ホークブルク家
「傭兵団の情報に感謝する。お陰で壊滅作戦は大成功した。もし事前情報がなければ、苦戦していたかもしれん」
『気にするな。俺との約束を反故にした、ガルバスへの仕返しにすぎん。ところで、これからどうするつもりだ? アラシ』
ブルートは険しい表情で聞いてくる。恐らく、俺の次の狙いを察したのだろう。
ガルバスは仕留めた。しかし、まだ敵は残っているので、そいつを片付けない限り安心はできない。
「ガルバスはあの世へ送ったが、俺達を始末するように、依頼したバカがいるよな? そいつを八つ裂きにする予定だ。確かホークブルク家だったか? 貴族だろうが、財閥だろうが、邪魔してくるなら全て叩き潰す!」
『待ってくれ! アラシ‼』
ブルートは大声をあげ、しかも頭を下げてきた。
俺は話を聞くしかない。
『現当主のお館様は本当に良い方で、私財を投げ打って、宇宙の復興に尽力されている。今回バカをやらかしたのは、一族の中の一人に過ぎん。無論、天女団として許せないのは分かっている。だが、詫びを入れる機会をもらえないか? 俺が連絡を取って交渉しよう』
俺は即答した。どうせ出撃準備に時間がかかるから、話だけは聞いてやろう。
抹殺予定は変わらない。
「分かった、ブルート。戦友であるアンタの顔を立てよう。借りもあるしな。ただし俺達が納得できなかったら、即戦争だ。つけ加えておくが、俺達に人権はなく、どの国も守っちゃくれない。だから自分の身は自分で守る。そして敵と判断したら、徹底的に叩き潰す! それが大国であろうとな」
俺は吐き捨てるように言った。
『ああ、決して悪いようにはしない……』
青ざめたようにブルートは見えた。子供の俺がそんなに恐く見えたのだろうか?
よくわからん。俺は通信を切り、家路を急ぐ。
――中立惑星、カロリーゼ。
巨大商業惑星であり、その中心部に名門ホークブルク家の本邸があった。
当主のエドワード・ホークブルクは、執務室で寝る間も惜しんで働いていた。
ブルートの言うとおり、無償での復興支援をしている。忙しい中、執務室の扉が静かにノックされた。
「失礼します、お爺様」
入ってきたのは、秘書を務める孫娘の女性だった。
「どうした? ホセリア」
「ブルート様より、至急お話ししたい件があるとのことで、お時間を頂きたいそうです」
「……めずらしいな、これは何かあったな。午後からの予定を空けておこう。お前も同席するといい」
「はい」
二人は昼食を済ませた後、屋敷内の通信応接室に入った。これで盗聴はされない。
やがて、ブルートの立体映像が映し出される。
「お久しぶりです、お館様」
「お前に護衛してもらってた、昔が懐かしいな。あの頃は孫も世話になった。それで今日はどうした?」
「少し長い話になりますが、一大事ですので良くお聞きください。まず、ガルバス傭兵団が壊滅しました」
「あの悪名高い武装集団が消えたと言うのか? ガルバスを含め、かなりの武力があったはず。やったのは、どこの軍だ? 連合共和国ではあるまい?」
「ええ天女団という無名の軍隊で、その成り立ちは……」
ブルートの話を聞くにつれ、エドワードの顔がこわばっていく。
そしてホムンクルス製造に出資した一人に、自身の孫が含まれていたことを知る。
「何という愚かな真似をしでかしたのだ、あの馬鹿者は!」
非人道的な行いに、エドワードは思わず机を叩く。
ホセリアは冷静に聞いていて、ブルートは続けた。
「それを無かったことにしようと、ガルバス傭兵団を差し向け、返り討ちにされた次第です。天女団の次の報復対象は、あなたの孫とホークブルク家です」
エドワードは頭を抱えて嘆く。
「嗚呼、家貧しくして孝子顕る、家富て愚息現るか……この場合孫だが。だが、よく知らせてくれたブルート。あとで謝礼を贈ろう」
「ありがとうございます、お館様。ですが、まだ話は終わってません。お話した通り、天女団は金や物では動かず交渉は難しい。そして一番恐ろしいのは、総司令であるアラシ・テンマ」
「そ、その名は、まさか⁈」
「ええ、宇宙最強エスパーです。姿形は少年になってましたが、まず間違いないでしょう。うちのクララに聞いたところ、弾丸を防いだそうです。力は落ちているかもしれませんが、脅威に変わりありません。立ち塞がる者は、容赦なく倒されるでしょう」
エドワードは額を押さえ、ため息を漏らす。
過去のアラシの戦闘映像を見たことがあるので、その恐ろしさは十分理解している。
これ以上ないほどの、危機的状況だった。
「最悪だ……竜の逆鱗に触れてしまった。うちの私設軍隊では相手になるまい。自然災害と戦うようなものだ。我が一族は滅びる……」
エドワードはすっかり落ち込んでしまう。絶望の未来しか見えなかった。
そんな祖父を励ましたのは、孫のホセリアだった。微かな希望は、すぐ側にいた。
「大丈夫ですよ、お爺様。ブルートおじさん、司令と話し合う機会はありますよね?」
「ふっ……ああ、お嬢ちゃん。アラシには進軍を待ってもらっている。まだ時間はあるが、交渉できる機会は一度きりだ」
ホセリアはブルートと幼い頃会っており、親しみを込めて昔の呼び方をした。
ブルートは笑みを浮かべ、頭の良い子が何かやってくれると確信する。
「分かりました。それでは相談して、交渉の準備を進めますわ。ブルートおじさんには、仲介をお願いします。それと天女団と接触された、クララさんとお話をしたいです」
「分かった。用意ができ次第、またこちらから連絡する」
「よろしくお願いします」
ホセリアが頭を下げ、バーチャル通話は終わった。
黙ったままのエドワードに対し、ホセリアは言った。
「お爺様、私に交渉を任せていただけませんか?」
「……それは構わんが、何か良い考えがあるのか?」
「いえ自信はありませんが、なんとかしないと、宇宙がなくなってしまいます。これは私達だけの問題ではありません」
「どういうことだ? ホセリア」
「もし、アラシ司令が共和国に報復を開始したら、加盟惑星全てが破壊されるでしょう。今の連合に抗う力はありません。そうなれば人類は終わりです。帝国も残るかどうか……」
「ああ……そういうことか。我が一族は、連合にも帝国にも根を張っている。愚か者一人のために、全てを失うなどあってはならん。このままだと未来永劫、我が家は呪われるだろう」
「はい。ですのでこの身を捧げてでも、荒ぶる神を鎮めたい。せめて宥めたいのです。神話にある人身御供ですね」
「ほっ、賢孫もおったか。しかし、お前を犠牲にするような真似はしたくない……」
「いえお爺様、これは我が家の宿命でしょう。もともとホークブルク家は、財もなく武力もなく、婚姻で勢力を広げてきました。一族に生まれる男は馬鹿ばっかりなので、他家から優秀な婿を、代々迎えてきたではありませんか? お爺様のような方を」
「はっはははは! そうだったな」
エドワードは笑って照れ隠しする。そしてホセリアが頼もしく見えた。
この孫娘ならやってくれるだろう。
「分かったホセリア、この宇宙の命運はお前に託す。必要な物は何でも用意する」
「はい、私はアラシ・テンマの花嫁になります」
ホセリアはニッコリと笑った。
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