同じ捕虜でも待遇差がひどい件
人の気配がなくなると、男はおもむろに見張りの女に話しかけた。
「なあ……アンタ。とっておきの情報があるんだが、知りたくないか? これはアンタの手柄になるぞ」
「本当か?」
「ああ話すから、この縄を切っちゃくれねえか? 喋るにも痛くてたまらん」
「いいだろ」
見張りがナイフで縄を切ると、
「ありがと、よっ!」
男はいきなり、腹めがけて拳をくりだす。見張りを倒して逃げ出す算段だった。
手柄に釣られて騙された女を、出し抜いたつもりだったが、
「ぎゃあああああ! いてええええ!」
男は拳を押さえながら、のたうち回る。合金に覆われた腹部を思い切り殴れば、指の骨を折るのは当たり前。
見張りの正体は女アンドロイドで、この騒動は俺が仕組んだ芝居である。
いかに男が卑劣な存在であるかを、部下達に教えるのが目的で、隠しカメラで全員が様子を見ていた。
ロボットと気づかなかった馬鹿男を、アンドロイドがつまみあげて指示を仰いでくる。
「司令、コイツをどういたしますか? 殺しますか?」
『尋問するから、そこまではしなくていい。だが逃げようとした罰として、腕を軽く折っとけ』
「了解しました」
アンドロイドが無造作に男の腕を強く掴むと、ボキッと音がして男は悲鳴を上げる。
「ぐぎゃああああっ‼」
『皆、見ての通りだ。ゴロツキに「反省」という二文字はなく、懲りることを知らない。男はジャングルの野獣と思え。ただ草食系の操縦士は客室に案内して、美味い飯でも食わせてやるといい。素直に協力するはずだ。馬鹿男の方は徹底的にやれ、狂華。ただ死ぬとマズいから「火釘」だけでいい、それで十分だ』
「任務、承りました。今度は上手くやってみせます!」
殴打や刃物を使った拷問だと、死ぬ確率が高いので、俺は別の方法を指示する。
急所や太い動脈を避けて、長い釘を身体に打ち込みライターで炙ると、熱せられた金属が体内を焼いて苦しむことになる。
死にはしないが火傷は治らず、放っておいても痛みは続き、治療しなければ壊死する。
これに耐えられるはずもなく、馬鹿男はあっさり口を割った。
二日後、操縦士は船の艦橋にいた。
「定時報告、殲滅作戦は順調です」
『そうか……ん、他の奴らが見当たらねえな? どこに行った?』
「それは、あの……皆様、お楽しみ中です……」
『ちっ! そういうことか。上手いことやりやがったな、俺も行けばよかったぜ。土産を忘れんな、と伝えておけ! いいな⁈』
「わ、わかりました」
傭兵団本部との通信は切れた。隣にいた俺は操縦士を褒め称える。
「よくやってくれた! これでアイツらは油断するだろう。うな重を昼飯に出そう!」
「ありがとうございます。アレ、美味しいですからね」
食い物などで買収した結果、操縦士は味方になってくれた。拷問するだけが手段ではない。
傭兵団での扱いは酷かったらしく、彼はかなり苛められたそうだ。
それでも金を稼ぐために我慢していたが、部隊が全滅したとなれば、もはや従う理由もない。
俺は船内にあった金を丸ごと彼に渡し、片が付き次第、自由の身にすると約束した。
「い、いいんですか⁈ これだけあれば、家族が助かります!」
「ああ、俺達に金は必要ないからな。その代わり、最後まで付き合ってくれ。その腕を見込んでのことだ」
「わかりました。僕も少しくらいは、アイツらにやり返したい。安い給金でコキ使いやがって!」
彼は拳を握りしめて言ったので、信用できるだろう。
そして船の操縦技術やコツを、惜しみなく教えてくれた。現在の航路情報もだ。
経験と知識は金では買えないので、本当にありがたい。これで殴り込み作戦が捗る。
やはり、人の恨みは買うものではないな。一連のやりとりを見ていた仲間達も、しみじみと感じたようだ。
クララも客人として扱ってるので、待遇に問題はないはずなのだが、頼んだ仕事で少し悩んでるようだった。
そこで声をかけてみたが、
「部下達が何かしたか?」
「いえ、大丈夫です……大したことでは……ないです」
とだけ答えて口を噤んでしまう。言いたくないこともあるだろうし、俺はそっとしておくことにした。
あと数日で解放するしな、所長との約束は守る。
そして司令室に、狂華が報告にくる。
「洗いざらい吐かせました」
「よくやってくれた、狂華」
「ありがとうございます、司令!」
褒められて、狂華は嬉しそうにしていた。どこか恥じらいを見せる乙女である。
もっとも尋問の最中は性格は一変し、とても人には見せられないが。
「となると馬鹿男は用済みだな、アンドロイドに始末させるか」
刃向かってくる奴を生かしておいても、ろくなことにはならない。
情けをかけたところで、いずれ復讐に来るだけなので消すことにした。
「私どもで、やりましょうか?」
「いや、もう汚れ仕事はやらなくていい。時間の無駄だし、お前達に余計な負担をかけたくない」
「了解しました、失礼します…………やさしい」
狂華は嬉しそうにしながら、司令室を出ていった。なぜだ?
俺は作戦立案で忙しくなり、男のことなど頭から消えていた……。
◇◇◇
狂華は上官である、志乃に報告していた。その隣には静香がいる。
「そうか……我らがPTSDになるのを、司令は心配してくださったのだな」
「今まで散々殺し合いをしてきて、何ともないから、私達は精神が崩壊しないように作られてるんでしょ。アラシは気にすることないのにね」
「むしろ獣をさばくほうが、精神的にきついです」
「まったくだ!」
三人は笑った後で、目つきが変わった。
「アンドロイドにやらせるわけにはいかんな」
「ええ、ケジメは私達の手でつけないと収まらない。サブ・マスター権限で止めましょう」
「みんな、馬鹿男を始末したがってます」
ちなみにジョンはトドメを刺され、とっくにあの世行き。
天女団は自分達を殺しに来た、ガルバス傭兵団を許せなかったので、残った男も無残な死を遂げることになる。
誰がやったかは不明で、無数の傷跡だけが身体に残っていた。
男のことなどすぐに忘れ、静香と志乃は目の回るような忙しさだった。
「先の防衛戦もそうだが、作戦参加希望者が多くて困る。もう時間もないのに……」
「みんな手柄をあげたいからね。アジト殴り込み部隊の人選が大変……頭が痛いわ」
二人は頭を悩ましていた。
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