和睦の使者は、女ひとり
……とまあ意気込んでは見たものの、そう簡単には攻めにいけない。
調べてみたところ関連企業だけでも数千社はあり、私設軍隊もあるので、うかつに手はだせない。
依頼した馬鹿は行方不明。探すのは時間の無駄なので、ケジメは一族にとらせる。
ならば、こちらに近い惑星を選抜して、最も実入りの大きい場所へ物資を奪いに向かう。
破壊するだけが戦争ではない。長期戦を見据え、いかに兵站を維持させるかが、勝敗を左右する。
天女団の兵数は少ないが、向こうもそれほど戦力は多くない。
こっちは惑星を占領せずに、ゲリラ戦で略奪を繰り返せば、守る場所が多い敵は疲弊していくだろう。消耗戦だ。
また情報を集めて大将首も狙うつもりだ。標的はホークブルク家の当主。
守りは固いだろうが陽動にもなるし、成功すれば指揮系統は大混乱し、一族で跡目争いが始まるはず。
となればこちらが圧倒的に有利になるので、この手を使わない理由はない。
俺が単身で乗り込み暗殺してやる。善人だろうが爺だろうが関係ない。
もう戦争状態なのだ。宣戦布告もなしに仕掛けてきたのは、向こうなのだから文句は言えまい。
俺は静香・志乃・琴音達と何度も作戦会議を重ね、小隊長らの意見も聞く。
本部AIには効率的な作戦を立案させ、その内容を皆で検討した。
攻めることに反対する者はおらず、その日に備えて訓練を頑張っている。
「どうせまた、誰か雇って攻めてくるんだろ? その前にコッチから殴りこんでやれ!」
「ああ、金持ちは信用ならん! ぶち殺してやる!」
仲間達のその思いは当然だった。
しばらくするとブルートから連絡があり、ホークブルク家から使者がくる運びとなった。
俺としてはブルートの顔を立てただけで、誰が来ようと何も期待しちゃいない。
和平交渉のアリバイ作りに過ぎず、決裂した時点で一気に攻め込む。
俺と仲間達を納得させるような停戦条件を出せば別だが、まず無理だろうな。
取りあえず会談の準備はしておく。
――数日後。クララの船がまたやってくる。
これは前もって聞いていた。ブルートの事務所が仲介役だからな。
俺が基地のモニターから見ていると、船から降りてきたのはたったの三人。
二人は見知った顔だが、使者が女一人だけで驚く。十数人くらい来ると思っていたからな。
今回は離発着場に、機甲羽衣をまとった兵士達を完全武装で整列させていた。
威圧するためだったが、ハイネックドレスを着た女はビビった様子もなく、堂々とこちらに歩いてくる。
かなり若いように見えるが、かなり肝は据わっているな。第一印象は合格としておこう。
相当な覚悟がないなら、俺が交渉する価値はない。
迎賓室で待っていると、三人が入ってきたので、俺は椅子に座るようすすめた。
そして笑いながら言う。
「会談の前に少し雑談をさせてくれ。二人がまた来るとは思わなかったぞ。クララ先生は脅したんで、もう二度と近寄らないものだと思っていた」
「はい、今回はサポート役としてきた次第です。仕事なのでえり好みはできません。またココの食事が忘れられなかったので、食べに来ました」
「僕も操縦士として、アンダー交渉事務所に再就職したのでやって来ました。また美味い鰻を食わせてください、司令」
「はっはははは! 分かった、ココにいる間はごちそうしよう」
柔和な顔はここまで、俺は使者の女に険しい表情を向ける。
会談の始まりだ。
「改めて名乗ろう。総司令のアラシ・テンマだ。隣にいるのは獅堂静香と東雲志乃で、俺の両腕を務める、もっとも信頼できる部下だ」
二人は無言で会釈して何も言わず、使者に怪しい動きがないか警戒している。
前に拳銃をぶっ放されてるからな。女はスッと立ち上がり、優雅に挨拶をしてくる。
「初めましてアラシ司令。私は現当主エドワードの孫で、ホセリア・ホークブルクと申します。本日は交渉の機会を頂き、誠にありがとうございます。まずは愚兄が犯した非礼と罪業について、一族を代表し深くお詫び申し上げます」
ホセリアは頭を下げた後、着席した。俺はまず話を聞くことにする。
「まず愚兄ですが、一族の管理下にある氷惑星に閉じ込めてます。ここは身内の犯罪者を収容する監獄星で、宇宙座標をお伝えしておきます」
クララから宇宙図のタブレットが渡されたので、確認してみる。
「うちの惑星も中央から外れてますが、ココはさらに僻地ですね。かなり遠い」
志乃が感想をもらし、静香はうんうんと肯く。恐らく嘘は言ってないだろう。
ただ始末しに行くには、コストと時間がかかりすぎるので、行く気は失せた。
ホセリアは続ける。
「もちろん、これで許されるとは思っておりません。アラシ司令は何をお望みでしょうか?」
「じゃあ、当主の首をもらおうか?」
いつものように俺は意地悪をする。こんな無茶な要求を飲めるはずもなく、相手の反応を見るのが目的だ。
この程度であたふたするなら、交渉を打ち切るつもりでいた。
ところが、ホセリアは顔色も変えずに言い返してくる。
「それで停戦していただけるのであれば、喜んで祖父は来ると思います。死ぬのは覚悟しております。その前に、天女団の皆様を説得する機会を、どうか与えてはいただけませんか? アラシ司令」
「なっ⁈ 仲間達の賛同を得ようというのか? どうやって⁈」
気づけば、俺の方がホセリアに気圧されていた。
その瞳には決意が宿り、完全に腹が据わっていた。覚悟が違う。
とても箱入り娘とは思えない。これは甘く見過ぎていたな。
「物になるかもしれませんが、その前に『利』を示し、皆様の賛同を得たいと思っております」
俺は少し考えてから言った。
「……いいだろう。やってみるといい。それで仲間達が納得するなら、ホークブルク家と停戦しよう。ただし期間は一か月。あと仲間達の六割……いや七割が賛同するのが条件だ」
「ありがとうございます、アラシ司令。それでは八割の賛同を得て、ご覧に入れましょう。八割の支持を集めてこそ、停戦を求める資格があると考えます」
「そ、そうか。俺は反対を強制しないから、あとは志乃と静香に任せる」
「了解しました」
自ら不利な条件をつり上げてきたので、俺は驚くしかなかった。
六割でも厳しいと思うのに、更に引き上げるとは思ってもみない。
交渉は少しでも自分達を有利にするのが普通だが、自暴自棄になってるようには思えなかった。ホセリアには何か勝算があるのだろう。
今日の会談は、俺の負けと言っていい。
あとは成り行きを見守るだけだ。どうなるか、少し楽しみになってきた。
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