてくれたボールを思い切り叩き込み、相手コートに突き刺さった時の爽快感は格別です。一方のバスケットボールは、仲間同士でパスをつないでシュートし、ゴールが決まった瞬間は気持ちがいいものです。運動神経の良い皆さんなら、すぐに上達するでしょう」
私はさりげなくおだてておきます。
動画を食い入るように見てるので、興味は持っていただけたようです。
「楽しそうだニャ」
「他にもトレーニンググッズや、トランポリンなどの運動器具を進呈いたします。これさえあれば、鍛え方の幅も大きく広がりますよ。皆さんどうでしょうか?」
「うーん、スポーツをやってみたいとは思うが、今ひとつ決め手に欠けるな」
「悪くはないんだが、なんかこう熱くなるものが欲しいんだよ」
この要望に対し、私は自信たっぷりに答えました。これは想定済みなのです。
「あつくなれるものはあります!」
「なにっ⁈」
「皆さん、お酒はお好きですよね? 訓練を終えた後に飲む生ビールは格別です。汗を流したあとの一杯は、まさに頑張った自分へのご褒美でしょう。しかし、お酒の在庫はそれほど多くないのではありませんか?」
「ああ、アタイらだけじゃなくて、みんなで飲むからな。分捕ってきた酒も、気がつけばあっという間になくなっちまう。貴重品でたまにしか飲めん」
「もっと飲みたいニャ」
「うんうん、そうだな」
「分かります。美味しくてやめられませんからね。そこでビール醸造所を造りませんか? 原料の栽培から醸造まで、一貫して行える設備をご用意します。これなら戦利品に頼らずとも、安定してビールを確保できます」
「お、おい! それって好きな時に飲めるってことか?」
「はい生産量次第ですが、今よりも余裕ができるでしょう」
「駄目だ、聞いているうちに飲みたくなってきた」
「ぐぬぬぬ、これはアンタに賛成するしかないのか……」
「まだ、あります! 今回特別なお酒を用意しましたので、試しに飲んでみてください」
私はここで切り札を出します。本日の隊員達の飲酒は、両大尉から許可を得ています。
用意したテーブルにはたくさんのぐい呑みが並び、クララさんが一升瓶から酒を注いでくれました。
「どうぞ、どうぞ」
「おいおい、なんだこれ? 透明じゃねえか。まさか水じゃないだろうな?」
「いえいえ、口にしていただければ分かります」
久遠軍曹が半信半疑のまま口に含むと、
「なんじゃこりゃあ‼ 体が熱くなりやがる!」
「いい香りで甘い、うめえじゃねえか!」
「滅茶苦茶美味いニャ!」
一気に飲んべえ……酒豪さん達の心をわしづかみにしました。
ふふふ、飲んでしまえばこっちのもの。
「これは、ニホン酒といいます。はるか銀河の彼方からやってきた、杜氏という方達が広めた酒です。一般には出回っておらず幻の酒で、材料は水・米・麹と少ないですがかなりの技術が必要です。皆さんいかがでしょう。ここでニホン酒造りに挑戦してみませんか?」
「分かった、賛成する! 早く醸造所を建ててくれ!」
「手伝うニャ!」
「ありがとうございます」
すでに軍曹達は出来上がってましたが、これで八割の賛成を得ることに成功しました。
ひとまずは安心しましたが、まだラスボスが残っています。
そして私は、アラシさんとの二度目の交渉に挑みます。
簡素な司令室の中で、私とアラシさんの二人きりでした。椅子に腰掛けて向かい合い、言葉を交わします。
アラシさんは笑いながら、言ってきます。
「わずか半月で仲間達の支持を得るとは、大したものだ。約束通り、ホークブルク家と停戦――いや休戦をしよう。多少の条件のすり合わせは必要だが、こちらから攻め込むことはない」
「ありがとうございます司令。ですがまだ終わっていません。隊員の皆様には納得して頂きましたが、天女団の総司令であるアラシさんを、私は口説き落としていません!」
「はあー⁈」
アラシさんはビックリしたようです。
「もちろん何もお望みでないことは、重々承知していますが、防衛兵器はいかがでしょうか? この惑星を守るために‼」
「……ぬう、そうきたか。確かに俺だけじゃ、みんなを守り切れる自信はない。ちなみにどんなものがあるんだ?」
「よくぞ、お聞きくださいました! まずは哨戒艦スレイプニルです。高性能AIを搭載しており、自動で星系内を巡回。不審船を発見すると、即時に連絡してきます。ステルス艦も見逃しません! 食料も給料も休暇も必要なく、任務を遂行します! 推進剤いらずで、ソーラーセイルとイオンエンジンにより長期間の活動が可能!」
「お、おう」
「そして敵艦の迎撃にあたるのは、聖槍高速艦クルセイダーです。敵にめがけてまっしぐら、強力な長距離ミサイルと高出力レーザー砲で遠くから袋叩きにします。また機雷コンテナポッドを射出して、敵艦隊の足止めも可能です」
「す、すごいな……」
「さらに軌道上には防衛衛星、地上には対空防衛ミサイルを配備いたします。これで守りは盤石でしょう。不意の襲撃にも慌てる必要はありません。いかがでしょうか? アラシさん!」
私のあまりの勢いに、アラシさんは目を丸くしていました。
やはり少し焦ってるせいですね。
「……もらえるのはありがたいが、約束した内容も含めると、とんでもない額になっているぞ? あまりにも規模が大きい。なぜそこまでするんだ?」
私は姿勢を正して、正直に答えます。嘘は言えません。
「お望みであれば、惑星の一つや二つ差し上げるつもりでした。もし天女団が遠征に乗り出せば、被害額は甚大なものになり、大勢の人が犠牲になります。それに比べたら惑星開拓など安いものです。正直、私達はアラシさんが恐いのです。だから平和な生活を提供したかった。皆さんが戦わず済むように……」
私の話を聞くと、アラシさんは目をつむって考えていました。
きっと明晰な頭脳がフル回転してるでしょう。
「そういうことか……子供の俺にブルートが怯えた理由もわかった。今は大して強くもないが、力あるものに人は脅えるか。また次元破壊弾でも使われたら、みんなが巻き添えになっちまう。俺の存在はなるべく秘匿しよう。ホセリアの懸念は分かった。だが……」
「はい」
「ホークブルク家とは争わないと約束できる。しかし兵器会社と共和国は別だ。国家や企業には、立場と面子があるから絶対に謝ったりはしない。醜聞をもみ消すために、必ずココに攻めてくるぞ。その時は戦火が広がろうが、容赦はしない」
「……そうですね。連合共和国の軍事力は衰えましたが、政情は不安定なままで、いつ誰が暴走するかわかりません。その時、ホークブルク家はアラシさんのお力になります。これに関しましても、お爺様に考えがあるようです」
「そうか、ホセリアの信用はもう十分だ。天女団は今後、専守防衛を方針とする。こちらから仕掛けることはしない。手を出されない限り、戦わないと約束しよう」
「本当にありがとうございました。アラシさん」
こうして和平交渉は無事成功に終わりました。しかし、不安の種は残ったままです。
この世は星紀末、平穏な日々は遠い過去のものとなりました。
それでも私はアラシさんに希望を見いだしています。
人のために行動するその姿が、未来への光に思えるのです。
これにて第二章は終わりです。あとの展開どうしよう。
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