蟻地獄
◇◇◇
ドアは開いたものの、しばらく待っても誰一人として降りてこない。
不審に思った管制室の連中が、船へ通信を入れた。これに操縦士が答える。
「おい、どうした!?」
『あ、はい。その……女達を降ろそうとしたところ、暴れられて手こずってるようです。できれば手を貸していただけませんか……?』
「ちっ! 何やってやがる。しょうがねぇ、今行ってやる」
数名の男達が昇降デッキを渡り、無重力区画を蹴って船内へ入っていく。
………
……
…
それからしばらく経っても、戻ってくる者は誰もいなかった。
流石に妙だと思い、残った男らは警戒する。
「おい? 何してんだ!」
『そ、それが、今度は船内で罰とばかりに、ヤりはじめちゃいました……』
「……ったく、どうしようもねぇ奴らだな」
「どんだけ女に飢えてんだよ。基地にもいるのによ」
「馬鹿野郎が、まずは頭に献上するのが先だ! 勝手に手ぇ出したらぶっ殺されるぞ!」
聞いた管制室長は深々と頭を抱えた。
仲間達は身勝手なので、その行動に疑いの余地はない。さもありなん。
「もういい、俺が行って止める! 何人かついてこい!」
「へいへい」
気だるそうに返事をした男達が、ぞろぞろと管制室を後にする。
こうして残ったのはたったの二名。
管制室長らが薄暗い船内へ踏み込んだ、その瞬間――
「…………ぐっ」
潜んでいた数人の女兵士が一斉に飛びかかり、管制室長は口を押さえつけられ、抵抗する間もなく、電磁ナイフを喉や急所に突き立てられる。
他の者も同じように、声を上げる間もなく絶命した。
船内は蟻地獄。一度足を踏み入れれば最後、生きては出られない……。
そして、一つの影がハッチから音もなく飛び出した。
あまりの速さに監視カメラが捉えられない。その影は迷いもせずに、管制室の中に入った。
「なんだあ? …………がっ!」
「ぐはっ!」
「神拳……」
残っていた二人が一瞬で殴り倒され、そのまま動かなくなった。
続いて監視モニターの映像が、次々とブラックアウトしていく。
影は手際よく警報装置のスイッチも全て切った。
その頃、自室にいた頭は、苛立った様子で内部モニターを見ていた。
「おい、どうなってやがる!」
しかし返答はない。
直後、館内放送が基地中へ流れ始めた。
『監視システムに障害が発生しました。復旧まで、しばらくお待ちください』
聞いたことのない声に首をかしげるも、管制室に様子を見に来る者はいなかった。
「さあ、お祭りの始まりだ!」
影……アラシは室内で不敵に笑う。
放送を合図に船体各所のハッチが一斉に開放され、機甲羽衣をまとった団員達が、無重力空間へ次々と飛び出した。
隊列を組み、それぞれ割り当てられた制圧ポイントへ向かっていく。
基地内の構造は、事前に把握済み。
さらに機甲羽衣のバイザーには、内部マップとナビゲーションが表示されており、迷う心配もない。
「八雲隊、動力部の制圧に向かう……」
「月城隊、通信室へ向かうであります」
「天羽隊、武器保管庫を確保する」
各隊がそれぞれ、割り当てられた区画へ散開する。
天女団は軍隊蟻のように、素早い動きで基地内部を侵食していく。
一方その頃、傭兵団の男達は酒をあおり、博打に熱中していた。
自分達のアジトに、死神達が静かに入り込んでいるとは夢にも思っていない。
そしてついに、男と女が出遭う。
「なんだ、お前ら⁈ ――――ぐはっ!」
「て、敵…………」
暗灰色の機甲羽衣を見たのが彼らの最後だった。
「重力ブロックに到達しました」
『よし、発砲を許可する。敵を視認次第、排除しろ。容赦するな! ただし捕虜を発見した場合は最優先で救出せよ』
「了解」
静香の命令で、隊員達は背中にあった自動小銃を引き抜き、一斉に構えた。
重力を感じ、いつもの感覚が戻ってくる。床を踏みしめ通路を一気に駆け出す。
「いくぞー!」
「おおっ!」
女達は手前の部屋から順番に突入していく。
扉が勢いよく開かれ敵と見た瞬間にトリガーが引かれ、男達は反撃する間もなく、次々と倒されていった。
男達の武器は手元になく、パワードスーツすら装着していない。
完全な奇襲攻撃だった。
「ぎゃああああ!」
ゴロツキ達の断末魔が、基地内に木霊する。慌てて武器庫に行っても、そこはもう制圧されていて、待ち構えている天羽隊に撃たれるだけ。
待ち伏せの罠である。
「くそっ! なんで警報が鳴らねえんだ!? 何処ともつながらねえ!」
「管制室は何やってやがる! 監視カメラも何も映らねえぞ!」
ようやく敵襲に気づき、武器を手に反撃へ出る者達もいた。
しかし状況が全く分からず、他エリアとの通信も途絶しており、完全に分断されていた。
いや仮に連絡が取れたとしても、応援が来ることはなかっただろう。
どの区画も天女団によって制圧されつつあり、各所で激しい戦闘が発生していたからだ。
「「「ぎゃああああ!」」」
狭い通路で、悲鳴の大合唱が響き渡る。
男達はパワードスーツを装着し、電磁ナイフで必死に応戦したものの、短槍の間合いには届かず次々と貫かれていく。
電磁槍――伸縮式で、その槍先は高密度の電磁パルスをまとっていた。
一撃を受ければ電子機器は焼き切れ、装甲すら高熱で融解する。
どれほど高性能な新型機だろうと、関係なかった。
「ふんふんふ〜ん♪ ……もう終わり? なんて弱い」
鼻歌まじりに電磁槍を振るったのは、八雲弥生。
彼女は『武装百般』とあだ名され、槍、ナイフ、銃、格闘に至るまで、あらゆる武器を使いこなす戦闘の天才だった。
さらに指揮能力にも優れ、天女団の中でも危険人物として恐れられている。
「……八雲隊長、私達にも獲物をくださいよ」
後方にいた隊員の一人が不満を言う。
弥生が強すぎるせいで、敵が次々と片付いてしまうのだ。
「……うん、わかった」
そして彼女らが通り抜けた通路は、敵の血で染まり、床は死体で埋めつくされた。
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